2024年09月17日( 火 )

【鮫島タイムス別館(29)】小泉氏、石破氏、高市氏三つ巴の構図に

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小泉氏、党員・党友人気で3位に転落

 過去最多の9人が出馬する大乱戦となった自民党総裁選(9月27日投開票)は小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、高市早苗経済安保担当相の三つ巴を争いになってきた。当初本命視された小泉氏が目玉公約「解雇規制の見直し」で集中砲火を浴びて迷走し、党員投票で想定外の苦戦を強いられている。他方、石破氏や高市氏は国会議員票で伸び悩んでおり、上位2人による決戦投票に誰が勝ち進むのか予断を許さない情勢だ。

 総裁選は、国会議員票367票と同数に換算した党員・党友票の計734票で争われる。第1回投票は9人の出馬で支持が分散するため、誰も過半数を獲得できないのは確実だ。上位2人による決選投票は、国会議員票367票に加え、各都道府県で党員・党友票が多い候補に1票ずつ47票が割り振られる。

 9人の候補者はそれぞれ国会議員の推薦人20人を集めた。第1回投票では本人の票を加えた21票×9候補=189票の行き先は一応は決まっている。残る国会議員票は178票しかなく、差がつくにくい。第1回投票の順位は党員投票の結果に大きく左右される。

 一方、決選投票では国会議員票の重みがぐっと増す。上位2位に勝ち残った陣営による多数派工作の成否が勝敗を分ける決め手だ。

 読売新聞が14~15日に党員・党友に行った電話調査(1,500人が回答)では、①石破氏26%、②高市氏25%、③小泉氏16%、④上川陽子外相6%、⑤小林鷹之前経済安保担当相6%、⑥林芳正官房長官5%、⑦河野太郎デジタル担当相3%、⑧茂木敏充幹事長2%、⑨加藤勝信元官房長官1%の順だった。投票先を明らかにしなかったのは9%だった。

 これを基に党員・党友票を試算すると、①石破氏97票、②高市氏94票、③小泉氏60票となる(上川氏以下は22票~3票)。国民全体を対象にしたマスコミ各社の世論調査ではトップを石破氏と小泉氏が争ってきたが、党員・党友に限った今回の調査では右寄りの安倍支持層に絶大な人気がある高市氏が石破氏とトップを争い、小泉氏は3位に転落した格好だ。

 小泉氏が出馬表明で打ち出した「聖域なき構造改革」の柱として「解雇規制の見直し」を1年以内に実現すると宣言したことへの警戒感が広がったことが最大の要因であろう。「解雇の自由化」「金銭解雇の導入」の早期実現を目指していると受け止められ、サラリーマン層を中心に反発が広がった。他の総裁候補も総裁選討論会で一斉に批判し、小泉包囲網が出来上がった。小泉氏は「解雇の自由化」や「金銭解雇の導入」を打ち消す修正に追い込まれ、いきなり迷走。小泉氏が選択的夫婦別姓法案の国会提出を明言したことも党内右派の反発を招いた。ネットでは小泉氏のネガティブキャンペーンが広がっている。

 一方、高市氏は安倍氏から受け継いだ右寄り政策が党員・党友に歓迎されているようだ。さらに株式市場を中心とした金融界には株価高騰を生んだアベノミクスを確実に継続するのは高市氏しかいないとの見方が広がっており、東京商工リサーチが企業向けに行ったアンケート(5,921社が回答)では、高市氏が24.4%の支持を集めてトップに立ち、石破氏(16.9%)や小泉氏(8.3%)に水を開けた。高市氏がさらに勢いを増し、世論調査で独走してきた石破氏を抜いて党員・党友票のトップに躍り出る可能性もある。

大どんでん返しで高市政権誕生も

 読売新聞は国会議員票の動向も報じている。367人にどの候補を支持するかを取材したところ352人が応じた。それによると、①小泉氏45人、②小林氏40人、③林氏35人、④茂木氏33人、⑤高市氏29人、⑥石破氏26人、⑦河野氏24人、⑧上川氏23人、⑨加藤氏21人の順で、未定や未回答は91人だった。

 小泉氏がトップに立ったものの、予想されていたほどには伸びていない。一方で石破氏や高市氏も伸び悩んでいる。国会議員票の動向は今後の水面下の駆け引きで大きく揺れ動きそうだ。誰かの推薦人になった議員がひそかに他候補に投票するという事態が起きてもおかしくはない。

 読売新聞は、党員・党友への電話調査と国会議員への動向調査を踏まえ、第1回投票の最新情勢は、高市氏と石破氏が123票でトップに並び、小泉氏が105票で追っていると分析した(以下は④小林氏62票、⑤林氏53票、⑥上川氏45票、⑦茂木氏40票、⑧河野氏35票、⑨加藤氏24票)。

 党員・党友の人気を踏まえて石破氏や高市氏が国会議員票で盛り返して決選投票へ進むのか、それとも小泉氏の背後にいる菅義偉前首相が国会議員を引き締めて巻き返すのか、今後の動向は読みきれない。

 菅氏とキングメーカーを争う麻生太郎副総裁の出方も注目される。菅氏が担ぐ小泉氏の勝利を阻止するため、麻生派の河野氏だけではなく、上川氏や小林氏らにも派閥議員を振り分けて決選投票に持ち込み逆転するシナリオを描いてきた。しかし決選投票に進む可能性がある石破氏とは犬猿の仲で知られ、高市氏とも疎遠だ。麻生氏が決選投票で誰に乗るのか、場合によっては第1回投票から石破氏か高市氏のいずれかに乗って自分を高く売るのか、投票日ギリギリまで生き残りをかけた水面下の駆け引きを繰り広げるだろう。

 いずれにせよ、決選投票は(A)小泉vs石破、(B)小泉vs高市、(C)石破vs高市の3パターンに絞られてきた。国会議員票で優位に立つ小泉氏が決選投票に進む(A)か(B)の場合は、派閥の支持基盤とする林氏や茂木氏が勝ち馬に乗って小泉氏が逃げ切る可能性が高い。一方、小泉氏が脱落して国会議員票で劣勢の石破氏と高市氏が決選投票で激突する(C)の場合は、まったく読みきれない。大どんでん返しで高市政権が誕生する可能性も捨てきれない。

【ジャーナリスト/鮫島浩】


<プロフィール>
鮫島浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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