2024年07月03日( 水 )

30年で変化、多様な表情の「唐人町」(後)

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 福岡市中央区の西北部に位置する唐人町周辺は、古くから住宅街として発展してきたまちだ。しかし、この30年ほどの間に地行浜に「みずほPayPayドーム」や「MARK IS 福岡ももち」などの複合商業エリアが形成されるなど大きな変化がみられた。「こども病院跡地」の再開発も控え、今後もまちのかたちはさらに変化しそうだ。

計画見直しも?こども病院跡地再開発

 23年1月、こども病院跡地再開発について、積水ハウス(株)と(学)福岡大学のグループが優先交渉権者に決定。病院棟(内科総合病院)、健康プラザ、分譲マンション、防災備蓄倉庫も備えたコミュニティハウス、地域の交流スペース・イベントの場となる3つのガーデンからなる再開発プランが示された。分譲マンションは23階建(178戸)と9階建(44戸)の2棟が建設されるという。また、福岡大学は同年7月、付属の西新病院をこの場所に移転させる計画を打ち出している。

 いずれも27年以降、順次開業の予定だが、福岡大学では昨年12月、このプロジェクトの推進役であった朔啓二郎氏が学長選挙で落選。学内ではプロジェクトの見直しに関する議論もあるといい、計画の先行きが不透明になっている状況だ。同跡地は敷地面積が約1.7haと福岡市都心部では希有な広さを持つ土地であり、かつこども病院移転からかれこれ10年以上が経過しており、福岡市や周辺住民にとってはこれ以上再開発が延期されることには納得がしづらい状況だろう。

 唐人町地区とよかトピア通り、ホークスとうじん通りを挟んで立地するのが、福浜地区、地行地区だ。前者は埋め立てにより形成された街区で、昭和40年代から昭和60年代にかけ数度にわたり造成され、その大部分が住宅地、学校用地(当仁中学校、西日本短期大学)、漁業施設用地などとしての土地利用がされている。住宅地はほぼ共同住宅団地で構成され、このため「福浜団地」と総称されているが、実際には市営団地と県営団地、(独)都市再生機構(UR)による団地で構成されている。また、一部には分譲団地も存在する。1989年の「アジア太平洋博覧会」(よかトピア)開催に合わせ、福岡都市高速1号線が百道浜(早良区)まで延伸された際、福浜漁港など海岸部が整備され、さらに「西公園」の入り口と出口が設置されたことにより、周辺の交通の利便性は格段に向上した。

雰囲気を変えた地行浜の開発

 地行地区はかつて、黒田藩二代目藩主・黒田忠之の時代に足軽の屋敷町だったが、今は中低層住宅が建ち並ぶ住宅街だ。そして、よかトピア通りの反対側に立地するのが地行浜地区。かつては海岸でカブトガニが漂着するような場所であったが、今では埋め立てられ、「みずほPayPayドーム」や「ヒルトン福岡シーホーク」「MARK IS 福岡ももち」、国立病院機構九州医療センター、中国領事館と韓国領事館などが建ち並ぶ。

 地行地区の南西、樋井川と明治通りに面する場所には賃貸マンション「ラクレイス西新レジデンシャルタワー」(29階建、タワー棟206戸、テラスハウス棟16戸)が14年に竣工。この建物も地域のランドマークとなっている。地行地区から見て明治通りの反対側に広がるのが今川地区で、こちらも中低層の住宅街が形成されている。今川地区と地行地区を貫くように走る地行鳥飼七隈線はかつて一方通行であったが、今では2車線道路となり、城南区と中央区などの臨海エリアの行き来がスムーズになった。

 黒門地区と荒戸地区は、福岡市のなかでもとくにマンションが集積しているエリアである。このうち黒門4丁目の大村グローバルビジネス専門学校の隣地、「岩井ホテル」が所在した場所では、同専門学校の5号館、マンション建設が進行している。そして、大濠地区は福岡市内有数の高級住宅街であり、これらと今川地区の大濠地区側では今、複数のマンション開発が進行中である。その代表的な事例が、アメリカ領事館の北側で開発中の積水ハウスによる「グランドメゾン」建設地。近接する大和ハウス工業が開発した「プレミスト大濠2丁目」が全戸の販売額が1億円を超えていることから、この地に建設されるマンションも同等の売値になるものとみられる。

 ところで、唐人町周辺エリアは団地街の福浜校区、商業街の当仁校区、高級住宅街を内包する南当仁校区と、かつては校区によってイメージが異なるエリアであった。しかし、現在ではまちのなかにさまざまな機能が混在する状況となり、その結果、外国人観光客も含む多様な人々が暮らし、行き交うまちに変貌している。この状況は、今後のこども病院跡地の再開発などによってさらなる進展が見られるに違いなく、そうした意味で福岡市のなかでも注目エリアと位置づけられそうだ。

(了)

【田中直輝】

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