2024年12月22日( 日 )

「円安悪玉論」だけは看過できない~日本経済復活の腰を折るな~(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は7月16日発刊の第358号「『円安悪玉論』だけは看過できない~日本経済復活の腰を折るな~」を紹介する。

円安が巨額の購買力プール(企業利益と税収の急増)をすでに形成している

 今進行中の円安は過去30年間とは逆に、日本企業の競争力強化を引き起こし、日本が産業大国として復活する土台となる。この円安とインフレ(=名目経済成長の高まり)がすでに、企業利益、株価、税収を大きく押し上げている。

 2023年度の法人企業経常利益は108兆円(10年前比2.5倍増)、税収は72.1兆円(10年前比1.6倍)、GPIF累積運用益153.8兆円(10年前比4.3倍)、東証株式時価総額1,004兆円(10年前比3.3倍)と、目を見張る価値創造が実現している。それが2023年に予想される過去最高の設備投資増加、34年ぶりの5.08%の賃上げをもたらし、巨額の購買力のプールを形成している。日本が先進国としては珍しい潜在成長率が高まる時代に入りつつあることは、ほぼ明らかである。「円安悪玉論」は事実によって完膚なきまでに否定されていくだろう。

円安による税収増を
消費者に還元すべし

 確かに、現時点においては円安のデメリットを受け続け、繁栄の波に入れていない個人を救済する必要があるが、その処方は明らかである。インフレによって潤った財政が恒久減税というかたちで、インフレによって富を奪われた国民にお金を返還すべきであろう。

 名目経済率が1のときにどれだけ税収が伸びるかを、税収弾性値というが、諸外国が1.0~1.2であるのに対して、日本は2.6~3.6と異常に高くなっている。消費税増税や社会保険料引き上げという実質増税が続けられてきたからである。このことは原田泰氏の近著「日本人の賃金を上げる唯一の方法」(PHP研究所)で詳しく論じている。そのため期せずして起きたインフレにより税収が大きく増加しているのである。

 増税をしなくても2025年度プライマリーバランス黒字化が達成できそうになってしまったということで、財務省は税収増を隠そうとして躍起になっている。2023年度の一般会計税収は72.1兆円、前年度比1.4%増にとどまったが、これはつじつまが合わない。名目GDP5.7%増に原田氏試算の税収弾性値を掛け合わせると、下限の2.6を用いても10兆円の税収増と計算される。連結決算企業の納税方法の変更などテクニカルな減収要因が編み出され、表面税収が抑えられたとみられる。予算の使い残し(不用額)と税収増により財政余剰金が高まり、国債整理基金が大幅に積み増されている。

 さらに政府にはインフレ税収増に加えて1.2兆ドルに上る米国国債保有にともなう為替益数十兆円が、「埋蔵金」として蓄えられている。円安とインフレ化により日本財政は著しくパワフルになっているのである。

図表3: 一般会計税収での税収弾性値

円安の隠れた原因、緊縮財政

 なお日米金利差の縮小、日本の経常黒字の増加などからドル円レートは160円あたりがピークだと思われる。円安がオーバーシュートした場合には、巨額の財政出動と金融引き締めというポリシーミックスを打ち出し、為替トレンドを一気に円高に転換するという奥の手がある。円安進行には何の心配もないのである。

 そもそも拡張的財政政策とタイトな金融政策は通貨高に、緊縮的財政政策とルーズな金融政策は通貨安になるという経済学仮説(マンデル・フレミング)に基づけば、米国は典型的通貨高のポリシーミックス、日本は典型的通貨安のポリシーミックスを採っていることになる。強力な財政パワーを隠し持っている日本財政出動による高圧経済化を通して容易に通貨安を止めることができる。

図表4:主要国の政府収入弾性値

(了)

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