【鮫島タイムス別館(27)】立憲は本当に勢いづいていたのか? 選挙戦略の抜本的修正を
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都知事選で浮き彫り、立憲と無党派層の断絶
全国的に注目を集めた東京都知事選挙(7月7日投開票)は、国政情勢を大きく変える節目となった。立憲民主党が「党の顔」だった蓮舫氏を擁立し、自公与党から「ステルス支援」を受ける現職の小池百合子氏に挑んだが遠くおよばず、人気ユーチューバーである前安芸高田市長・石丸伸二氏にも敗れて3位に沈んだのだ。
自民党の裏金事件が発覚した昨年末以降、岸田内閣や自民党の支持率が大きく落ち込む一方で、立憲民主党は低迷期を脱して勢いづいていた。4月の衆院3補選(東京15区、島根1区、長崎3区)と5月の静岡県知事選で4連勝し、世論調査では自公政権の継続よりも政権交代を求める声が上回り、久しぶりに政権交代の機運が高まっていたのだ。
ところが、蓮舫氏が惨敗したことで立憲は失速し、政権交代の機運も萎みつつある。NHKの7月世論調査では立憲の支持率は前月比で4.3ポイント下落して5.2%に落ち込んだ。ANNの世論調査では「自公政権の継続」を求める人が4ポイント上がって38%、「政権交代」を求める人は6ポイント下がって43%。政権交代を求める声がなお上回っているものの、潮目が変わったことがうかがえる。
蓮舫氏が獲得したのは128万票。小池氏の291万票の半分に満たず、石丸氏の165万票にも水をあけられた。2年前の参院選東京選挙区で蓮舫氏自身が獲得した67万票と共産党の山添拓氏が獲得した68万票の合計にも届かなかったことは、蓮舫氏が立憲と共産のコア支持層を固めただけで、無党派層などそれ以外の有権者にはほとんど受け入れられなかったことを示している。マスコミの出口調査でも無党派層の支持を最も得たのは石丸氏だった。蓮舫氏も、彼女を全面支援した立憲民主党と共産党も、無党派層から完全にそっぽを向かれたのである。この痛手は大きい。
日本版トランプ? 石丸氏躍進の背景
自民党への逆風がこれほど吹き荒れているのに、立憲はなぜ惨敗したのか。敗因をきちんと分析して立て直さないと、来るべき総選挙でも同じ轍を踏むだろう。
最初の疑問は「立憲は本当に勢いづいていたのか」だ。確かに衆院3補選の全勝のインパクトは大きかった。しかし3補選は投票率が低かった。自民党支持層や無党派層が裏金事件に嫌気が差して投票所に向かわず、立憲と共産がコア支持層を固めて勝利したのだ。立憲と共産が無党派層から幅広い支持を受けたわけではなかったのだ。
今回の都知事選は全国的な注目を浴び、投票率が5.6ポイント上がった。無党派層の支持は石丸氏と小池氏に割れ、蓮舫氏は伸び悩んだ。かつては投票率が上がるほど野党が強いと言われ、今回も蓮舫陣営は「投票に行こう」と呼びかけたが、結果は真逆に出たのである。つまり投票率が上がるほど、立憲や共産はコア支持層以外には広がらず劣勢になるという現実が可視化されたのだ。
出口調査では小池氏は各世代から幅広く支持を集め、石丸氏が10~40代の若者・現役世代で支持を伸ばしたのに対し、蓮舫氏の支持は高齢世代に偏っていた。立憲や共産の支持層が高齢化して若者・現役世代に敬遠されているという野党の弱点が如実に現れたといっていい。
この結果は、裏金事件は自民党への不信を高めたものの、立憲への期待にはつながっていなかったことを示している。世論調査で「政権交代」を求める声が増えていたのも、「立憲政権への交代」への期待感が高まっていたわけではなく、「自民党の退場」を求める機運が強まっていたに過ぎなかったのだ。
石丸氏が大躍進したのは、自民だけではなく、立憲も含めた既存政党に対する不信感を引き寄せたからにほかならない。米国でトランプ氏が民主党だけでなく共和党を含むワシントン政治を否定して大統領にのしあがったように、日本でも自民・立憲の2大政党を中心とする永田町の政治への強烈な拒絶感が広がっている。
蓮舫氏でよかったのか? 知事選を左右する「アンチ票」
立憲敗因の第1は、4連勝で立憲への期待が高まっていると勘違いしたことだ。第2の敗因は、蓮舫氏を擁立したことである。蓮舫氏はリベラル色が強く、立憲や共産のコア支持層には人気が高い。一方、民主党政権時代の「2位じゃダメなんですか?」に象徴される攻撃的姿勢から、保守層や無党派層には拒絶感も強い。このタイプは定数6の参院東京選挙区や全国区の参院比例では熱狂的なコア支持層の後押しで強さを発揮するが、定数1の知事選や衆院小選挙区では「アンチ票」が他候補に流れて苦戦する。
都知事選で現職が負けたことはない。都知事は巨額予算を握る権力者であり、現都政から事業発注を受けたり、補助金をもらっていたり、規制緩和を認められたりして恩恵を受けている人は数多(あまた)いる。彼らは自分たちの「既得権」を守るため現都政の継続を強く願っており、こぞって投票所に向かうのだ。
現職を打ち負かすには、現都政から恩恵を受けていない人々に対して「今の都政は一部の人だけに恩恵を与え、不公平である」と訴えかけ、批判票を掘り起こさなければならない。恩恵を受けていない人はその事実に気づかず、多くは投票に行かない。投票に行っても現職以外の候補(今回は過去最多の56人が出馬した)に票が分散し、恩恵を受けている人々がまとまって支持する現職に到底およばないのだ。
小池批判票の受け皿となるには、蓮舫氏のように好き嫌いが二分する強烈な個性の政治家より、幅広い層が「小池都政は嫌」という一点で抵抗感なく投票できる拒否度の低い人が適している。学者や首長経験者の方が良かっただろう。蓮舫氏を擁立したことで「小池氏も嫌だが、蓮舫氏も嫌」という人々がこぞって石丸氏に流れてしまった。
さまよう民意をつかむのは誰か
以上の敗因の2つは、同じく定数1の衆院選小選挙区にもあてはまる。投票率が上がるほど劣勢になり、アンチ自公票の受け皿になれないようでは、立憲はとても衆院選を勝ち抜けない。抜本的な選挙戦略の修正が不可欠だ。
都知事選と同時に行われた都議補選で、自民党は2勝6敗と惨敗し、裏金事件の逆風がやんでいないことが示された。民意は自民党には戻っていないが、立憲にも向かっていない。どちらも風をつかむ可能性は残っている。
次の勝負は、9月の自民党総裁選と立憲民主党代表選だ。内向きの権力闘争を繰り広げ「古くさい政治家」をリーダーに担ぎ出せば、どちらも無党派層から見放されるだろう。彷徨(さまよ)う民意をつかむのは誰か。9月はこの国の政治の大きな転換点となる。
【ジャーナリスト/鮫島浩】
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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