2024年12月22日( 日 )

先端ロボット技術による「ユニバーサル未来社会」の実現!(中)

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千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 所長 古田 貴之 氏

戦場で活躍するロボット戦士関連技術を競う

 ――2020年が楽しみになってきました。少し話を変えて、海外の話題に移ります。今年もアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)主催の「ロボティクスチャレンジ」が開催されました。先生もカリフォルニアに行かれたとお聞きしました。

 古田 今年も6月に、DARPA主催の「ロボティクスチャレンジ」がカリフォルニアで行われました。世界からロボット工学を専門とする大学生・大学院生が25チーム参加しています。優勝は韓国のKAIST(韓国科学技術院)チームで2億円の報奨金を獲得しました。日本からは5チームが参加、最高位で10位に終わっています。日本からの参加チームの内訳は、東京大学から4チーム、産業総合技術研究所から1チームです。千葉工大(fuRo)も東京大学の1チーム(中村仁彦教授)をサポートすることになり、私も現地に入りました。

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 所長 古田 貴之 氏<

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター
所長 古田 貴之 氏

 「ロボティクスチャレンジ」は日本の経済産業省と協力関係(2011年3月11日、経済産業省と米国防総省は“人道支援と災害復旧におけるロボット技術”の共同体制の確立のための合意書を作成)にあります。そのために、今回参加の複数のチームに、経済産業省の所管法人であるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から助成金も出ています。

 ところが、日本向けには「人道支援と災害復旧におけるロボット技術」の開発が目的とされる同大会は、アメリカでは「未来の戦場で活躍するロボット戦士“キラーロボット”に関する各種のロボット関連技術を競う大会」というのが一般的な理解になっています。私は自分のポリシーとして、いわゆる「デュアルユーズ」(民生用と軍事用のどちらにも利用できる)のロボット技術開発はしません。そこで、その実態を自分の目で見たいと思ったのも現地に入った理由の1つです。

 今、日本では「ジャパンバーチャルロボティクスチャレンジ(Japan Virtual Robotics Challenge)」(略称JVRC)という新しい動きがあります。NEDOが実施中の「環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト/ロボット分野の国際研究開発・実証事業/災害対応ロボット研究開発(アメリカ)」プロジェクトの一環として行う災害対応ロボットのコンピュータシミュレーションによる競技大会のことです。今年の「CEATEC JAPAN 2015」(10月7日から10日に幕張で開催)の会場で行われることなどが検討されています。
 これは、実際のロボットではなく、コンピュータシミュレーション上で取り組み、そのソフトウェアの性能を競い合うものです。この大会とDARPA主催の「ロボティクスチャレンジ」との関係はわかりません。

Crabotが常時建物内に住みついて働く

 ――グーグルなどIT企業の多くは、ロボットとAIに夢中で、ディズニーなどもロボット・エンターテインメントに関する特許を次々と申請しています。

 古田 「ロボティクスチャレンジ」の会場には、グーグルの関係者がたくさん来ていました。グーグルは昨年、ロボット技術関連の会社8社(シャフト、インダスリアル・パーセプション、メカ・ロボティクス、レッドウッド・ロボティクス、ボット&ドリー、オートファス、ホロムニ、ボストン・ダイナミクス)を買収、ロボット産業界参入の強い意思を表明して話題となりました。

 1つ面白い話題を提供しましょう。グーグルはその後も、ホームセキュリティのロボット技術ベンチャー企業などを買収、現在では10社近く買収を終えていると言われています。では、その先にグーグルは何を見ているのでしょうか。今年2月に、そのグーグルの壮大な計画の一端を垣間見ることができる瞬間がありました。グーグルの新本社建設計画がマウンテン・ビュー市の議会に却下されたことによって、その建設計画の一部が公開されたのです。

 ビャルケ・インゲルス氏とトーマス・ヘザーウィック氏のデザインによるグーグル新本社は、全体を覆うテントのようなカーテンで構成、この巨大カーテンは何千ものガラスのピースでできていて、鉄の柱から吊り下げられています。注目すべきは、この建物はすべてレゴのように、モジュラー式で移動可能、必要に応じてスペースを変形できるとしていることです。そして、オフィスを移動させたり、くっつけたりするのは、「クラボット(Crabot)というロボットがすることになっているのです。クラボットとは、「クレーン(Crane)と「ロボット(Robot)」を合せた造語です。クモのようなかたちをしたクラボットが常時、建物に住みつき、必要なときにオフィスを動かしたり、変形させたりするのです。クラボットはすでに試作されています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
furuta_pr古田 貴之(ふるた・たかゆき)
工学博士。1968年、東京都生まれ。96年、青山学院大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程中途退学後、同大学理工学部機械工学科助手。2000年、博士(工学)取得。同年、(独)科学技術振興機構のロボット開発グループリーダーとしてヒューマノイドロボットの開発に従事。03年6月より千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長。著書「不可能は、可能になる」(PHP研究所)ほか。

 
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