2024年11月21日( 木 )

災害時、行政対応の温度差と高齢者の救済対策(後)

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大さんのシニアリポート第137回

 8月8日、宮崎県日向灘沖、翌9日に神奈川県で大きな地震があった。とくに宮崎県の地震は南海トラフ地震地域内と判定され、相応の注意が必要という指示が出された。関係する自治体では再度避難対策の見直しを迫られている。実際には肝心の自治体の対応に著しい温度差があるのが実情だ。私が住む地域でもハザードマップは毎回更新され確認するよう要請がある。ところが毎年実施される防災訓練は完全にマンネリ化。とくに集合住宅に住む高齢者への対応はお粗末そのものなのだ。

耐震万全のマンションは最高の避難場所(つづく)

 南海トラフ地震による津波が予想される地域では、マンションが格好の避難場所として期待されている。高知市では指定された津波避難分譲マンションに、「自動解除装置付きキーボックス」を設置した。キーボックスは、震度5以上の揺れを感知すると、自動的に解除され、近隣の住民らが建物にいち早く非難することができる。市内の小・中・高校などに設置し終えた。「鍵がないので入れない」という問題を解消した。

イメージ    在宅避難で心配されるのが、独居高齢者や障がいのある人などの「災害弱者」の問題だ。津波などの不安は解消されるが、余震などへの不安は残る。昼間は指定避難所で過ごす。1人ではないという不安は解消するだろう。ボランティアなどの援助も期待できるし、さまざまな情報も得ることができる。夜間は自宅マンションに帰宅する。しかし、これを可能にするには日常的に住民とのコミュニケーションを密にするという大前提がある。人手の有無の問題もある。さらに助けられる方が、「助けてほしい」という声を発しなくてはならない。これが独居高齢者には大きな負担となる。

 マンションの住民が高齢化した管理組合では、維持管理を管理会社に委託する場合が少なくない。災害時、管理会社をあてにするには無理がある。震災後すぐには駆けつけることは不可能だ。管理組合のなかに自主防災組織を設け、数日間は住民同士で助け合うしかない。「高齢者や障がいのある人など、とくに助けが必要な人の名簿を事前に用意」と提言する防災管理士もいるが、行政の担当部署は、「個人情報保護法」を盾に決して公開することはない。管理組合や自治会が独自で調査するといっても、「プライバシーの遵守」がマンションライフの真骨頂であるかぎり、家庭内の情報を一括管理されることには納得を得られない場合が多い。

公的な住宅にはさまざまな問題が山積

 私が住む公的な集合住宅(住宅困窮者用)では、「在宅避難」を基本とし、周辺住民の一時避難所としての機能を生かすにはいくつかのハードルがある。まず、大家が都道府県市町村という自治体だ。マンション住民のように、自主的に合意形成し活動するには、「大家」を説得する必要がある。これが大きな壁となる。まず一括して同じ条件での合意形成(条例改定)は不可能に近い。

イメージ    自治体による個別的な対応にも温度差がある。「団地ごとに合意形成を」というのが本音だ。つまり、公営住宅の自治会に丸投げとなる。これが問題なのだ。公営住宅の住民の多くは、「すべて大家任せ」の意識が強く、面倒なことにはタッチしたがらない。共助の意識が薄く、自治会を通しての付き合いを望まない。孤独死者を出しても無関心を決め込む。千葉県松戸市にあるUR常盤平団地(すべて賃貸住宅)の住民が結束して共助の精神をはぐくみ、「孤独死ゼロ作戦」を打ち出せたのは、中沢卓実というカリスマ的な自治会長がいたからだ。これを期待するのは無理というもの。同じような中高層集合住宅なのに、公営住宅の住人とマンションの住民との意識がこうも違うのは、「建物が自分の財産」であるか否かなのだろうか。少なくとも「近所の避難困難者(主に戸建住宅)を公的な集合住宅への避難」という声を聞いたことがない。避難訓練の選択肢を増やしてほしいのだが…。

(了)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。

(第137回・前)
(第138回・前)

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