ロシア支援の中国企業に制裁 今後の日中貿易への影響は
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国際政治学者 和田大樹
ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく2年半となるなか、岸田政権は6月、軍事侵攻を続けるロシアに軍事転用可能な物資を提供している中国企業に対して制裁を科す方針を発表した。
制裁対象となるのは、広州欧賽科技や深圳五力高科創新 など7つの企業だが、日本が中国企業を制裁対象にするのは今回が初めてとなる。中国は当然のようにこれに強く反発し、あらゆる対抗措置を取るとけん制した。しかし、今日までのところ、中国はこれに対する具体的な対抗措置を取っていない。強い不満を抱いているのであれば、何かしらの対抗措置を発表することだろう。早いうちに対抗措置を発表した方が相手に与える衝撃は大きく、効果的な牽制となる。今日、中国の経済、貿易面での対日認識はどういったものなのだろうか。
まず、中国が日本への不満を強めていることは間違いない。その最大の理由は、先端半導体をめぐる覇権競争にある。バイデン政権は2022年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止する観点から、先端半導体関連の対中輸出規制を強化したが、米国単独ではそれを防止できないと判断した同政権は昨年1月、先端半導体の製造装置で高い技術力を誇る日本とオランダに対して足並みをそろえるよう呼び掛け、日本は昨年7月、先端半導体の製造装置など23品目で中国への輸出規制を開始した。
先端半導体やAIなどの戦略物資を重視する中国は、日本が米国と足並みをそろえるかたちで対中規制を開始したことに強く反発し、それはすぐに具体的な対抗措置として実行に移された。中国はその直後、半導体の材料となり、日本がその多くを中国からの輸入に依存する希少金属ガリウム、ゲルマニウム関連の輸出規制を強化し、昨年8月には福島第一原発の処理水放出を理由に、日本産水産物の輸入を全面的に停止した。処理水放出をめぐってはWHOや諸外国は科学的に問題がないという認識で、米中の半導体覇権競争における日本の行動に対する不満の表れと考えられる。
一方、中国には日本との経済・貿易関係を必要以上に不安定化させたくないという考えもあろう。中国経済に以前のような勢いはなく、経済成長率は鈍り、不動産バブルは崩壊し、若年層の失業率は高い水準を維持しており、習政権は若者らの社会的、経済的不満が広がり、その矛先が自らに向けられることへの強い警戒感がある。そういった国内からのリスクを最小化するためにも、習政権としては外資の中国離れを抑える必要がある。
米中対立や台湾情勢、経済的威圧や改正反スパイ法など、中国をめぐっては多くの懸念事項が指摘され、近年諸外国の中国への投資額、投資意欲は減退傾向にあり、今後もそれが続く可能性が高い。しかし、外資に依存する中国経済を長期的に安定化させるためには、可能な限り多くの国々と安定した関係を維持することが求められる。習政権は、保護主義的な姿勢に撤する米国との安定的な経済、貿易関係は望めないと認識していると思われ、その分、日本との間では極力摩擦を最小化したいという考えがあるのだろう。
<プロフィール>
和田大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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