【業界を読む ゴルフ場運営業者】2強がリーズナブル市場けん引 バブル終焉で高級コースと二極化へ
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預託金償還問題や集客力の低下などで頭打ちにあったゴルフ業界は、コロナ禍が思わぬ追い風となり活況に沸いた。しかし、2022年4月以降は全国のゴルフ場利用者数は漸減傾向にある。行動制限が解除されて以降、消費者のレジャーへの関心は多様化しており市場環境に変化が生じている。業界をけん引する大手2社の活発な動きを中心に業界は新たなステージを迎えている。
突出する大手2社の事業規模
全国約2,200コースが群雄割拠するゴルフ場業界においてアコーディア・ゴルフとパシフィックゴルフマネージメントは合計で約15%を保有する2大勢力だ。ローコストでリーズナブルなビジネスモデルを構築し着実に傘下コースを増やしてきた。今後さらに業界環境が厳しさを増せば一層存在感を増すと見られる。両社は運営スタイル以外にも類似点が多い。
(株)アコーディア・ゴルフ
ファンドの本領発揮でなりふり構わぬ収益確保
代 表:石井歓
所在地:東京都品川区東品川4-12-4
設 立:1981年9月
資本金:5,000万円
売上高:(24/3)395億2,700万円アコーディア・ゴルフは170以上のゴルフ場を保有する国内トップ企業だ。福岡県では二丈カントリークラブ(糸島市)など4コースを保有する。2021年11月から米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループ(以下、フォートレス)が株式を保有している。
前身企業が1997年に和議申請し破綻した後、米投資ファンドのゴールドマン・サックスがスポンサーに入ったことが業容拡大の転機となった。経営難のゴルフ場を次々と買収・再建し2006年には東証一部に上場した。ゴールドマン・サックスは株式を放出して資金を回収し、17年に日・中・韓ファンドMBKパートナーズ(以下、MBK)がTOBで株式を取得し上場廃止。それをフォートレスが取得した。
フォートレス傘下となって初の通期決算の22年3月期には売上高135億9,200万円に対し30億9,500万円の営業利益を上げている。同利益率は22.8%に上る。主力ゴルフ場はリーズナブルな価格設定や完全セルフサービスの徹底で効率を上げるスタイル。コロナ禍はこの手法が若い世代の新しい顧客層の拡大につながった。23年3月期はMBK傘下時代に兄弟会社の関係にあったネクスト・ゴルフ・マネジメント(株)と統合したこともあり売上高を258億5,000万円まで伸ばし営業利益は64億1,800万円と倍増させている。
24年3月期は西富士ゴルフ倶楽部や鹿児島ガーデンゴルフ倶楽部のグランドオープンなどを進めた。前年ほどゴルフ場数の急増はなかったにも関わらず売上高100億円以上積み増し、単体で400億円目前に迫った。営業利益112億300万円で、同利益率を28%まで引き上げている。キャパシティに限りがあり利益を上げにくいといわれていた業界にあって出色の高水準だ。
ちなみに上場企業でも23年度に営業利益率30%以上を上げたのは100社程度にとどまる。任天堂(31.49%)やZOZO(30.76%)に匹敵する生産性を上げている。ゴルフ場にも高収益企業が散見されるが、それらは保有に徹し運営は第三者に委託するスタイルをとっている。(株)福岡カンツリー倶楽部(和白コース)もこのスタイルで営業利益率は2%。同じく名門の古賀ゴルフカンツリー倶楽部は古賀ゴルフ(株)自身がゴルフ場を運営するスタイルだが、コロナ禍以降増収傾向にあるものの、直近2期は営業赤字を余儀なくされている。21年12月期は黒字だったが営業利益率は0.6%にとどまっているのが実情だ。経営手法や方針の違いがあるとはいえアコーディアの収益力が突出していることが浮かび上がる。
一方で、キャパシティ一杯の顧客を組み入れる営業スタイルに利用者からは「長時間待たされることが常態化している」との厳しい声も挙がる。そうした状況下の需要増加で週末などの価格が上昇していることも不満を高める要因となっている。一部保有するクラブのなかには米男子プロトーナメント会場の「習志野カントリークラブ」のような名門コースもあるが、福岡県の4クラブをはじめローコスト運営の印象が定着しておりブランドイメージ向上につながっていない。
前株主のMBKは1,500億円で取得しフォートレスに4,000億円で売却したとされる。MBKは4年間保有で2,500億円を手中にしたことになるが、利用者の評価よりも収益向上に徹し投資ファンドとしては抜群の成果を上げたことになる。
フォートレスもいずれ回収を図ることになるが、アコーディアの買収以降、ホテルニューアカオ、そごう・西武、フェニックスリゾートなど名だたる施設を保有している。こうした施設の企業価値引き上げ策を注視することでアコーディアの方向性が見えてくる。
パシフィックゴルフマネージメント(株)
パチンコメーカーグループの優良子会社へ
代 表:田中耕太郎
所在地:東京都台東区上野1-14-7
設 立:1986年10月
資本金:1億円
売上高:(24/3)384億7,200万円アコーディアと双璧をなし、148コースを運営するパシフィックゴルフマネージメント(以下、PGM)。グループのPGMプロパティーズから運営受託するスキームとなっている。業界3位の約30コースを大きく引き離している。現在はパチンコメーカー(株)平和(東京都台東区)の子会社だ。前身の地産グループが破綻した後、米投資会社・ローンスターが買収し、ゴルフ場事業を拡大していった。05年に東証一部に上場し、11年に平和がTOBを実施してその傘下となった。
福岡県下では大博多カントリー倶楽部など8コースを運営している。スケールメリットを生かしたローコスト運営のコースが多い。ただし、ハイグレードなコースの別ブランド化やナイター設備ゴルフ場の拡大など多様な顧客層に対応するサービスを提供している。価格上昇の指摘が聞こえてくるが、顧客を詰め込むことへの不評はあまり聞こえてこない。平和傘下入り後のPGMは長期での安定収益確保に主眼を置いており、グリーンキーパーを含め職階や職種ごとの人材育成に資本投下していることが影響していると見られる。
業績はアコーディアのような急拡大ではないが、21年3月期以降毎期10億円~30億円の増収を遂げている。21年3月期に325億円だった売上高を24年3月期には384億円に引き上げ、同年期の営業利益は41億2,500万円で同利益率は10.7%となった。PGMプロパティーズを含めたグループのゴルフ事業の売上高は962億円、営業利益は192億円に跳ね上がる。
因縁浅からぬ2強
平和の子会社となったPGMは12年に、上場していたアコーディアにTOB(株式公開買い付け)を仕掛けたことがある。計算外だったのは村上ファンド系の(株)レノ(東京都渋谷区)が参入したこと。TOBは失敗に終わりPGMは撤退した。アコーディアとしても大和証券の力を借りてレノ撤退を図り大和証券グループ入りすることを目指したが、レノが一部株式を保有し続けたことが誤算となり、大和証券がMBKにアコーディアを紹介して撤退し、MBKがレノ保有分を含む全株取得することで収束した。
その後20年にはアコーディアが所有する4ゴルフ場(千葉2、茨城1、埼玉1)をPGMに譲渡したことがある。両社とも過去の因縁にとらわれない合理的な経営判断を行うことが見て取れる。アコーディアの企業価値は短期間に跳ね上がり簡単に手を出せない規模となっているが、PGMの動向は見ておく必要があるだろう。注目されるのが、近年のアコーディアの施策だ。女性ゴルファーのみのコンペ開催や女性会員拡大策、韓国語サイトのオープンなど新たな客層の深堀に注力している。また、老朽化したゴルフ場を中心に積極的にクラブハウスの改修を行っている。前期だけで10クラブ、今期も福岡フェザントCC(川崎町)などこれまでに10クラブに実施している。長期スパンで地道な裾野拡大策に舵を切ったようにも映る。フォートレスの資金回収のタイミングやその方法・相手を注視したい。
二極化避けられない市場環境
今年4月のゴルフ場利用者は前年同月より1万4,000人減少し、793万人にとどまった。気象条件などもあり一概にいえないが、キャディ不足や団塊世代のゴルフ卒業などが迫るなか今後の淘汰加速は避けられないだろう。2強の存在感が高まるのが必至だが、格式あるコースはさらにグレードを上げることで足場を固めていくだろう。
キャディ不足に対しては相応のプレー代確保で福利厚生の充実や評価制度の導入など離職率低下策に資金投下できる。プレイヤーの高齢化についてもブランド力を背景に会員権が親族や第三者への譲渡されることで需要が維持されていく。温暖化対策もエアコン付きのカート導入やコースコンデション維持に向けた人材育成も資金力とブランド力でカバーできる。1日40組以内に設定している名門クラブが、このほどコンペ組数の上限を従来の7組から4組に引き下げたとされる。こうした取り組みができるコースはローコストコースと一層の差別化が可能だ。
大局的な二極以外でも好立地に恵まれていればキャディを外国人技能実習生で賄うなど柔軟対応していくことで生き残っていくとみられる。アクセスが悪く高級路線も低価格路線もどちらでも特徴を出すことができないコースが、今後の淘汰対象となってくるだろう。大手2社を中心に地殻変動が起きようとしている。
【鹿島譲二】
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