日本経済、バブル崩壊からの復活と中国への教訓(2)(中)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は6月20日発刊の第357号「「日衰・中隆」から「日隆・中衰」への必然性の分析(2)~日本経済、バブル崩壊からの復活と中国への教訓~」を紹介する。対外余剰が日中のバブル形成の原因になった
この対外黒字体質の定着、恒常的貯蓄余剰が日中経済に大きなゆがみをもたらした。本来であれば国内需要の増加により対外不均衡が是正されるべきであるのに、短期間での内需拡大は不可能であった。対米黒字の積み上がりが、日本や中国における通貨の過剰発行をもたらし、その後の不動産バブル形成の原因になったことも銘記されるべきであろう。日中の対外経常黒字(対GDP)と家計債務(対GDP)の推移を見ると、日本、中国ともに、両者の連動性がうかがわれる。
ドル散布は米国国内でも機能した。米国の輸入依存度は1970年代初頭のニクソンショックまでは10%にとどまっていたが2010年以降8~9割に達している。かつて衣料品もテレビも自動車も大半を国内でつくり自給自足体制であった米国経済が大きく開放化されたのである。これにより製造業の空洞化か進んだが、それはIT、サービスなど新たな産業と雇用の勃興によりカバーされた。別の観点から見れば、米国製造業の空洞化が米国での産業構造の高度化を推し進めたともいえる。
誰が大統領になってもドル覇権堅持は必須
米国消費もこれによって増加した。1970年代初頭、米国消費のGDPに対する比率は60%であったが50年後の2023年、この比率は68%へと大きく上昇した。安価な輸入品により米国消費者の実質購買力が押し上げられたことが 寄与している。
この対外債務の積み上げをともなう米国経済の成長と生活水準の向上は健康なものか、持続性があるものかが問われるが、それはドル覇権が維持されるかどうかにかかっているだろう。米国が積み上げた対外純債務は過去の経常収支赤字額累計で15兆ドル、対外資産負債残高に記録される対外純債務(net international investment Position)では18兆ドルと巨額である。この返済を直ちに迫られればドルは急落し、米国は大インフレに陥る。
しかし、ドル覇権の維持がたしかであれば、対米債権はドルという通貨保有であるから、返済を求める必要がなくなる。つまり米国国民の生活水準を維持するためには、ドル覇権を持続することが必須であるという論理が成り立つ。
(3)日中の4つの相違点・・・・改革した日本、先送りを連発し続ける中国
日本のバブルは帳簿上で完結、中国バブルは過大な実物投資を惹起
一方、日中の経済発展とバブル形成に関して、4つの相違点が指摘される。最も大きな相違点は、日本のバブルは銀行の過剰融資による帳簿上のバブルと不良債権の形成であったが、中国は不動産バブルで高められた購買力で実物資産に巨額の過剰投資をしたこと。中国はこれから設備・インフラ・不動産の稼働率の大幅な低下に直面するかもしれない。
第二の相違点は、日本のバブルはもっぱら国内の過剰貯蓄によってつくられたのに対して、中国は巨額の資本流入が国内投資を加速させた点。
第三に日本も中国も大幅な経常黒字の結果、対外資産が積みあがったが、その運用に大きな違いがある。
第四の最も本質的な相違は対米態度かもしれない。軍事的に従属している日本は、米国に屈服し米国流のビジネスモデルを受け入れた。中国は米国への対抗を強めているように見受けられる。
以下それぞれについて見て行こう。まず第一の相違点について。中国は固定資本形成のGDP比40%超という歴史上例のない投資主導経済を20年にわたって続けてきた(図表5)。この投資主導経済の実態はコスト先送りによる需要創造である。投資とは会計的には支出し(=需要を創造し)、コストを資産計上によって先送りするという危険をともなう行為である。建設された設備や構築物が有効に活用できないものであれば、不良資産の山をつくり続けることになり、非常に大きなリスクをともなう。
固定資産投資による経済成長を続けてこられた背景には、土地の錬金術があった。地方政府が土地利用権を売り、その売却代金が地方政府の収益の四割を占めたことで、地方政府は極めて収入が潤沢になった。そうした潤沢な資金をインフラ投資やハイテク企業への支援に向けることができた。この成長パターンは、バブルが崩壊し、地方政府による土地利用権売却収入が止まると維持できなくなる。そして、今その崩壊が実際に始まったのである。
投資とは逆に過去40年間に個人消費対GDP比は53%から38%へと15%低下し、消費が投資を下回り続けたことも異例である。投資の落ち込みは消費の増加でカバーするしかないが、バブル崩壊と習近平政権の奢侈を非難するイデオロギーは家計の防衛的貯蓄の引き上げに結び付き、一段と経済活力を奪っていくことが想定される。
(つづく)
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