2024年12月21日( 土 )

円キャリートレード解消で世界の金融市場に激震(後)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

市場環境の変化

 最近まで投資家は、金利がゼロに近い円で資金を調達し、その資金をエヌビディアなどに投資をしてうまみを得ていた。ところが市場に変化が起きた。市場の空気が最初に変わったのは、8月1日に発表された7月のアメリカの製造業の景況感を示す指数の発表であった。また、日本銀行は4カ月ぶりに再度の利上げに踏み切り、8月1日に政策金利を0~0.1%から0.25%に引き上げた。さらに、日本銀行は長期国債の月間買入れ予定額も四半期ごとに4,000億円程度ずつ減額し、5.7兆円程度から26年第1四半期に2.9兆円まで縮小すると発表した。

 その結果、1ドルあたり160円を上回っていた為替レートは、145円となった。加えて、景気後退懸念が一気に膨らみ、世界市場は揺らぎ始めた。円高が今後も続くかもしれないと思った投資家は、投資していた株式などを売り、円をまだ安いうちに購入し、円を償還する動きに出たからだ。しかし、円キャリートレードの解消が金融市場に衝撃を与えると、日本銀行は今後追加的な利上げを行うのが厳しくなるだろうという観測も流れた。

株価暴落は悪材料が重なった結果

世界のお金 イメージ    今月5日、世界の株式市場は大暴落に見舞われた。東京証券取引所も12%程株価が暴落するなど、世界金融市場に激震が走った。今回の株価暴落の原因として景気鈍化の懸念、ビッグテック企業の業績低迷、中東地域の戦争不安、日本銀行の利上げによる円キャリートレードの解消などが上げられている。

 そのなかでも、とりわけ円キャリートレードが主な要因だろうと指摘されている。利上げとともに円高基調となり、投資家は投資資産を売り、調達した円を返す、すなわち円キャリートレードを解消する動きに出たからだ。

 7月の米国の雇用統計は市場の予想を下回ったものの、1987年のブラックマンデー以降最悪の記録である日経指数を12.4%引き下げるほどの状況ではないので、景気鈍化の懸念より、むしろ株価暴落の原因は円キャリートレードであると判断されているようだ。

 ところが、今回発生した円キャリートレードの巻き戻しに対してニューヨークの市場関係者は、円のキャリートレードの巻き戻しはまだ終わっておらず、さらなる株価下落の要因になる可能性があると警鐘を鳴らしている。

 円キャリートレードが世界資産価格の上昇に寄与したかと思うと、いつの間にか世界の流れは変わり、巨大に膨らんだ円キャリートレードは金融市場を揺さぶる「怪物」となっている。

 金融緩和の出口戦略がいかに難しいのか、世界は日本銀行の動向に注目している。世界金融市場は暴落後、すぐに安定を取り戻してはいるが、市場の不安定は当分続きそうだ。米国政府の利下げ動向と日本銀行の推移に金融市場関係者は神経を尖らせている。

(了)

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