2024年11月22日( 金 )

【経済事件簿】留学生拘束事件と留学生ビジネス オーバーワーク黙認と統治崩壊

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(学)宮田学園

 日本語学校「西日本国際教育学院」が起こした留学生拘束事件。本件について、報道では人権問題にフォーカスした論調が見られるが、問題の本質には、政府が推し進める「留学生30万人計画」のもとで、就労を主目的とする留学生を受け入れて成立する留学生ビジネスの実態がある。本誌では留学生ビジネスを派手に繰り広げた宮田学園のビジネスモデル崩壊にスポットをあてる。

留学生拘束事件
一審判決は学園敗訴

 7月3日、福岡地裁は(学)宮田学園が処分取り消しを求めていた日本語学校「西日本国際教育学院」(以下、学院)に対する出入国在留管理庁(以下、入管)の処分について、宮田学園の訴えを棄却する判決をくだした。

 裁判は、宮田学園が運営する学院が外国人留学生の人権を侵害する行為を行っていたとして、2022年に入管が学院を日本語学校の告示から抹消した処分に対して、学園が取り消しを訴えていたものだ。入管の処分を適法と認めた判決に対して宮田学園は、即日控訴を行うことと、改めて処分の執行停止を求める仮処分を申立てることを発表し、争いは控訴審まで続くことになった。

 学院に対する入管の処分が適法とされた場合、少なくとも5年間は再び日本語学校として認められないため、その間、留学生を受け入れることができなくなる。このことは学院だけでなく、学院を中心に留学生ビジネスを組み立てる宮田学園グループ全体の死活問題となる。

宮田学園のビジネスモデル

 日本語学校としての資格が問われている「西日本国際教育学院」は1992年に開校した日本語学校の老舗である。海外から留学生を受け入れることが認められ、入学定員は483名、総定員は926名。学費は1年で84万3,000円、2年だと158万1,000円だ。学院の上位学校として位置づけられる専門学校「国際貢献専門大学校」(以下、大学校)は2014年に開校した。入学定員は390名、総定員は860名。学費は学科によって異なるが学院と同程度かかる。入学生のほとんどは学院からの内部進学である(この点については後述する)。

 宮田学園は学院に入学した留学生を、大学校卒業まで4年間にわたって学費を回収し続けることがビジネスモデルとなっている。コロナ禍直前まで教育活動収入は10億円を超えていた。ほとんどが生徒からの学費だ。その他に学園外の関連企業として、(株)宮田義塾(寮運営)、(株)ライフシステム(学生食堂運営)、(株)ファインプロデュース(労働者派遣、有料職業紹介)などがあり、学校法人が業として営むことができない収益を回収する仕組みになっている。

 それらの収益構造はすべて、日本語学校としての学院の留学生受け入れにかかっており、受け入れができなくなれば宮田学園のビジネスモデルは崩壊する。
 では、なぜ宮田学園はこのようなグループ崩壊の危機を招くほどの行き過ぎた「人権侵害」を行ったのか。

宮田学園の教育レベル 日本語能力試験の合格率

 拘束を受けたベトナム人留学生は2020年12月に来日、現地のブローカーから斡旋された学院に入学した。留学生当人の証言として伝わるところでは、学院に数カ月通学したものの、授業が期待したものとは違ったとして転校を希望した。だが学院は転校の手続きなどの対応を拒否。当人は学院に対して帰国の意思を伝えたようだが、学院は当人が失踪する可能性もあると考えたのか、パスポートと在留カードの提出を求めた。しかし、当人はそれを拒否し、職員による拘束事件に発展した。

 留学生の証言にある「授業が期待したものではなかった」というのは、学院の授業がまともなレベルではなかったということだ。学院の授業については、他の留学生からも日本語能力が身に着くか不安といった声が聞こえており、インターネット上ではまともではない授業の様子を伝える動画なども流出していた。

 当時の宮田学園の教育レベルは日本語能力試験の合格率から知ることができる。18年の受験状況と合格率について、福岡県内の日本語学校(法務省告示校)のうち主要17校(学院を除く)の合格率と比較すると【表】のようになる。表中で最も多くの生徒が受けているN3は、学院の合格率が17校より著しく低く、教育レベルの低さを裏付ける。それは教育体制としての教員数にも表れており、学院の定員926人に対して18年の教員数(非常勤含む)は48人。これは教員1人あたり生徒数19.3人にあたり、17校の教員1人あたり平均11.5人よりもはるかに多い。

学院卒業生の進路 内部進学100%目標

 このようなレベルの日本語学校を卒業した留学生らの進路はどうなるのか。日本語学校は予備校などと同じ各種学校に当たるため学歴としては認められない。よって日本語学校を卒業しても就労ビザは認められず、在留資格を得るにはそのまま留学を継続するしかない。そのような学生の受け皿として、各地の日本語学校は専門学校を並立している。日本語学校を卒業後、外部のそれなりの専門学校や大学に進む道もあるが、そのためには最低でもN2が必要だ。

 学院にもN1やN2に合格する学生はいるが、大半は日本語能力が未習熟である。学院は指導目標として大学校への内部進学率100%を設定していた。早めに大学校への進学を囲い込むために、進学面談や出願書類の準備をクラス担任や進学担当者がサポートし、外部進学を希望する生徒には内部進学への説得が強くなされた。大学校まで進学して4年間を通して日本語能力を身に着け、合わせて日本での就労ビザにつながる専門学校卒業の学歴を得ようということだ。つまり、日本語能力試験合格率の低さは、内部進学を推し進めるには都合が良かったのである。

留学生募集の実態 アルバイト目的の偽装留学

 このような学校に通う留学生たちが負担する学費は先述の通り決して安くない。だが、高い学費を負担する学生たちが皆、授業に打ち込むために留学してきたかというと必ずしもそうではない。むしろ、学生たちが精を出すのはアルバイトである。

 日本の留学生受け入れ制度では、学費や生活費といった留学費用をすべて日本での就労で賄うことは認められておらず、原則として母国からの支払いで賄うこととなっている。そのことを証明するために、留学前に経費支弁書を日本に提出する。書類には、経費支弁者(留学費用支払者)として留学生の両親や3親等内の親族が記載され、支払い能力を示す証拠として預金残高明細などが添付される。

 学院の18年の学生数を国籍別に見ると、学生数853名のうち、ネパール406名、ベトナム354名で90%近くを占め、スリランカ38名、ミャンマー25名、中国22名、その他8名である。各国の平均年収はおよそベトナムが60万円、ミャンマーが36万円、カンボジア・スリランカ・ネパールが24万円程度だ。彼らが年間80万円の授業料を負担するのは容易ではない。よって現地では、書類を偽造するブローカーが横行し、たとえば一時的な見せ金で必要とされる150万円の預金残高明細を偽造するなどして、留学資格を手配する。
 そこまでして彼らが日本に来る目的は、実質的な就労である。現地の留学生募集では、日本に来ればアルバイトで学費や生活費を賄うことができ、家族に仕送りをすることができるという宣伝が横行している。

 しかし、「留学」という在留資格は基本的にアルバイトを含めた就労が認められていない。入管から資格外活動の許可を得た場合に、1週間28時間に限って就労が認められる。だが、仮にアルバイトの時給1,000円として、28時間の手取りが2万2,400円程度、月4週で9万円程度、年間52週で116万円程度である。母国の資力が期待できない留学生は、制限内で学費を払って生活することは難しい。

 よって資力のない多くの学生は複数のアルバイト先で就業時間の申告を偽るなどしてオーバーワークする。しかしそれは留学生たちにとってリスクがあり、オーバーワークを入管から指摘された場合、在留資格が更新されないなどの罰則の対象となる。また、学生が在籍する日本語学校も入管から目を付けられる可能性がある。だがそのようなリスクがあってもオーバーワークは常態化していた。宮田学園では学生たちのアルバイトをサポートする専任職員がいた。学園としては学費を回収しなければならず、そのためにはアルバイトをしてもらわねばならない。

 コロナ禍前まで、宮田学園の留学生ビジネスは、留学に偽装したアルバイト目的の学生と、在留資格をエサに学費を回収する日本語学校と、アルバイトを必要とする企業と、「留学生30万人計画」を掲げる政府の四方良しで回っていた。

歯車が狂い始めた オーバーワーク大量指摘

 だが、宮田学園のビジネスモデルにも暗雲が立ち込め始める。19年、東京福祉大学(東京都豊島区)で、16~18年度に受け入れた留学生約1万2,000人のうち、1,610人が所在不明であることが判明し大きな問題となる。政府はこの問題をきっかけに同年4月、入国に関する法務省令を改正して、留学生の在籍管理が不十分な学校は留学生の受け入れを認めないという基準の運用を始めた。

 翌20年、コロナ禍で留学生を取り巻く環境が大きな影響を受けるなか、宮田学園は、学院在学時にオーバーワークで入管から指導を受けた学生が大学校で再度指摘されビザ更新を拒否される事案が3件、さらに学院の学生256名が入管からオーバーワークの指摘を受けた。

 同年8月、政府は日本語学校の抹消基準を改正して、全生徒の出席率平均が7割(以前は5割)を下回るときや、留学生の3割(以前は半数)以上が不法在留になったとき抹消すると基準を厳格化した。

 これに危機感を覚えた学園は留学生の在籍管理に神経をとがらせ始めた。学内では、通帳を提出させたり、出席率や授業態度でオーバーワークを発見しようとしたり、また、学内出席率95%を掲げるなどして、在籍管理に血眼になっている。

 だが、そもそもアルバイトを主目的として日本にやってきた「留学生」たちのアルバイトを抑え込むことは難しい。学内での就労管理は基本的に学生の自己申告に頼らざるを得ず、オーバーワークがバレればペナルティがあることを理解しているため、当然オーバーワークを誤魔化そうとする。

 学園はもう1つ厄介な不良学生への対処を行っていた。違法薬物や万引き等の脱法行為、失踪の可能性がある学生への対処だ。彼らは学園にとって大きなリスクであり、それらの学生を強制帰国させるためのマニュアルが存在していた。強制帰国に際しては、学生の部屋に踏み込み、荷物をまとめて貴重品はあずかり、学生は学園の応接室に閉じ込めて軟禁状態にし、学生の問題点を指摘して帰国を説得する。最後は職員のなかで屈強な数名で周りを固めながら福岡空港の国際線まで送り、確実に飛行機に乗せて搭乗証明を得る。

強権統治の破綻から
ビジネスモデルの崩壊へ

 だがそのような強権的な学生統治は、コロナ禍で苦しい状況に追い込まれた学生たちには通用しなかったようだ。

 21年、学園全体で50名を上回る在留資格更新の不許可者を出し、さらに覚せい剤取り締まり法違反で5名の逮捕者も出した。また、学園の事業報告によれば、学生同士の性交渉で妊娠者が続発し、妊娠による退学者が例年に比べて顕著だったとまで報告しており、コロナ禍で学生の統治が崩壊していた状況がうかがわれる。そのなかで、ベトナム人留学生の拘束事件も発生した。

 度重なる違反によって、22年度から学院は非適正校の扱いとなった。3年間連続して非適正校とされた場合、日本語学校から抹消されることとなっている。

 宮田学園の経営者は職員に対しても強権的な姿勢で知られ、元職員は、学園内ではいつも理事長と総長の顔色をうかがいながら働いていたと振り返る。

 留学生30万人計画のもとで、就労を主目的とする留学生を相手につくり上げた宮田学園のビジネスモデルは、政府の基準厳格化とコロナ禍の留学生の苦境に対して、強権的経営を推し進めたことで、留学生拘束事件として世間に露呈し、ビジネスモデルは崩壊に向かいつつある。

【寺村朋輝】


<COMPANY INFORMATION>
理事長 :宮田智栄
所在地 :福岡市南区塩原4-17-17
設 立 :2012年4月
資産総額:(24/3)15億947万7,616円

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