【揺れるセブン&アイ(2)】ホワイトナイトがファミマ親会社という仰天!(前)
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「ひょうたんから駒」ということわざがある。ひょうたんくらいの大きさのものから、駒すなわち馬のような大きなものが出るようなありえない状況から、意図せずに実現してしまう際に使われる。セブンの創業家からの買収提案は、まさに「瓢箪から駒」といえるものだ。(文中敬称略)
創業家の伊藤家と伊藤忠が組んでMBO
カナダのコンビニ大手「アリマンタシォン・クシュタール」(ACT)から買収提案を受けているセブン&アイ・ホールディングスは13日、創業者の次男・伊藤順朗副社長と創業家の資産管理会社からMBO(経営陣による自社買収)の提案を受けていると発表した。
セブン&アイはACTから、9月時点の株価を約2割上回る価格で全株を買い取るという総額7兆円の買収提案を受けている。
ACTの買収に対抗するため、セブン&アイが自社買収で株式を非上場することは、当初から想定されていたことで、何の驚きもない。仰天したのは、米ブルームバーグ通信(11月13日付)の「セブンが総額9兆円でMBO」と題する記事。
「現在検討されている案では伊藤家と伊藤忠などが3兆円程度を出資。セブンの主力取引銀行である三井住友銀行を筆頭に、三菱UFJ銀行、みずほ銀行の3メガバンクが総額6兆円規模の融資を実行する方向で協議している」
この報道には耳を疑った。伊藤忠はコンビニ大手ファミリーマートの親会社で、セブン&アイ傘下のコンビニ最大手セブン-イレブンとライバル関係にあるからだ。大手のライバル企業を救済しようとしているのは、独立性の高い企業として知られるホンダが日産自動車を救うようなものだ。
伊藤忠はファミマ、
三菱商事はローソンを傘下に収める大手コンビニ3社はそれぞれ、総合商社と深いつながりをもつ。貿易会社としてスタートした商社は原料の調達などビジネスの「川上」を得意としてきた。だがバブル経済の崩壊後は、商品を消費者に売る「川下」まで広げて商機を探るようになる。「川下作戦」の目玉となったのが、成長著しいコンビニだ。
財閥系総合商社の三菱商事や三井物産は石炭・鉄鉱石・銅などの資源商社として名を馳せる。非財閥系の伊藤忠は祖業である繊維のほかに食品などの消費関連に力を入れ、非資源分野でナンバーワン商社を目指す。
伊藤忠は1998年にファミマ株を取得。2018年に子会社化し、20年には保有比率を約95%に高めた。伊藤忠が得意としている繊維分野を生かし、「コンビニエンスウェア」という衣服のヒット商品を生み出した。
三菱商事がローソンに初めて出資したのは00年。ローソンは三菱商事と携帯大手KDDIによるTOB(株式公開買い付け)にともない、今年7月に上場廃止になった。KDDIの通信事業とローソンが展開するコンビニ店舗を融合させる。
三井物産はセブン&アイと長年にわたる提携関係
三井物産の流通ビジネスにとって最も重要な顧客が、提携関係にあるセブン&アイだ。セブン&アイ傘下でコンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンに向けた弁当や総菜などの商品開発に携わり、物流面も支える。セブン-イレブンの国内事業だけでなく、海外事業でもサポートを行っている。米国では、米国セブン-イレブン向けの食品・パッケージの供給を手がけるほか、米国セブン-イレブン向けにサンドイッチなどを供給する製造会社にも出資している。
ただ、セブン&アイ株のうち三井物産が保有する比率は1.87%(24年8月中間決算時点)にとどまり、関係をより強固にしたい思いは常にある。セブン&アイが7月にカナダのコンビニ大手ACTから買収を仕掛けられた際、三井物産が買収を防衛する「ホワイトナイト」(白馬の騎士)に名乗り上げるとみられた。
メディアは〈社内には「(セブンと関係を強化する)千載一遇のチャンス」(幹部)との声もある〉(朝日新聞10月8日付朝刊)と報じた。「三井物産で決まり」と誰もが納得していた。
だが、蓋を開けてみると、「ひょうたん」から飛び出てきたのは「駒」。創業家がパートナーに選んだのは、大本命とみられていた三井物産ではなく、下馬評にものぼっていなかった伊藤忠商事だった。考えもしていなかっただけに、びっくり仰天した。
創業家はなぜ三井物産ではなく、伊藤忠と手を組んだのかを考察してみよう。
(つづく)
【森村和男】
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