2024年11月21日( 木 )

何故、日米で選挙後の株高が見込まれるのか~財政政策の本格始動~(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は10月31日発刊の第367号「何故、日米で選挙後の株高が見込まれるのか~財政政策の本格始動~」を紹介する。

(2)家計が犠牲になり、財政余力は高まった

 有権者が生活苦と重税負担に抗議の声を上げるのは至極当然である。これまで日本人の生活実態はほとんど改善されてこなかった。図表2によって実質個人消費支出を振り返ると、過去10年間では、2014年3月の消費税増税(5→8%)直前の2014年1~3月の310兆円がピークで、その後一度もそれを上回っていない。コロナパンデミック時2020年4~6期の272兆円から回復に転じ、直近の2024年4~6月は前期比年率4.0%と上昇したものの、依然として10年前のピークに比べ4%減の水準にある。

 この間わずかな名目賃金上昇はあったものの、国民負担率(租税負担率、社会保障負担率)の大幅上昇(2012年度の39.8%から2023年度の46.1%まで)に食われて、国民生活水準は押し下げられた。この11年間に企業利益は2.2倍、株式時価総額は3.3倍、一般会計税収は1.6倍になったのであるから、いかに個人生活が取り残されてきたかがわかる。

 日本人が稼ぐ所得総額(名目GNI)は647兆円、前年同期の630兆円比2.7%増、前々年同期の593兆円比9.1%増と鋭角的拡大が続いている。実質GDPがここ2年間550兆円でまったく成長していないなかで名目GNIが急成長してきた。物価上昇により名目GDPが拡大したこと、海外からの所得収支黒字が大きく増加したことによる。企業利益も株価も税収も名目総所得(GNI)に連動するのであるから、それらが好調なのは道理に合っている。

 打撃を受けている家計に対して税収はアベノミクス直前の2012年度43.9兆円から2023年度には72.1兆円へと1.6倍に増加した。2度にわたる消費税増税に加えて、インフレによる税収増が寄与した。また企業による海外所得の増加が法人税収を押し上げた。しかも税収実態は表面数値よりも大きく改善していることは明らかである。2023年度の税収は72.1兆円、前年比1.4%と、同期間の名目GDP4.9%増に比しあまり増加していない。2023年度に企業のグループ納税制度の変更にともなう税還付などが税収を押し下げたためである。2024年度は その反動で税収は大きく増加する。2024年7月は定額減税で落ち込んだが、税還付や減税がなくなった8月は前年比25.8%の大幅増加になった。名目GDPが1%変化したときに税収が何%変化するかを示す税収弾性値(2021年度4.2、2022年度3.0)を控えめに2と置いたとしても、2024年度の税収は前年比8%増、5~6兆円の税収上振れが想定できる。

 内閣府は政府が目標とする2025年度の国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化が初めて達成される、との試算を示した。ここでは税収の大幅な改善が想定されているのである。

 となると、第一にデフレによる賃金停滞、第二に増税・社会保険負担増、第三にインフレによる実質購買力低下、の三重苦を受け続けてきた家計を、税収潤沢な財政がサポートすることは至極当然である。

(3)選挙後の株高がみえてきた

 切実な有権者の減税要求、潤沢な財務当局の支払い余力、多数派形成のために自民党は国民の支持を必要とし、減税路線を受け入れざるを得ない、という3条件が揃った。

 1カ月前の石破政権成立のときには、アベノミクス否定緊縮路線への転換を恐れて急落した市場は、一転一段のリフレ政策の深化を織り込む必要が出てきそうである。連立工作、新内閣発足にともなって想定以上のリフレ政策が打ち出される可能性が強まった。

 1週間後に選挙を迎える米国においても、選挙後の展望は明るい。好調な米国経済を躓かせる大きな死角は見当たらない。分断を回避するためには雇用確保が最優先であり、そこで求められるものが、高圧経済政策である。高めの需要圧力を維持しタイトな労働需給を続けることで、雇用と賃金を高め家計所得を確保しなければならない。そのためには拡張的財政政策、株価・住宅価格などの資産価格の上昇、強いドルによる有利な交易条件の維持が必要である。トランプ氏であれハリス氏であれ、そのフレームワークは変わらない。新産業革命により企業収益も好調である。米国においても選挙後の不透明感の一巡とともに、年末の株高ラリーが始まるのではないだろうか。

(了)

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