2024年09月05日( 木 )

労働条件明示ルールの改正

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 労働基準法(労基法)では、労働契約を締結する際に、企業が労働者に対して賃金・労働時間などの労働条件を明示することが義務づけられています。また、期間がある場合の更新基準、就業場所および従事する業務等の特定の事項については、書面での交付による明示が必要とされています。各企業とも、これらの明示事項を整理した書面として「労働条件通知書」や「労働条件通知書兼雇用契約書」などを作成されているものと思います。

 なお、労働条件の明示に違反すると、30万円以下の罰金が科せられることがあります。また、明示した労働条件が事実と異なると、労働者から即時労働契約の解除もできることになりますので、企業としては労働条件通知書の記載に誤りがないよう作成する必要があります。

岡本弁護士
岡本弁護士

    その労基法の施行規則が今年4月に改正され、労働条件の明示項目に新たな項目が追加されました。

 就業場所や従事する業務の内容については、従前から明示が必要でしたが、従来は「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容を記載すれば足りました。今回の改正では、すべての労働契約の締結と有期労働契約の更新の際に、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、これらの「変更の範囲」についても明示が必要になりました。

 従前は就業場所等を限定する契約をすることも少なく、就業規則に「会社の都合により移動を命ずることがある。」という配転の規定があることを根拠に、転勤や業務内容の変更をしていました。ところが前述の通り、就業場所や業務内容について、雇い入れ直後の内容を記載すればよかったものの、特定の場所・業務が記載されていることを理由に、労働者が勤務地限定の特約、職種・業務内容限定の特約があると主張して、配転命令を拒否してトラブルになることがありました。このような就業場所・業務内容の限定や変更などについての紛争を未然に防ぐために、明示事項が追加されたことになります。また昨今は、「勤務地限定」社員や「職務限定」社員も増えてきました。同じ正社員でも労働条件が多様化しているため、労働条件をより明確にする必要もあります。

 就業場所・業務に限定がない場合、明示する内容としては「(雇入れ直後)本社」としたうえで、「(変更の範囲)会社の定める営業所」「(変更の範囲)本社、すべての支店および労働者の自宅での勤務」などの記載で対応できます。業務の範囲に限定がない場合も、同様に「(変更の範囲)会社の定める業務」「(変更の範囲)会社内でのすべての業務」などと記載することになります。

 逆に、勤務地や業務を限定する場合には、それに応じた記載をすることになります。

 正社員については、今後数十年単位で勤務することも想定すると、数十年先のことを予測するのは難しく、安易に勤務地、業務内容を限定することはできません。他方で、最近は、多少給料が低くても転勤がない職場を希望する者なども増えている状況であり、勤務地限定・業務限定とすることで採用や社員の定着の点でメリットがあることも事実です。慎重な判断が必要です。

 なお、これ以外に有期契約の社員について、通算契約期間または更新回数に上限の定めがある場合の上限や、無期転換を申し込むことができる旨と無期転換後の労働条件も明示が必要になりました。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/


<プロフィール>
岡本成史
(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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