岸田外交の3年間と日本企業
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国際政治学者 和田大樹
米国大統領選挙まで2カ月を切るなか、日本では9月に岸田政権が終わり、新政権が発足することになる。約3年に及んだ岸田政権だったが、岸田外交は多くの成果を生むと同時に、難しい問題にも直面した。
岸田外交の3年間で最も衝撃的な出来事となったのは、いうまでもなくロシアによるウクライナ侵攻だろう。それから2年半の歳月が流れるが、紛争解決に向けた兆しは一向に見えてこない。
岸田政権は侵攻を国際秩序の安定に対する暴挙と強く非難し、欧米と協調するかたちでロシアへの制裁を強化していった。それによって、日露関係は急速に冷え込み、マクドナルドやスターバックスなどの欧米企業のほか、トヨタや日産など多くの日本企業もロシア事業から撤退していった。日本企業がロシアに回帰するような動きは、長きにわたって訪れない可能性があるだろう。
また、世界の分断が進むなか、岸田政権は欧米陣営の一員として、法の支配や人権といった価値の重要性を内外にアピールし、昨年5月の広島サミットではゼレンスキー大統領の広島訪問を実現させるなど、日本の役割と存在感を諸外国に強く印象付けた。そして、岸田総理は「ウクライナの明日は東アジア」との危機感を幾度か示し、日本の総理としては初めてNATO(北大西洋条約機構)首脳会合に参加し、ウクライナと台湾(欧州と東アジア)は距離が離れていても連動的な関係にあり、地域ではなく、グローバルな問題として捉える必要性を訴えた。どんなかたちであれ、欧州で実際に起こった戦争に関与し、発生するリスクを抱える東アジアを接近させたという点で、岸田外交は大きな成果を生んだといえよう。
さらに、岸田総理は2年前に就任した韓国のユン大統領との関係を重視し、東京に招いては会談、ソウルに招かれては会談と日韓シャトル外交を復活させ、今月も韓国を訪問した。
米中対立、米国の非介入主義、関係を強化するロシアと北朝鮮など、日本周辺の安全保障環境は厳しさの度合いを増してきており、日韓は互いに互いを必要とする存在となりつつある。ここにも岸田外交の成果を見いだすことができる。そして、経済安全保障の観点から、半導体やAIなど先端テクノロジー分野を中心に、日本企業と韓国企業との関係もいっそう緊密化していくことが求められる。岸田外交はそういったより良い環境を日本企業に与えたといえよう。
一方、中国との関係は非常に難しいことを我々に露呈した。岸田総理は、建設的かつ安定的な日中関係構築の重要性を訴えてきたが、ウクライナ侵攻をめぐっては双方の立場の違いが鮮明となり、台湾情勢や米中間の半導体覇権競争などによって、日中間では対立の構図が表面化しつつある。
岸田総理は日中関係の重要性を認識してきたが、他の外的要因なども影響し、日中関係では難しい舵取りを余儀なくされた。その間、中国進出を強化する日本企業も見られたが、岸田政権下の難しい日中関係と並行するように、日本企業の“対中意欲”は減退傾向にある。今後も対中国ではこういった傾向が続くものと考えられる。
<プロフィール>
和田大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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