2024年11月07日( 木 )

傲慢経営者列伝(12)三菱グループを抉る(8)三菱ケミカル「脱・ゆでガエル」の顛末

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 「ゆでガエル」という寓話がある。カエルが入っている水に火をかけ、水温を徐々に上げていくと、カエルは温度変化に気づかずに逃げ出さないため、最後は熱湯でゆで上がって死んでしまうという内容だ。過去のやり方に固執する失敗を諫める寓意として使われる。三菱ケミカルの「脱・ゆでガエル」大作戦の顛末を振り返る。(文中敬称略)

「マーケットをハンドリングできる」として
外資系トップを東芝社長に起用

イメージ    小林がミソをつけたのは、東芝のトップ人事だ。東芝は、米原発原子会社で巨額損失が発覚し、債務超過に陥り東証二部へ降格となった。小林は財界を代表して17年10月から取締役会議長を務め、経営を監督した。

 18年4月、車谷暢昭を会長(のち社長兼最高経営責任者(CEO))に招き入れた。英国系ファンドCVCキャピタル・パートナーズの日本法人トップを務めた車谷は、東芝では53年ぶりの外部出身の経営トップだ。「文化を変えるには社外からきてもらったほうがよいという議論になった。マーケットをハンドリングできる人が良かった」。小林は車谷を起用した理由をこう述べている。

 マーケットをハンドリングできると期待された車谷は、「物言う株主」と抜き差しならぬ対立に陥った。ガバナンス(企業統治)不全と経営の迷走に、小林の後任の取締役会議長を務める永山治(中外製薬名誉会長)が車谷に辞任を勧告した。すると、CVCが突然、東芝の買収を提案。車谷はCVC日本法人の会長、東芝社外取締役の藤森義明(元LIXILグループ社長兼CEO)はCVCの最高顧問だ。古巣のCVCと組んだ「自己保身」の出来レースとの批判を浴び、21年4月14日、車谷は辞任に追い込まれた。

小林は東芝・車谷前社長を「強欲」と断罪

 車谷が失脚したため、車谷を起用した小林は、不明を恥じているかというと、そうではない。“文春砲”こと週刊文春電子版(21年4月21日付)が「東芝・車谷前社長の『強欲』小林喜光前議長が告白」と報じた。

〈「いや、彼はよくやったし、早かったし、優秀なんだけど、やっぱり自分のことしか、考えてないってことだよ。自分の人生のことばっかり考えているんだ」

 ──強欲のイメージも・・・。

「それは間違いないよ」〉

 東芝の取締役会議長を務めた小林喜光・前経済同友会代表幹事は、車谷をこう断罪した。

 前年の報酬委員会で、トータルシェアホールホルダーズリターン(TSR)という役員報酬の評価スキームを変えた。うまくいけば、社長の報酬は3億円とか4億円とかいく。

〈「歴代社長は昔1億くらいもらっていたけど、スキャンダルで、3割とか、半分になったからね。それを世界の競合他社並みにしたい。この新しいスキームは事務局がつくった案とはいえ、裏に、車谷がいたのは事実」〉

 車谷を「強欲」で、その仕事ぶりは「自分のことばかり」と断罪した理由だ。

 車谷とコンビを組んだ「プロ経営者」の異名をとる藤森義明については、「アイツ、酒ばっかり飲んでるな。あの辺は、何がプロ経営者だってところはあるわな(笑)」と一刀両断している。

 他人を攻撃する際の歯に衣を着せぬ物言いはたしかに面白い。しかし、車谷をCEOに起用し、藤森を社外取締役に招いたのは、取締役会議長で指名委員会委員長の小林、あなたではないのか。その任命責任を不問にしていいのか。

 「後付けの評論家になるな!」。小林が入社式で新入社員に発する言葉だ。東芝のガバナンス問題では、その言葉がブーメランとして戻ってくる。

三菱ケミカルは「ゆでガエル」に戻った

 古巣の三菱ケミカルのトップ人事も、東芝と相似形だ。「ゆでガエル」から脱け出すため、外国人トップを招いた。だが、ものの見事に失敗。三菱ケミカルは、元の木阿弥、「ゆでガエル」に戻った。

 「脱・ゆでガエル」大作戦の目玉である、石油化学事業の再編・分離が頓挫したツケを支払うことになった。三菱ケミカルグループは医薬品子会社の田辺三菱製薬の売却を検討していると報じられた。巨額な開発投資が必要な医薬品事業を化学メーカーが抱えることに限界が生じたためという。

 「脱・ゆでガエル」大作戦を主導した小林喜光は、自らの責任についてどう考えているのだろうか。すでに三菱ケミカルの取締役を辞めているので関係ないというのか。

 東芝の車谷、三菱ケミカルの外国人社長、小林が推挙した人物は経営者として失敗した。小林には、人物を見る眼がなかった。聞こえてくるのは、舌先三寸の「口舌の徒」「言うだけ番長」といった悪評ばかりだ。

(つづく)

【森村和男】

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