2024年12月04日( 水 )

長期資産価格循環 と“日本株持たざるリスク” ~オルカンより日本株が魅力的だ~(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は10月15日発刊の第366号「長期資産価格循環 と“日本株持たざるリスク” ~オルカンより日本株が魅力的だ~」を紹介する。

米国資産価格はバブル形成に向けモメンタム、
だが要警戒(つづき)

 資産価格が割高テリトリーに向かっているのは住宅も同様である。図表5に見るようにケースシーラー住宅価格指数(2000=100)は、2006年のピーク(184)から2012年134へと27%下落したが2022年には308まで上昇し、10年間で2.3倍となった。その後2023年初に5%下落したが2024年6月には325ポイントへと1年間で10%上昇した。現在のレベルはサブプライム住宅バブル時と比し、77%高となっている。もっとも2006年の水準を超えて高騰した住宅価格をバブルと即断すべきではない。(1)販売される住宅の質の上昇、(2)家賃の上昇(=投資採算の向上)、という要素が加味されるべきである。とはいえ、この両者を加味した均質価格ベースの住宅価格の対賃料倍率は2022年6月比では10%低下したものの、水準はリーマン・ショック時を上回っている(図表6参照)。米国住宅は空き家の低下に見るように恒常的供給不足にあり、金融引き締めで住宅が買いにくくなったにもかかわらず(図表7)、価格が下がらないという構造的問題がある。

 このように見てくると米国の資産価格は、バブルに向かって走り出す寸前にあるように見える。真のリスクは高騰した資産価格が米国長期金利の急騰によって正当化できなくなった時であろう。米国財政赤字の定着も金利上昇要因である。米国では株から債券への投資資金のシフトが起きようとしている。

 このリスクを抑えているものは (1)米国の潤沢な国内貯蓄と、(2)FRBに対する信認の強さが、この2つが金利急騰を抑えている。このことが米国中立金利の上昇の背景にあると考えられる。

中国不動産バブル、
住宅保有の国有化に向かわざるを得ないだろう

 中国の不動産バブル崩壊は確定的であり、修復の見通しは立たない。弥縫策を連発し目先の安定を演出することが続くだろう。中国バブルは日本よりはるかに深刻であり、究極の解決策は社会主義化(=個人所有の否定)かもしれない。いずれ50兆元(1,000兆円)以上の巨額の公的資金投入によりバブル崩壊による損失を政府に移転することが必須となるだろう(注1)。それにより企業・家計の損失処理、バランスシート健全化が期待されるが、その後、支援を受けた企業や銀行が資本主義的主体として再生されるだろうか。資本の規律に基づく厳しい不良債権処理(=将来キャッシュフローをベースにした不良債権査定)、金融構造改革が行われないと、経済主体は陶冶されずゾンビ化してしまうだけである。(注2)

(注1) 中国で求められる不良債権最終処理額はどれほどになるのだろうか。1.地方政府の別動隊、地方融資平台の債務残高66兆元(=1,300兆円)、2.家計債務の累積額(2009~2022年)10兆ドル=70兆元、3.中国国内の売れ残り新築物件の在庫は6,000万戸(単価2,000万円と見積もっても1,200兆円=60兆元)などから、ざっと見積もっただけでも1,000兆円、50兆元以上に上るだろう。それは110兆元のGDP比約5割に相当する。

(注2) 日本の場合地価はピークから8割下落して底入れした。この間発生した不良債権は100兆円、対GDP比20%の不良債権が処理されたが、金融不良債権処理期間(1996年から2006年まで)に日銀のバランスシートは50兆円から150兆円へと100兆円増加し民間の損失がカバーされた。桑原稔氏によるとこの100兆円の損失は公的資金注入38兆円、有価証券含み益の充当(ピーク1990年時50兆円)、銀行の利益剰余金処理によってカバーされた。https://e.bme.jp/18/1961/726/1281241

図表9:世界主要都市住宅比較(価格年収倍率、賃料利回り、購買力対価格比 ) (2024年央)

 中国の住宅価格は新築で10%弱、中古で20%弱の下落にとどまっている。これまでは価格統制により下落は限定的だったが、その分取引量が急減(今年1~7月対前年比24.3%減、ピークの2021年比では半減以下)となっている。よって統計上も企業財務上も日本で起きたような規模での不良債権はいまだ発生していない。その結果恒大集団、碧桂園などの事実上の破綻企業が追い貸しによって生かされている。当然のこととして住宅価格の先安観が定着し不動産取引が激減しているのである。

(つづく)

(前)
(後)

関連キーワード

関連記事