2024年09月10日( 火 )

ポジティブシニア世代の“大人リノベ”(後)

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 今のシニア世代の特徴は、「多くの人が持ち家を有し、住宅ローンが完済済みまたは完済のメドが立っている」「子育てからも解放され、その後の自分たちの暮らしをもっと楽しみたいと考えている」「バブル時代も経験し、良質なものにお金を使うことができる」「コミュニケーションの発達とともに、さまざまな媒体から情報を取り入れてきた」──などだろうか。
 シニア世代のリフォーム/リノベーションというと、これまでは「手すりをつける」「段差をなくす」といったバリアフリーの部分だけが注目されてきた。しかし、今の60~70代はまだまだ若く、元気だ。会社を定年退職する、子どもが独立するなど、ライフスタイルが変化する時期でもあるが、若い頃とは違う10~20年後を見据えてリノベーションする人は増えていくだろう。
 住宅に使える資金の余裕ができるため、家のリノベーションを真剣に検討し始めるのもこの世代の特徴だろう。今の時代のシニア層は、これからの人生をどのように暮らしていきたいのか、もっと豊かに暮らしていくためどんな空間に住みたいと考えるのか、そんな片鱗に触れてみたい。

「主体性の回復」

主体性の回復 pixabay
主体性の回復 pixabay

    2つ目の課題は「主体性の欠落」だろう。商品化を可能にする条件とは、工場生産による安定した性能と品質で、そうした工業製品のおかげで住宅の利便性と快適性が向上した側面は否定できない。その一方で、住宅の商品化という潮流が招いた大きなマイナス面にも目を向ける必要がある。工業技術が主導する現代の住まいづくりにおいて、企業は究極の「便利さ」を実現するための商品開発にしのぎを削り、絶大なマーケティング力によって私たちを魅了し続ける。その結果、本来は住む人が主体であるはずの住まいづくりが企業によって主導されるものとなり、そこでの暮らしも供給する側に依存するスタイルが確立してしまっている。住宅の「商品化」が招いた“暮らしの企業依存体質”化が進んでいるのだ。
 企業が主導する住まいづくりでは、外環境までもが工業製品で埋め尽くされ、その集積としての地域の環境は無機質化してしまう。そんな環境のなかで人間関係も殺伐としたものになってしまう社会構造が生まれているのだ。シニア層に限らず、暮らしを手に入れるすべての人たちにとって、「主体性の回復」が必要だ。

 分譲住宅は購入して自分のものにしたと言っても、つくり込まれた企業思想のなかにあることが多い。借りてきたような住まいになっていないだろうか?自分の手となり足となるべく、主体性をもって空間を使いこなせているだろうか?自分ではまだ気づいていないところに、実は良いものはたくさんある。積極的に自分の手のうちに、それらを手繰り寄せてみてはどうだろう。“暮らしに主体性を取り戻す”、そこにクリエイティビティ(創造性)をもたらすためのポイントは、「暮らしの場で与えられる側にならない」ということだ。

リノベでほど良い距離感を

夫婦のほど良い距離感をつくる pixabay
夫婦のほど良い距離感をつくる pixabay

    場所性を重視するとき、それを夫婦同士で「仲良く」一緒にいる場と考えるのではなく(もちろん仲が良くいつも一緒にいることはとても良いことだが)、それぞれが互いの主体性を尊重しつつ、それぞれにとって贅沢だと思えるような居場所を充実させて、そのなかで絶妙な距離感を確保することが重要だろう。

 「リフォーム」は、古くなった、壊れた、汚くなった、困った…という問題を“解決する”こと。しかし、新しいものに置き換わることはできても、これまでと大きくは変わらない。“これまで”は良かったが、年を重ねていく“これから”にとってはそれでいいのか?「リノベーション」はその部分を変えていく可能性を秘めている。これからの人生をともに歩んでいく大切なパートナーと話を深め、尊重し、理解する。ユーザーによって進行は違うが、たとえば楽できるところは楽をして、こだわりたいところにはしっかり時間をかける。そんな自分たちの進め方の好みを知っておくのは、大事なことかもしれない。便利・安全なだけでなく、人生を「楽しく豊かに」暮らせるあなたたちだけのプラスアルファを探してほしい。

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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