2024年11月23日( 土 )

「誰にも迷惑をかけず、ひっそり」と死ぬことはできないのです(前)

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大さんのシニアリポート第138回

 運営していた「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)の常連Mさんの口癖は、「誰にも迷惑をかけずにコロリと逝きたい」ということ。当然「ピンピンコロリ」が目標だ。「ピンピン」(元気で暮らすために健康に留意)は本人の努力次第で可能だが、「コロリ」は自分の思うようにはいかない。死後避けて通れないさまざまな手続き(死亡届から火葬、葬儀、埋葬まで)は誰がやるのか。他人(身内、友人、行政の窓口等)の手を煩わせることなく最期を迎えることは不可能なのです。

「老後ひとり難民」の実態

サロン幸福亭ぐるり イメージ    先日『老後ひとり難民』(沢村香苗、幻冬舎新書)を読み、目から鱗が見事に落ちた。沢村さんは「日本総合研究所(日総研)創発戦略センターシニアスペシャリスト」という肩書をもつ調査・分析研究の第一人者である。

 著書のプロローグに、「身寄りのない高齢者が入院して身動きができないとき、医療費は誰がどうやって払うのか。入れ歯を自宅に置いたまま入院してしまった場合、誰が入れ歯を取りに行くのか。入院した高齢者の携帯電話料金がコンビニ払いだったら、誰がどうやって払うのか。入院後に亡くなったら、死亡届や火葬などの手続きは誰が行うのか。亡くなった高齢者が住んでいた家は、誰がどう片付けるのか」とあった。どれも納得のいく話ばかりだ。

 私も昨秋、ステージ2の胃がんで入院した。幸い入院時のさまざまな事務的な手続き(保証人、諸費用の支払い、書類作成と提出)をして、私的に必要とされるもの(新聞、本などの資料、ラジオなど)をベッドまで運んでくれたのは妻だ。彼女がいたから何不自由なく入退院できたのだが、これが一人暮らしだったら全部自分でクリアしなくてはならない。できますか? できません。読後改めて「老後ひとり難民」の実態を思い知らされ、驚愕した次第。

イメージ    誰だって自分の「死」を考えたくはない。できれば先延ばしにしておきたいというのが本音だろう。ただ「死」は必ず訪れる。最近、自分の死を念頭に置いてそのときの準備をする人が増えているという。一時期「エンディングノート」がブームとなり、それに記入することで「死への準備」とし、家族へのメッセージとした。とくに「迷惑をかけたくない」という理由で、葬式代、遺品の整理代などを前もって準備する人がいた。しかし本人の意思とは裏腹に、家族葬にして残りを私的に流用した例も身近に聞く。逆に、家族葬を望んだのに亡父の姉が異を唱え、大きな葬儀を出した例もあった。

 エンディングノートは葬儀社主催の説明会などで無料配布されているほか、出版社が独自の視点で製作し出版している。面白いのは100均(ダイソー、セリア、キャンドゥ…)のエンディングノートだ。とくにダイソーの「もしもノート」は面白い。全5冊(合わせて550円)あり、それぞれ「じぶんノート」(自分に関する情報)、「おかねノート」(収入・支出、銀行口座、保険・ローン・不動産等の情報など)、「けんこうノート」(健康、生活習慣、医療関係一覧、服用薬、介護時の希望、病気の告知など)、「おつきあいれんらくノート」(家族・親族・友人情報)、「うちの子ノート」(愛犬・猫などの情報)と分かれている。とくに最後の愛犬・猫等の情報はユニークである。犬猫も家族の一員という考えなのだろう。飼い主死亡後、「うちの子」をどうするかという問題は大きい。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。

(第137回・後)
(第138回・後)

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