2024年08月22日( 木 )

災害時、行政対応の温度差と高齢者の救済対策(前)

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大さんのシニアリポート第137回

 8月8日、宮崎県日向灘沖、翌9日に神奈川県で大きな地震があった。とくに宮崎県の地震は南海トラフ地震地域内と判定され、相応の注意が必要という指示が出された。関係する自治体では再度避難対策の見直しを迫られている。実際には肝心の自治体の対応に著しい温度差があるのが実情だ。私が住む地域でもハザードマップは毎回更新され確認するよう要請がある。ところが毎年実施される防災訓練は完全にマンネリ化。とくに集合住宅に住む高齢者への対応はお粗末そのものなのだ。

三角巾の代わりにレジ袋を使えばいい

 当日は指定された場所(学校の校庭など)に集合する。大地震の場合、指定場所に辿り着けるかが問題なのである。居住地区周辺は集合住宅が大半を占めている。高齢者の避難、とくに車椅子を必要とする高齢者(障がい者含む)の避難は困難を極めるだろう。

 3年前、近くの高層マンションで火災があり、大きな問題が発生した。避難にエレベーターは使えない。必然的に非常階段を利用することになるのだが、歩行困難な高齢者数人が階段を降りられず立ち往生状態。後に続く住民が背負ったり、付き添ったりしてようやく降りることができたという。

 日常的に非常階段を利用する住人は皆無だろう。「普段からそうした訓練を」と行政はいうが土台無理な話。それよりも全員降りる必要があるかどうか検討すべきだと思う。集合住宅に住む高齢者すべてが戸外に避難する必要があるとは思えない。室内の家具などの固定化を勧める。不幸にして家具などに挟まれ避難できない高齢者に、居場所確認用のホイッスルを配布すべきだ。生存者の居場所が分かれば救出の可能性がより高まる。こうした具体的で実効性のある避難訓練をなぜやらないのか。

    指定場所に集合後、点呼確認、消火器訓練、バケツリレー、AED(自動体外式除細動器)の使い方、シート(シーツ、戸板など)を使った負傷者の運搬訓練、簡易トイレの設置と使用の仕方…と、流れるように訓練が進む。その後、三角巾を使った救護になるのだが、これが問題なのである。地域の消防署員が、「三角巾お持ちでしょうか」という。毎回必ずいう。三角巾を普段持ち歩く人っています?その後、当然のように用意された三角巾が全員に配られ、使い方を習う。災害という緊急事態なのに、なぜ三角巾にこだわるのだろう。三角巾の代用品を用いるという発想はないのだろうか。

 ある自治体ではレジ袋を使用する。レジ袋なら家にある。それを使って骨折時の対応に充てる。大き目のハンカチでもタオルでもいいはずだ。なぜこうした代用品を使った訓練をしないのだろう。当日配布される三角巾の数は膨大になるはずだ。業者との癒着を疑いたくもなる。「防災訓練を実施したという証明(アリバイづくり)」だけを必要としているとしか思えない。地域に即応した避難訓練がなぜできないのか不思議でならない。

耐震万全のマンションは最高の避難場所

 集合住宅(とくにマンション)に住む人に勇気を与えてくれる記事を見つけた。朝日新聞(2018年1月29日)の「避難場所は自宅マンション」である。「マンションを地域の防災拠点として活用する動きが首都圏直下地震や南海トラフ地震の被害が想定される地域を中心に広がっている」として、耐震や高層階という構造上の利点が、住んでいる人だけではなく、近所の戸建住民、帰宅困難者を含めた人たちの避難を可能にするというアイデアだ。無理して指定避難場所に行く必要性がないということ。当然ながら管理組合や自治会などの合意形成を前提とする。自治体の協力も不可欠だ。

    東京都中央区では、世帯数の9割がマンションに住む。防災計画で、「在宅避難」を基本的な方針と掲げ、建物の耐震化と、住民による自助・共助の活動を支援する。区の基準を満たした「防災対策優良マンション」に訓練経費を助成する。区のパンフレット「備えて安心! マンション防災」には、2~5階ごとに代表を選び、安否確認する情報班や炊き出しをする物資班を置く。救急箱や救助工具を備えたり、水や食料、毛布、照明器具を置くスペースも設けたりなど、在宅避難の後押し(資金面での支援を含む)をするという「公助」も確立している。

 品川区は帰宅困難者らが共用スペースを一時的に使用できる協定を約10カ所のマンションと結んだ。大阪市都島区の某マンションで防災セミナー「生き残った後の防災を考えていますか?」(同1月28日)が開催。在宅避難する際に必要な心構えや備蓄品を確認した。最上階を除く各階に防災倉庫が設けられ、水や乾パン、簡易トイレ、工具などが備えられている。屋上は約300人を収容できる広さがあり、地域住民の一時避難場所として開放することも検討している。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。

(第136回・後)

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