2024年10月02日( 水 )

「実需層が都心マンションの資産性評価」三菱地所レジ社長

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三菱地所レジデンス 宮島正治社長
三菱地所レジデンス 宮島正治社長

 大手マンションデベロッパー・三菱地所レジデンス(株)の宮島正治社長は、国内の新築分譲マンション供給について、今後も年間2,000~2,500戸を定期供給していく方針を示した。少子高齢化のなか、宮島社長は「厳選投資というかたちで用地獲得をシビアに見ながら進めていく」という。また、再開発や建替えの案件については「5年後、10年後にもう少し戸数は増えていくかもしれない」と話し、一定規模の供給を確保する考えだ。富裕層向け最高グレードブランド「ザ・パークハウス グラン」の展開も、「個人的な考えとして、(福岡などの地方の)支店案件でも条件が合えば供給したい」との意向を示した。

価格上昇も堅調さ続く、工事費上昇などの影響懸念

 8月29日に開かれた社長懇談会において、現在のマンション市況と同社のマンション事業戦略、マンション周辺領域の多角化戦略、サステナブルな取り組みについて、宮島社長が説明した。

 同社の分譲マンション事業は、供給数の8割を占める主力ブランド「ザ・パークハウス」を中心に4ブランドで展開。累計供給戸数は20万4,773戸で、首都圏、東海圏、関西圏、中国・四国圏、九州に拠点を設けている。海外については、タイやオーストラリアを主力に展開しているが、それ以外については、三菱地所とともに開発を進めていく方針だ。2013年にリノベーション事業に新規参入し、15年から賃貸住宅事業を三菱地所から承継した後、一棟リノベーション事業や有料老人ホーム、シェアハウス、学生向けレジデンス、ホテルコンドミニアム事業に順次参入している。今後の収益構造に関しては、分譲マンションで約6割、その他の事業で約4割を見込む。

 現在のマンション市況については、価格上昇が続く一方で供給戸数は減っており、工事費上昇が続くなかでも需給バランスは取れていると判断している。首都圏においては、金利上昇のペースが現状程度のインフレ率および賃金上昇率であれば、需要に大きな影響がないものと見ている。その一方で、金利上昇よりも工事費上昇や需給バランスの崩れが、マンション市況を厳しくしていくとの予想も述べた。施工事業者に対しては、環境および品質問題への配慮や適切なコスト負担で長期的な関係を築き、工事費の安定化を図る方針だ。

 埼玉県や千葉県の一部において供給過剰感も出ていることから、こうしたエリアの供給については「分譲マンションの供給実績やファミリータイプの供給がないなどの需給バランスを考えながら事業判断をしていく」(宮島社長)考え。一方、ワンルームなどの投資用物件は、金利上昇で少し市況は悪化すると見ている。

 同社の新築分譲マンション「ザ・パークハウス」は、1戸あたり平均販売価格が9,000万~9,500万円、購入者の世帯年収が1,200万円前後の共働き世帯(パワーカップル)、物件周辺からの移転世帯が多く、広域からの購入者が少ないという特徴がある。今年度上半期(4~9月)の販売契約率は前年同期比110%程度に落ち着きそうで、「かなり順調に推移している。とくに30代の若い層は比較的強気」(宮島社長)と、実需層が高額な都心部マンションの資産性を高く評価している様子がうかがえる。

売却益で住み替える「パワーファミリー」

 同社は、都心部の高額なマンション市場が好調な要因として、物件供給が少ないことに加え、パワーカップルや富裕層の増加、旺盛なインバウンド需要などの要因を挙げている。17年竣工の「ザ・パークハウス 京都鴨川御所東」(総戸数85戸)は、世界のマーケットからどう見られるかを意識して商品企画を行ったという。都心部は外国人から見てマンションの割安感が出ている点に加え、中古マンション市場が整備されつつあり、資産価値が評価されていることが、高額な物件を取得するうえでの安心感につながっている。同社では、マンション購入者の意識変化として、実需層が家を買う意味の見直しや資産性、ライフスタイルに沿った住み心地の追求、分譲マンション価格の先高観による賃貸住宅で家賃を支払う不安感を挙げている。

 宮島社長は、新しい動きとして「パワーファミリー」という言葉を使い説明した。「パワーファミリー」は、購入した持ち家を数年で売却し、その利益と収入増でライフスタイルに応じて、新たなマンションや戸建住宅に住み替えていく世帯を指す。具体例として、東京・広尾の50m2のマンションから白金の75m2マンション、代々木の99m2のマンションに転居した都心部の顧客や、千葉・市川のマンションから新浦安の100m2マンション、さらに4LDKの戸建住宅に住み替えた郊外における顧客の事例を紹介した。

 一方、3億円を超える物件に関しては、「価値に見合わないと買わない。(自己居住用なのか、投資用かなどの)用途は物件の出来映えに合わせて決めている」(宮島社長)という。また、超富裕層のニーズは物件を所有することのステータス性やより良い住環境、資産の分散に加え、価値観の共有も重視している傾向がうかがえる。

賃貸住宅向け設備、外部提供を開始

賃貸住宅「ザ・パークハビオ」向けに開発した住宅設備の外部提供を始めた。洗面化粧台とキッチンを1つにまとめた「MIXINK(ミキシンク)」
賃貸住宅「ザ・パークハビオ」向けに開発した
住宅設備の外部提供を始めた。
洗面化粧台とキッチンを1つにまとめた
「MIXINK(ミキシンク)」

    多角化戦略の1つとして、賃貸住宅事業は「ザ・パークハビオ」ブランドで展開しており、23年度末までの累計戸数で1万840戸を供給する。加えて、「ザ・パークハビオ」向けオリジナル住宅設備「Roomot(ルーモット)」の外部提供を今年から開始した。「Roomot」は、賃貸マンションの狭い空間をうまく使うために、間取りの改善や自分らしい暮らし方にスポットを当てて2000年から開発・導入。外部提供をしているのは、洗面化粧台とキッチンを1つにまとめた新しい水廻り機器「MIXINK(ミキシンク)」など3製品で、それぞれの製品の製造元が販売し、同社は商標ライセンス料を受け取る。

 リノベーション事業は「リノレジ」ブランドで展開するマンションの住戸を買い取り、リノベーションして販売する事業。23年度は137戸取得し365戸を販売、累計で2,082戸を取得し、1,674戸を販売している。「リノレジ」については、今後も年間300~400戸のペースで販売を行っていく意向を示している。

【桑島良紀】


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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