2024年12月22日( 日 )

日本経済、バブル崩壊からの復活と中国への教訓(2)(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は6月20日発刊の第357号「「日衰・中隆」から「日隆・中衰」への必然性の分析(2)~日本経済、バブル崩壊からの復活と中国への教訓~」を紹介する。

対外資本流入に依存した中国の成長とバブル形成

 第二の相違点は、日本のバブルはもっぱら国内の過剰貯蓄によってつくられたのに対して、中国は巨額の資本流入が国内投資を加速させた点である。この結果、中国は直接投資などの対外資本依存が高い(図表9)。

 日本の場合、高度成長期からバブル生成と崩壊の過程で海外からの資金流入はまったくなかったのに対して、中国の場合、1992年の南巡講話以降、対内直接投資が急増、巨額の経常黒字とそれを上回る規模の海外からの資金流入が続いた。GDP比5%超となる外貨余剰時代が25年以上にわたって続き、国内投資の原資となりさらにはバブル形成に寄与した(図表8)。

 日中の対外バランスシートを比較すると、それぞれの総資産は日本10.1兆ドル、中国9.3兆ドルとほぼ近似しているが、中国の対外直接投資残高は3.5兆ドルと日本の0.35兆ドルの10倍の規模である。(図表9)

資金流入の急減、外貨不安の予兆

 この外貨余剰時代は急変しつつある。2022年以降、海外からの直接投資、証券投資はほぼ停止したが対外直接投資は増加が続き、資本金融収支は大幅な出超になった。今のところ貿易黒字が高水準を維持しているが、中国からの工場の海外移転、米中貿易摩擦により貿易黒字の減少も予想される。バブル崩壊後の日本には起きなかった外貨不足、為替不安が中国では起きる可能性がある。キャピタルフライトのリスクを内包している。

図表8: 中国外貨流出入(経常収支・純直接投資・純証券投資)対GDP比推移

対外資産運用、高リターンの日本、リターンに無頓着の中国

 第三に日本も中国も大幅な経常黒字の結果、対外資産が積みあがったが、その運用に大きな違いがある(図表9)。日本の対外資産は企業投資と米国国債や米国株など証券投資である。中国は詳細は分からないが、新興国支援やインフラ投資などの比重が高いように思われる。それは将来の投資資産からの果実(リターン)の差、回収可能性の差に結び付くかもしれない。

 日中の対外バランスシートの資産サイドを比較すると、日本は4割が米国国債、米国株式中心の証券投資によって占められている。一方、中国は直接投資と外貨準備の割合が圧倒的である。より大きな違いは、対外資産の運用先であろう。IMFの直接投資、証券投資サーベイによって2022年末の直接投資対象国を見ると、日本が米国、英国、オランダなど先進国が主体で、あとは中国アセアンなどの製造拠点であるのに対して、中国は圧倒的に新興国の割合が高い。

図表9: 日本と中国の対外バランスシート(資産負債残高)比較、2022 年末

 日本の対外直接投資残高はリーマン・ショック後の超円高以降急増、2010年の53兆円が2022年には206兆円へと急増した。この対外投資が日本企業に巨額の投資収益をもたらしている。

 日本の貿易収支は2011年以降赤字に転じたが、蓄積した対外資産により一次所得が大きく増加し、全体として大幅な経常黒字が維持されている。日本は経常収支が大幅な黒字国のなかで唯一貿易収支赤字国となっている。これに対して中国は日本を上回る巨額の対外投資残高を保有しているが、所得収支は大幅なマイナスになっている。また中国は所得収支の赤字が拡大する方向にある(図表8)。

図表10: 日本経常収支の推移

米国に屈服する日本、対抗する中国

 第四の最も本質的な相違は対米態度かもしれない。軍事的に従属している日本は、米国に屈服し米国流のビジネスモデルを受け入れた。この米国への譲歩は、日本における企業のガバナンス改革に帰結し、これからの日本株高、株式資本主義の繁栄を準備しているように見える。他方中国は米国への対抗を強めているように見受けられる。

(4)まとめ

 日本の明るい将来が見えているが、政策の誤りを繰り返すリスク、政策と外部環境ですべてが暗転するリスクがある。プライマリーバランスゼロといった尚早の財政均衡化目標の具体化、ステルス増税、前のめりの金融引き締めが動き始めた民間経済の好循環を阻害する恐れがある。

 一方、中国はバブルがいまだ崩壊していない。日本の土地価格は10年間で4倍になったあと80%下落した。この間、不動産関連融資(建設、不動産、ノンバンク3業態向け)は80兆円増加したが、そのほぼすべてが不良債権化した。しかし、中国はまだ人為的にバブルが維持されている。住宅価格の年収比、上海41倍、北京32倍、深セン30倍、住宅価格年間賃料倍率は60~70倍と世界最高水準であることはまったく変わっていない。従って依然として公式統計上は金融不良債権は発生していない。

 中国では事態改善を狙ういくつかの政策が打ち出されているが、それは適切とは言えず、持続的効果はあまり望めないだろう。第一の政策は過剰投資の継続、対外高競争力分野EV、クリーンエネルギーでの高投資とそれによる世界市場制覇の狙いである。それは中国を一段と孤立化させる。第二はバブル保存、不良債権、過剰投資の隠ぺい、究極の問題先送りである。第三は弥縫策の連発と経済の恒常的衰弱、である。

 今の中国はバブル崩壊から再生した日本の経験に照らし、(1)不良債権処理と金融構造改革、(2)健全な消費振興のための社会保障の充実、財政の役割強化が望まれる場面であろう。

(了)

(中)

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