【インタビュー】外国人材法務のスペシャリストが語る、日本の雇用慣行と法制度の問題
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(弁)Global HR Strategy
代表社員 杉田昌平 氏6月、技能実習制度に代わる制度、育成就労制度の新設に関する法改正が参議院で可決された。2027年に運用が開始されることとなり、今後、外国人の労働市場の流動性が高まることが想定される。しかし、外国人材法務に習熟し、関連の問題を専門に扱う数少ない弁護士である杉田昌平氏は、日本人労働者と同様に扱うと法令違反になりかねないと警鐘を鳴らす。企業はコンプライアンス確保のために、出入国関連法令の注意点などを知っておくべきだろう。外国人労働者の国際移動などを含めた現状と今後の展望について杉田氏に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)外国人労働者をめぐる状況
──技能実習制度をどう評価しますか。
杉田昌平氏(以下、杉田) 技能実習制度は諸外国での外国人が働く制度と比べれば、相対的に良い制度だと思っています。たとえばネパールからカタールに働きに行った人が10年間で6,000人亡くなっています。2022年にワールドカップが開かれましたが、スタジアム建設にそれだけ多くの人が亡くなったということで、ボイコットを表明した国もありました。
日本の技能実習制度は酷いと批判されますし、数の問題ではないと承知していますが、安全性の観点から参考として見るに労災での死亡件数は年間5件程度です。他の国では、外国人労働者にハーネスやヘルメットをさせないことが多いですが、日本ではちゃんと付けさせます。OECDが移民政策をめぐり、日本の技能実習制度は実は評価すべき点があるとレビューしたのですが、これは国際機関として初めて正面から指摘したものだと思います。
──円安などの要因もあり、日本に外国人労働者はもう来ないのではと言われていますね。
杉田 直感的にはそう思いたくなるでしょうけど、実際には来続けると考えられます。22年の新規入国者数を見ると、フィリピン、インドネシア、インドからはコロナ前の数字へとすでに回復しています。ベトナムからについてはコロナ前の水準に回復できていませんが、コロナ以前に供給の上限に達していたと思われます。
──ベトナムなどでは中産階級がある程度育ち、海外に行く人自体が減ってきたのでしょうか?
杉田 ある程度所得が増えたほうが海外で稼ぐ人は増えるのです。欧州での研究によると、所得格差がある状況では移民願望は強まりますが、実際にはある程度豊かにならないと働きに行けません。たとえば日本語教育などの職業訓練を受けられる国でないと、日本に働きには来られないでしょう。1人あたりGDPが約2,000~7,000ドルの国じゃないと来ないと言われています。実際、日本に来るのはベトナム、中国、フィリピン、ネパール、インドネシア、ミャンマーからであり、最貧国のバングラデシュなどからは来ていません。タイはすでにピークアウトしていますが、VIPといわれるベトナム、インドネシア、フィリピンが送り出し国として最盛期を迎えており、今後5年はとくに有望です。そこから先10年はインドで、次点がミャンマー、ネパールです。
フィリピンからは年間40万人がサウジアラビアに、27万人がUAEのドバイに行っているほか、インドなども同様の傾向が見られますが、これらの国の賃金は日本よりずっと低く、亡くなる人も多いなど人権が守られていません。しかし、日本より選ばれています。それは、非常に早く、非常に安く行けるためで、1カ月の準備期間と約10万円の費用で行けるのです。来月から親族に仕送りしなくちゃいけない人も行けます。対照的に日本は内定してから約6〜8カ月かかりますし、費用についてはたとえばベトナム人なら1人70万円ぐらい支払っています。それができる中産階級でないと来られないということです。
国が豊かになっていくと、中東産油国から韓国、日本、台湾のような国にシフトしていくと言われており、実際、所得の高い国は先進国に送る数が増えます。これらの国が発展すれば日本行きは減ることはないです。
また日本には特殊な事情があって、未経験の新卒者にもビザを出します。他の国はそうではなく、違和感を抱かれるほどです。国内の労働者の就業機会を奪ってしまうのではと。日本が新卒者にもビザを出すことで何が起きるかというと、他の先進国のゲートウェイになってしまっています。
たとえば英語圏のフィリピンはオーストラリアなどに行くと思われがちですが、2年の業務経験が必要なため、新卒者は行けません。それで彼らは日本に来るのです。先進国日本で業務経験を積んで、帰ってからオーストラリアへ行くと。日本は世界のトレーニングセンター的な位置づけになっているのです。海外に買い負けている状態ともいえ、育成した人を他国にどんどん取られる構造です。これが良いのかどうかは議論があるにせよ、先進国で外国の新卒者を受け入れる国は非常にレアなため、日本に来なくなることは考えにくいです。
──日本の中小企業みたいですね。新卒は採用できますが、大手が中途を取り出してから新卒一括採用が崩れてきて、新卒しか採用できません。ただ、育てたら持っていかれます。
杉田 本当に同じ構図です。育てた分の賃金上昇を3年後に払えなくなり、賃金上昇分を払える国に取って代わられる状態です。
労働者の増加状況は結構衝撃的なものです。22年に日本在住の外国人は307万人でしたが、23年には341万人と1年間で34万人増え、働く外国人も182万人から204万人へと22万人増えました。仮に外国人を1つの県に集めると、10位の静岡県(約355万人、2023年10月時点)と11位の茨城県(約282万人)の間ぐらいの規模です。今年の終わりには都道県府別の上位10位に入ってきます。働く外国人で見ると、新潟県(約212万人)と長野県(約200万人)との間ぐらいです。
年間増加数の34万人は、たとえば奈良市、群馬県前橋市、東京都新宿区の人口並です。県庁所在地、中核都市並の都市が日本で1年に1市、2年だと約68万人で鳥取県、島根県、高知県並みで、1県増えているような状態です。このままいくと45年に外国人住民数が1,000万人を超え、働く外国人は約700万人、住民も働く人も10人に1人が外国人となることが予想されます。
外国人労働者が増えても日本の根幹は変わらない
──移民が増えることについて、保守的な立場から「日本が日本じゃなくなる」という懸念がよく示されます。
杉田 移動のタイプによって見方が異なり、私はある程度までは国のかたちは変わらないと思っています。移動には南北と循環の2タイプがあります。欧米は南北型の移動で、アフリカからフランス、ドイツなどヨーロッパにきて、国に帰らずフランス、ドイツに定住しようとし、中南米から北米へ移動しアメリカ、カナダに定住しようとします。家族のつながりで移動、定住しているという背景もあります。
一方、アジアの移動は昔から循環型で、元の国に戻ると言われており、海外から人がきてその人が国民になるというかたちにはならないというのです。これは、ビジネスとして移民が行われているため、人が還流するシステムとなっているのです。見方を変えれば、たとえば1,000万人のうち約600万人をずっと移動させなくちゃいけないことになるので、モビリティの高い国といえるかもしれません。
戦前の日本はモビリティが高い海洋国家であり、外国への送出機関があって、海外の土地を買って中南米に人を送ると同時に、朝鮮半島などから多くの人がきていました。出入りがすごく多かったのです。
一方、彼らが日本に居つく可能性も低くありません。19年からの在留者数の増減を資格別にまとめたところ、永住者が明らかに増えています。最大の要因は中国人で、留学にきて、エンジニアなどとして就職する人が増えています。それから定住者になり、永住権を得る人も増えているのです。
ベトナムでは韓国は移動先として非常に人気ですが、日本に年間8万人来ているのに対し、韓国には7,000人しか行っていません。韓国は送り出し国ごとに人数の割り当ての枠を決めていて、ベトナム人の韓国でのオーバーステイの比率が約40%と極めて高く失踪者が多すぎるので、厳しめに制限を設けているためです。そうなると、ベトナムの送出機関から見れば、たとえば100人そろえて全員雇ってくれるのは日本しかなく、賃金も高いので魅力的です。韓国は日本より長時間労働率が高いなど、環境が日本よりちょっと厳しい印象です。賃金水準も安全性も日本のほうが良いので、日本に送れるなら日本に送りたいという状態でしょう。
法律の観点からみた外国人雇用の注意点
──中小企業はどのように外国人労働者と向き合うべきでしょうか。
杉田 技能実習制度が育成就労制度に変わりますが、大きな変化の1つとして転籍しやすくなることが挙げられます。技能実習から特定技能への移行時に転職をした外国人の都道府県の間の移動数を算出したところ、意外なことに、茨城県が日本で一番転入者が多いのです。この理由は現在のところわかっていません。
私は実は司法修習を福岡で受けておりまして、もっと選ばれているかと思ったのですが、実際は微減というところです。福岡では転入転出とも非常に多く、首都圏などに出ていく人も多い分、九州各県から吸い上げる構造があります。熊本、鹿児島などは転出が多く厳しい状況です。
彼らが勤務先、居住地を選べるようになったときに、移動しないよう選んでもらう必要があります。一方、解明されていませんが、彼らを引き寄せる独特の仕組み、理由があるとすれば、地域や企業がそれに合わせていくことで、中小企業でも外国人に残ってもらう方法があるのだと思います。他の地域にとっても、茨城にできるなら自分たちの地域もできると考えられると思うのです。なお、茨城にはメロンの産地で中小零細企業が集積する鉾田という場所があり、そこにベトナム人が多いと聞きます。農家の人たちが外国人を差別しないという話が広まって、ベトナム人のコミュニティができているようです。地元の生産者の取り組みによって、そうなっているのだと思います。
国、自治体には、たとえば外国人がどういう場所を選びやすいのかについて調べてもらえたらと思います。中小企業にはなかなかできないことですから。
日本独特の雇用慣行
──外国人を雇用する際に、日本人と同じように扱うと、違法になることがあると聞いています。
杉田 日本人と同じように処理することで問題がよく起きています。外国人を日本人と同じように扱わないといけないと考えるのでしょうが、それで法令違反になってしまうというパターンです。
外国人は在留資格によって働ける仕事、働ける会社が決まっています。それで転職のときに在留要件を変更するなどの手続きが必要なのです。日本では本社で雇ってグループの会社に出向させたりしますが、外国人の場合は手続きしないと不法就労になってしまう在留資格もあります。会社を合併させて次の会社に移す場合も同様です。手続きが必要でないのは日本人の場合だけであることを教えてくれる機関はなく、総務、人事担当者はそれを知らずに外国人を日本人と同じように処理してしまうと法令違反になってしまうことがあるわけです。
──出入国管理および難民認定法(入管法)の内容が古く、現実に即していないのでしょうか。
杉田 日本の人事制度は特殊で、雇用時に何の仕事をするという取り決めをせず、入社後に配置転換するというメンバーシップ型雇用です。これは日本ぐらいのものでしょう。日本の入管法が制定されたのはGHQによる占領期で、アメリカの法律を参考にして制定されています。この仕事はこのポジション、というジョブの世界の概念に基づいていて、日本のように配置転換を多用する国のことは想定されていませんでした。ジョブ型の入管法とメンバーシップ型の日本の人事制度との組み合わせは非常に相性が悪いです。OJTで工場に行っても、グループ内で出向させても不法就労になり得ます。
日本は外部労働市場を使わないで内部だけで何とか対応してきた経緯があります。ただ、日本もジョブの合意のある雇用については合意の範囲からはみ出ることに対して厳しくなってきており、ジョブ型の考え方を少しずつ受け入れつつあります。
また、最近は解雇の金銭的な解決方法について議論されてきており、外部労働市場が発展していく可能性はあります。他方で、コロナのときの雇用調整助成金のように、企業に助成金を出して雇用を維持したまま休業させるというのはある意味で日本的な調整の仕方だと思います。日本の雇用体系、慣行は文化に根ざしていて、そうそう変わらないでしょう。外国人が増えていくなかで、意識して気をつけていくしかありません。
実は日本も戦前はジョブ型でしたが、戦時下に新卒一括採用方式で配置転換を広く行っていくシステムが出来上がりました。小学校を卒業してすぐ工場に就職する方式がきっかけとなり新卒採用方式が広がり、また高度成長期には学卒の人を集団就職させ、学校と職業安定所が全国レベルで需給を調整しました。日本は戦後以降、ジョブで採用する発想に馴染みがありません。
また、日本は1950年代から70年代の高度成長期に外国人労働者をほぼ受け入れずに成長をはたした先進国という点でも特殊です。90年ぐらいまでは中卒・高卒で就職する人が毎年約60万人いて、新卒一括方式で大量の労働力を提供できた戦後の状態に基づいて企業活動の在り方が形成されたのです。ただ、どんどん大学に行くようになり、それ以降は非常に集めにくくなり、2022年の高卒の就職者数は約16万人です。このシフトチェンジにどう対応するかが問題となっています。
生産年齢人口が今は毎年数十万人単位で減っており、それゆえに外国人を雇用するという話になっているわけです。1980年代中ごろまで日本では外国人は全然増えませんでしたが、90年代になって仕事でも観光でも復活する傾向が見られます。ニセコ、白馬のような観光地、また国際金融都市の実現を目指している福岡のような地域にお金と人が集まっており、今後増えていくと思います。
日本経済の強化と海外要素
──日本が相対的に貧しくなっても、外国人が来なくなってしまうわけではないという見方は非常に参考になります。
杉田 そこを見誤って、来てもらうために条件をどんどん低くしすぎているのが現状だと思います。日本の経済力は世界4位。周辺国から見たら普通に働いて稼げる仕事がある国です。
──技能実習生にきてもらうため、待機期間の短縮化などをすべきでしょうか。
杉田 たとえばベトナム人が来るのに8カ月必要なところを短くすればもっと来ると思います。もし1カ月の準備期間と10万円の費用で日本に来られるようになれば、企業として雇うのに困ることはまずないぐらい来るでしょう。
ただ、1つ起こり得る現象があります。日本では技能実習生をめぐり「移民に仕事を奪われた」というようなデモ活動はほぼ行われていませんが、他の国ではそうした活動が起きています。日本で起きていないのは、8カ月待てる外国人しか来られず、監理費などの経費が払える企業しか雇わないからです。しかし、このハードルが下がると、日本のなかでも移民に仕事を奪われたという議論が起きて社会が分断化され、外国人と日本人の間でギスギスした感じになっていくことが懸念されます。
──移民の問題と、省人化、AIなどの施策についてのバランスは必要ですね。
杉田 今外国人が入っている現場をめぐって、自動化を進めないのか聞いたところ、自動化できるものはもう行っており、残っているのは自動化の費用が高すぎて人を雇った方が安いか、そもそもできないという説明をよく受けます。
日本の労働力は増えず、女性、高齢者の順番で活用が進んでいます。ただその労働参加率もほぼ限界まできており、打つ手は外国人しかないという感じだと思います。大手も今高卒を採用しようとしていますが、高卒の採用は人口構造からして難しいのではないでしょうか。
──外国人に関して、日本は経済面のどういう要素で勝負をしていくべきでしょうか。
杉田 日本は世界4位の経済力でまだまだ魅力的です。移民を引き寄せる経済力という意味では、いわばフェラーリのエンジンを搭載しています。ただ、アクセルを踏んでいる人たちは皆誰かがハンドルを握ってくれていると思っていますが、実は誰もハンドルを握っていないのではないかと思います。フェラーリのエンジンをコントロールできるハンドル、たとえばAI技術、自動運転などの分野の高度人材を積極的に集めるとか、たとえば2040年にどの産業でどのような人材を集めたいから、逆算して何人呼び寄せようというかたちで政策を講じているかというと、そうではありません。外国人雇用については政治的に敏感な要素があるため、誰もハンドルを握りたがらず、戦略的に決定をして政策を打ち出すことはしにくいのでしょう。それで行き先が良く分からないという状態が生まれています。
また、税制についても考え方を変えれば、税収の確保につなげることができます。日本は直接税に比べて間接税の比率が低い国ですが、外国観光客が多いフランスなどでは比率が大きく異なります。日本を訪れる外国人観光客はコロナ禍直前に年間3,000万人に到達しましたが、フランスは年間約1億人です。外国人観光客からも間接税で税収を確保できる仕組みをつくっている国は財源の発想の仕方も違います。日本も直接税と間接税の財源比率を変えるぐらいの発想が必要ではないでしょうか。
【文・構成:茅野雅弘】
<プロフィール>
杉田昌平(すぎた・しょうへい)
弁護士、社会保険労務士。(弁)Global HR Strategy代表社員。2007年、慶應義塾大学法学部卒業、10年、同大学大学院法務研究科修了。センチュリー法律事務所、アンダーソン・毛利・友常法律事務所勤務、名古屋大学大学院法学研究科特任講師・客員研究員(ハノイ法科大学客員研究員など)などを経て現職。渉外業務(アジア)、入管業務などを中心に幅広く手がける。東京弁護士会所属。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:杉田昌平
所在地:東京都港区赤坂1-12-32
設 立:2020年12月
TEL:03-6441-2996関連記事
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