2024年12月22日( 日 )

【鮫島タイムス別館(28)】麻生氏、「脱派閥」の進展で政界引退の危機も

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菅氏支援の小泉氏が勢いづく

 岸田文雄首相が不出馬を表明して10人以上が名乗りをあげる大混戦となった自民党総裁選(9月12日告示、同27日投開票)は、小泉進次郎元環境相(43)が一転して出馬を決意し、本命に浮上してきた。 世論調査で国民人気トップを独走してきた石破茂元幹事長(67)の擁立を検討してきた非主流派のドン・菅義偉前首相は小泉氏擁立に転じ、世代交代を訴えて真っ先に出馬表明した小林鷹之元経済安保担当相(49)から小泉氏に乗り換える中堅若手も出始めている。

 日本経済新聞社の緊急世論調査(21、22日実施)では、圧倒的な知名度を誇る小泉氏が23%で首位に躍り出た。これまでトップだった石破氏は18%にとどまって2位に転落し、早くも失速している。総裁選は党員票と国会議員票が半々の重みをもつが、このままの勢いが続けば党員票で圧勝し、第一回投票でいきなり過半数を獲得して当選する可能性も出てきた。

 今回の総裁選は、麻生太郎副総裁と菅氏の元首相ふたりのキングメーカー争いである。菅氏は前回2021年総裁選で、当時は国民人気トップだった麻生派の河野太郎デジタル担当相(61)を担ぎ出し、石破氏と小泉氏も河野支持に引き込んで「小石河」連合を形成した。麻生氏はこれに対抗して岸田文雄首相(67)を擁立し、決選投票で高市早苗デジタル担当相(63)を担いだ安倍晋三元首相と連携して打ち負かした。こうして誕生した岸田政権で麻生氏がキングメーカーとして君臨し、菅氏は非主流派に甘んじてきたのである。

 菅氏は「脱派閥」を訴え、岸田首相に退陣を迫ってきた。河野氏はこの3年間にマイナンバーカード問題で人気が凋落。裏金事件を受けた派閥解消の流れのなかで麻生派だけが公然と存続を表明するなか、河野氏を麻生派から離脱しなかったことで見限った。今回は早くから小泉氏擁立を探っていたが、父・純一郎元首相が出馬に強く反対していたため、次善の策として石破氏擁立を検討してきた。  石破氏は党員票では優勢なものの、安倍氏と麻生氏に疎まれ、最大派閥・安倍派と第二派閥・麻生派には石破アレルギーが強く、前回同様、国会議員中心の決選投票で逆転される可能性が高い。麻生氏が擁立を検討していた茂木敏充幹事長に勝つ道筋が描けずにいたのである。そこで小泉氏の父・純一郎氏の姿勢が軟化し、小泉氏が一転して出馬を決意した。菅氏は石破氏をあっさり見捨て、本命の小泉氏に立ち返ったのだ。

決め手を欠き、焦る麻生氏  

 焦りの色を隠せないのは、麻生氏である。小泉氏の父・純一郎氏は01年総裁選で「自民党をぶっ壊す」と絶叫して圧勝し、03年衆院選では中曽根康弘、宮沢喜一の元首相ふたりを政界引退に追いやった。息子の進次郎氏が今回の総裁選で「脱派閥」を訴えるのは間違いない。派閥存続を唯一宣言している麻生氏をターゲットにし、首相に就任したらただちに衆院解散を断行して麻生氏に政界引退を勧告し「自民党は変わった!」と絶叫すれば、裏金事件のイメージを吹き飛ばすことも可能だ。 85歳の二階俊博元幹事長に続いて83歳の麻生氏も衆院選不出馬に追い込み、43歳の小泉首相の誕生と合わせて「世代交代」を大々的にアピールする――。小泉政権が誕生すれば、麻生氏はキングメーカーから陥落するどころか、政界引退の危機だ。何としても総裁選で勝利するほかない。

 本命に浮上した小泉氏を担ぐ菅氏に対し、麻生氏は強力な対抗馬を持ち合わせていない。石破氏のことは毛嫌いしており、擁立は不可能だ。残る対抗策は、候補者が大量出馬する乱戦に持ち込み、第一回投票で小泉氏がいきなり過半数を獲得することを断固阻止し、決選投票で小泉氏と石破氏を除く全陣営を1つにまとめて逆転するシナリオである。

 そこで、第二派閥の麻生派からは河野氏を、第三派閥の茂木派からは茂木氏、第四派閥の岸田派からは林芳正官房長官の出馬をそれぞれ容認した。さらに若手代表の小林氏も麻生派重鎮の甘利明前幹事長を通じて側面支援し、「小泉包囲網」の形成を目指すことにしたのである。小泉氏と石破氏を除く誰かが2位に食い込めば、決戦投票でその候補に票を集結させる「密約」をかわそうというわけだ。

 確かに候補者乱立の様相である。しかし小泉氏が頭一つ抜け出しつつあり、「勝ち馬に乗れ」という心理が一気に広まって雪崩を撃ち、第一回投票で決着してしまう可能性がある。

 決選投票に持ち込んだとしても、麻生氏が描く通り「2位以下」の連合が成立する保証はない。麻生氏主導の多数派工作で逆転勝利しても「古い自民党」の印象が強まって支持率が回復しなければ意味がなく、「密約」を拒む議員は少なくないだろう。小林氏を支持する中堅若手の多くは、小林氏が決選投票に残れなければ小泉氏に流れるとみられる。岸田派の林氏も麻生氏に敬遠されてきたため、決選投票ではむしろ菅氏(小泉氏)と組む展開もある。

 麻生氏は追い込まれつつある。「脱派閥」の切り札として「麻生氏引退」が自民党再生のシンボルに仕立てられるかもしれない。

【ジャーナリスト/鮫島浩】


<プロフィール>
鮫島浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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