2024年11月29日( 金 )

景気減速の兆しが濃厚な世界経済(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

米国経済、景気減速の懸念

    強いドル政策により世界からドル資金が還流し、力強い経済成長を続けてきた米国経済だったが、最近になって景気減速の懸念が高まってきている。

 エヌビディアに代表されるハイテック株の高騰で、米国の株式市場は強気相場をキープして雇用市場も堅調さを維持していた。米国の中央銀行であるFRBが最も注力していたインフレ抑制も、収束の兆しを示しつつあった。そのため米国経済は景気減速の懸念なしにソフトランディングできるのではないかと楽観視する向きもあった。

 米国政府はインフレ抑制のために高金利を維持、その結果、企業も個人も利子の負担が増加するため、今後は需要の抑制が表面化し、ある程度の景気減速が予想されてはいた。そのような状況下においても米国経済は意外と堅調で、株式市場と雇用市場も比較的順調に推移していた。

 ところが、アメリカ製造業購買担当者景気指数(PMI)や失業者統計などの発表を受け、先行指数である株式市場が大幅に株価を下げた。9月の初取引である3日のニューヨーク証券取引所では株価が大幅に下落。ナスダック指数は前日比で577.33p(3.26%)下げ、1万7,136.30となった。発表されたPMIが47.2で、予想値である47.5を下回ったことが要因として挙げられる。PMIが50を上回ると景気拡大が予想され、下回ると景気が鈍化することを意味する。

 堅調な米国経済に減速懸念がもたれ始めたのは、7月の失業率の発表であった。7月の4.3%という失業率は、専門家の予想値である4.1%を上回っただけでなく、2021年10月以降で最高値となったからだ。さらに、非農業部門の就業者数は、前月対比で11万4,000人増だったものの、過去1年間の平均増加数である月21万5,000人の増加と比較すると、約半分に減少している。このような失業率の上昇懸念も、株価指数を下落させる要因となった。

 このように株価が大暴落するなか、AIブームで株価を牽引していたエヌビディアの株価は、前日対比で9.53%急落し、市場に衝撃が走った。米半導体企業であるブロードコムと、台湾の半導体受託生産最大手であるTSMCも、それぞれ6.16%と6.53%値を下げた。とくにエヌビディアは時価総額が1日で2,789億ドル減少、時価総額の減少額では米国史上最高記録となった。

 一方、米国の代表的な半導体企業の1つであるインテルは2日、株価が26.05%も暴落した。これは1974年の31%暴落に次ぐ最大の暴落率で、株価は21.48ドルとなり、11年5カ月ぶりに最安値となった。社員の15%超となる1万5,000人以上のリストラと、第4四半期の配当中止、年間コストの20%カットなどのリストラ案を発表したことで、株価が暴落した。

商業用不動産も深刻な不振

 景気減速の兆しは、商業用不動産市場においても顕著に表れている。商業用不動産などを購入する際には、銀行から資金を借りてビルを購入することが一般的で、融資の多くは、米国の中小銀行が多く関わっている。

 企業は景気が減速すると、将来に備えるため、まずリストラを断行する。リストラをすると、オフィス需要が減少する。また、通勤しなくてもパソコンだけあればどこでも仕事ができるようになり、在宅勤務の割合が増加傾向にある。ビルの建設が増加するなか、需要は減少しているので、空室が増加。そうなると商業用不動産の購入者は収益が減少し、銀行の利子が払えなくなるという事態が発生する。銀行融資の借り換え時期も到来しているなか、もし融資の借り換えがうまく行かないと、それは不良債権となり、金融機関への大きなダメージとなりかねない。

(つづく)

(後)

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