【業界を読む】高収益を上げる福岡生コン業界(後)17年の大団結で黄金期創出、組合の役割とは
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福岡の生コン業界は、2007~09年に見舞われた生コン出荷量の激減で大打撃を受けた。しかし、その後、大団結をはたして組合による市場占有率9割を達成、黄金期をつくり出した。市場価格をコントロールし繁栄を手中にする組合の威力と、それに絡む企業の思惑…。だが、時代は着実に変わりつつある。
アウトサイダー企業は技術と営業に定評あり
前編では、2007~09年にかけて生コン業界を見舞った生コン需要40%減の激震と、その後の対応に苦しむ福岡地区生コンクリート(協)(以下、福岡生コン協組)の状況を振り返った。福岡生コン協組が苦しんだのは、アウトサイダー(非組合企業)の価格攻勢であった。アウトサイダーは、福岡地区の域外から越境して生コンを売り込んだり、地区内であっても福岡市外に拠点をもっていることが多い。彼らの多くは生コン製造以外にも事業部門をもつため、技術力や営業力に定評があり、組合の力に頼らなくても売上を確保することができる。
しかし、生コン専業の企業でもアウトサイダーとして独立独歩の道を選ぶ企業もある。なぜ組合外での活動を選ぶのか、その一例を見てみる。糸島開発需要で組合脱退 旭グループvs古賀物産
旭コンクリート工業(有)は1961年創業、63年に法人化された糸島地区を代表する老舗の生コン業者である。グループ企業のアサヒ商事(株)は販売部門を受け持つ。旭コンクリート工業は生コン製造・販売専業だが、2008年に福岡生コン協組を脱退した。理由は地元の糸島地区における九州大学の伊都キャンパス移転ならびに福岡市のベッドタウン化による旺盛な住宅建設需要と、それをめぐるアウトサイダーとの競争だ。
アウトサイダーである(株)古賀物産(本社:伊万里市)は、03年に糸島市にコガ生コン福岡工場を新設し稼働を開始した。古賀物産は元来、佐賀県の伊万里・有田と長崎県の川棚に砕石場をもつ砕石業者で、生コン製造業者としても1990年の川棚工場を皮切りに、99年には伊万里工場まで開設していた。だが、2000年代初めからの長崎県内の官公需による生コン需要の急減少のなかで、自社の砕石をさばくために自ら生コン製造工場を拡大して販路を拓く路線をとり始める。先述の福岡工場に続いて、佐世保工場(06年)、諫早工場(15年)と拡大を続けた。自社の砕石をさばくことが目的であるため、制約がかかる組合に古賀物産は加入していない。
組合のデメリット 脱退が有利な状況
自社で砕石する古賀物産は強力な競争相手だが、旭コンクリート工業にとって福岡生コン協組への加入は競争の足枷になっていた。組合に加入している企業は販売スキームに強力なしばりがある。自社でゼネコンから受注を受けても、組合員は組合からの各工場への出荷割り当てに従わねばならない。そのため大量の受注見込みがあっても、原材料の一括購入によるコストダウンや、それによる価格攻勢もかけることができず、営業上の自由も制限されることになる。
古賀物産に対して価格面で劣勢に立たされた旭コンクリート工業は08年3月をもって組合を脱退した。古賀物産と競争しながら組合外で自由な営業を行い、地元糸島地区の旺盛な建設需要を獲得することが得策と判断したためだ。当時の組合の統一価格は1万500円/m3(価格は以下「/m3」を省略)だったが、脱退後9,000~9,600円の価格帯で販売を始めた。組合の販売スキームでは割に合わない価格であっても、自社で一括して受注と販売をコントロールできれば十分採算が取れる。脱退によって旭コンクリート工業は売上を7億円台から9億円台へ乗せた。
しかしその旭コンクリート工業も、後年、組合に復帰することになる。それについては後述する。
アウトサイダーの取り込み カギはシェア割当
旭コンクリート工業の例のように、アウトサイダーは効率的な原材料購入でコストを下げて自由な営業を行うことができる。前編で見た通り、福岡生コン協組の組合員は、09年の急激な生コン需要の落ち込みとアウトサイダーのダンピング攻勢で苦しい状況にあった。
組合側の立場に話を戻せば、ダンピング攻勢は零細の組合企業ではとても体力がもたない。1万500円の組合価格に対して、たとえば主要なアウトサイダーであるB社は最安値7,000円台で販売しており、組合側もそれに押されて11年には9,500円、あるいは9,000円を割り込む価格で売らざるを得ない状況まで追い込まれていた。価格競争で勝つことができない組合側の解決策は、アウトサイダーを組合に取り込んで競争を終わりにすることだ。取り込みのカギは、既存組合員のシェアを割いて新規組合員にいくら提供できるかにある。組合は福岡生コン協組の年間出荷量の1割強にあたる12万m3をB社のシェアとして提供することを条件にB社と交渉を進めた。
福岡地区に組合が35工場あるなかで、1社に対して1割強を割り当てるのは大きい。しかし、B社を取り込むためにシェア1割を拠出しても、9,500円を割った価格から1万500円に値戻しができれば拠出分の売上は取り戻せる。しかもその先には1万3,000円への値上げも視野に入れることができる。
だが、交渉は失敗した。この時点でB社にとって組合加入は旨味がなかったのだ。1社の加入が挫折すればほかのアウトサイダーも加入はない。11年の取り込み工作の挫折は大きく、その後、5年間、アウトサイダーの加入は実現しなかった。
その間に有力アウトサイダーの1社でプラント製造を本業とする(株)冨士機が箱崎ふ頭生コン工場を新設し、16年6月に稼働を始めた。同工場の生コン製造力は150m3/時でコストダウンを実現した。その影響もあり、福岡地区の生コン価格は一時1万500円に戻していたものが同年10月に再度9,500円に下落、翌17年6月には9,000円と全国の都道府県庁所在地で最安値まで下落した。
団結の時機が熟す 17年の6社加入
17年5月に福岡生コン協組の理事長に中島辰也氏(中島辰三郎商店代表)が就任した。中島氏が理事長に選ばれたのは、アウトサイダーとの交渉力を見込まれてのことだ。この時をおいてアウトサイダー取り込みの好機はないと見られた。
17年に至るまでの生コン出荷量の推移を見ると、13年は福岡県も福岡地区も建設需要が旺盛で、県の生コン出荷量は372万m3(福岡生コン協組出荷分は133万m3)、14年は339万m3(同128万m3)と回復しつつあるかに見えた。しかし、15、16年はまた09、10年と同様にギリギリ300万m3まで落ち込む。その後の建設需要の予測でも、福岡都心部はマンション建設の需要上昇と、天神ビッグバンによるビル開発で幾分需要が見込まれたが、大型の開発プロジェクトなどはなく13年のような大幅な生コンの出荷量回復は望めないとの見方が広がっていた。
アウトサイダーとしての旨味は、ダンピングをしても自由な営業力で受注を確保して利益が出る場合だ。しかし、将来的にパイの見込みが限られ、ダンピングが見合わないとなれば、利益を出すには価格を上げるしかない。となると一転して団結の機運が高まる。また、アウトサイダーにも事情があった。08年に組合を脱退した旭コンクリート工業は、糸島地区の旺盛な開発需要が落ち着き始めたのを背景として組合への復帰を希望していた。
同年10月、ついにアウトサイダーである冨士機、(株)セントラル商工、(株)エフエムシー、旭コンクリート工業、(株)環境施設、(株)サカヒラの6社が組合への加入に合意した。6社の加入によって組合は32社39工場となり、出荷量での市場占有率は9割を超えることとなった。
組合への取り込み後 連続値上げを実施
この後の組合の対応は早かった。実勢価格9,000円から、年明けの18年1月には組合価格を1万1,000円とし、6社が組合に正式加入した4月には1万3,000円に引き上げた。半年も経たないうちに4,000円の値上げとなったが、顧客からの値引き要請は一切なかったという。これについて当時の生コン業者は「価格浸透の手ごたえを感じた」と、10年間続いた出荷激減と価格低迷という市場環境が明らかに変化した実感を語っている。
17年からの生コン出荷量の推移を見てみよう。17年の福岡県全体が316万m3に対して福岡生コン協組の出荷量が116万m3、18年は県が320万m3(前年比1.2%増)で組合が139万m3(同19.8%増)、19年は県が330万m3(同3.1%増)で組合が152万m3(同9.3%増)と、福岡生コン協組の出荷量は大幅な増加を見せ、県全体に占める組合出荷量のシェアは17年の36.7%から、18年に43.4%、19年には46.0%と半分近くを占めるまでになった。そのような出荷量の増加と、9,000円から1万3,000円への値上げは組合企業に大きな利益をもたらした。
20年、コロナ禍に突入し、福岡県の出荷量はまた301万m3まで落ち込み、組合の出荷量も131万m3まで落ち込んだ。だが、出荷量の減少にあっても、市場占有率9割を誇る組合には対処方法がある。出荷量減少を補うための値上げである。また折しも働き方改革も理由になった。22年4月、1万5,000円に値上げを敢行した。しかし、これは半年以上前に決定していた値上で、同年2月には、ロシアによるウクライナ侵攻が起こり、エネルギー価格や原材料価格が大幅に上昇した。すると同年10月には、さらに翌4月の4,000円値上げを決定、翌23年4月、組合価格は1万9,000円となった。
時代は変わりつつある 組合の団結と役割とは
【表】は8月10日現在の全国各地区の生コン価格の一覧だ。最高値は京都Aの2万6,000円。最安値は福井の1万2,800円だ。福井はセメント、生コンクリートの一大商社、三谷商事(株)のお膝元である。生コンが地域の供給体制にいかに影響を受ける製品かがわかる。価格の中央値は福島の1万9,500円、平均値は1万9,669.79円。福岡は中央値を下回っているが、東京や京阪神の大都市は2万円台を超え、九州地区でもほかに高い地区がある。
ところで、生コン需要も曲がり角にきている。福岡地区は天神ビッグバンのピークも過ぎ、全国的にも住宅着工件数がピークを超えて市場は縮小段階に入った。また、人手不足による工期の遅延や、建設資材の高騰による計画の見直しなど、現場数の減少要因が増加している。他方、生コン業者の側も、人手不足を始めとする諸要因がとくに零細生コン製造業者にとって大きな経営リスクになっている。市況が厳しくなる前に、事業継続の検討を始める企業が出てくる可能性があるが、廃業はともかく他社に事業承継するとなると組合のなかに波風が立たざるを得ない。
また、大きな時代の変化として、製品の製造や利用における環境への配慮が求められる時代となった。現状の生コン製造業者の環境対応は決して十分であるとはいえない。そのようななかで、組合のはたすべき役割は従来の価格の安定にとどまるべきだろうか。組合が生コンから利益を生む仕組みであれば、その利益にともなう環境負荷についても組合は大きな責任をはたす必要がある。時代の要請に応えて組合員に対する環境対応への指導力を発揮できるのか、これからの組合の役割が問われている。
【寺村朋輝】
法人名
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