2024年11月21日( 木 )

【揺れるセブン&アイ(2)】ホワイトナイトがファミマ親会社という仰天!(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 「ひょうたんから駒」ということわざがある。ひょうたんくらいの大きさのものから、駒すなわち馬のような大きなものが出るようなありえない状況から、意図せずに実現してしまう際に使われる。セブンの創業家からの買収提案は、まさに「瓢箪から駒」といえるものだ。(文中敬称略)

カリスマ経営者・鈴木敏文の失脚で、創業家が復活

伊藤忠商事本社ビル イメージ    イトーヨーカ堂の創業者、故・伊藤雅俊(2023年3月、98歳で死去)の次男、伊藤順朗は1958年生まれ。82年に学習院大学経済学部を卒業し、三井信託銀行(現・三井住友信託銀行)に入行。米国クレアモント大学経営大学院へ留学、経営学の大家、ドラッガーに師事し、経営学修士(MBA)修了。ノードストローム社勤務を経て、90年、セブン-イレブン・ジャパンに入社。2009年セブン&アイへ転籍し、取締役となった。

 「中興の祖」といえる鈴木敏文体制下で、創業家の息子たちが厚遇されることはなかった。順朗の兄、裕久はヨーカ堂の専務まで上り詰めたが、2002年に同社を去った。創業者・鈴木雅俊の後継者と見なされていたが、「鈴木さんは裕久さんをあまり高く評価していなかった」という声が漏れてくるなど、鈴木との確執が取り沙汰された。伊藤家でグループに残るのは順朗だけになった。

 ところが、鈴木の次男、康弘が06年にセブン&アイグループ入り、成長分野のネット事業の事実上のトップとなると順朗のグループ内での立場が徐々に微妙になった。だからでもあるが、順朗を後継者と見る向きは少なかった。「創業家出身なので、それなりに処遇されるが、あくまでも君臨すれども統治せずになるでしょう」というのが業界の見方だ。

 鈴木の御曹司・康弘がセブン&アイの新しい顔としてメディアへの露出が増えたのに対し、創業家の順朗がメディアに取り上げられることはほとんどなかった。

 カリスマ経営者・鈴木敏文が失脚したため、伊藤雅俊の次男、伊藤順朗が16年12月、取締役から取締役常務に昇格し、カリスマ経営者から創業家への回帰路線が浮き彫りになった。

イトーヨーカ堂は創業家に戻す

 セブン&アイの井阪隆一社長は、祖業である経営不振の総合スーパー・イトーヨーカ堂の再生策を次々と打ち出した。23年3月、「イトーヨーカドー」の店舗を126店舗体制から、26年2月末までに93店舗へ縮小し、祖業のアパレル事業から撤退するとした。

 さらに4月、イトーヨーカ堂を核とする祖業のスーパー事業を分離し、27年度以降に株式を新規に上場させる方針を発表した。経営不振のイトーヨーカ堂や、東北地盤のヨークベニマルなどの食品スーパー事業を担う中間持株会社を設立して上場させる。アパレルも扱う総合スーパーから食品スーパーに特化して再生を図るシナリオだ。セブン&アイはセブン-イレブンを展開する主力のコンビニ事業に経営資源を集中する。

 ヨーカ堂を分離する案を発表した背景には、「物言う株主」の米投資ファンド、バリューアクト・キャピタルがコンビニ事業への集中を再三要求していたことがある。

 事業構造の改革に合わせ創業家出身の伊藤順朗を4月1日付で代表取締役に追加選任、スーパーストア事業を管掌することになった。この人事は、ヨーカ堂を分離した上場会社のトップに据える布石と受け止められた。ヨーカ堂は創業家である伊藤家に大政奉還するわけだ。

 伊藤一族の資産管理会社・伊藤興業はセブン&アイの8.16%(24年8月末時点)を保有する2位株主(筆頭株主は信託口)。井阪社長が打ち出したのは、ヨーカ堂は切り離して伊藤家に、セブン-イレブンはセブン&アイに残すというバーター取引だ。

 そこに、カナダのコンビニ大手ACTが買収を提案して割って入ってきた。

「買収即転売」ありのMBOのスキーム

 創業家はなぜ、親密な関係にある三井物産ではなく、伊藤忠をパートナーに選んだのか。M&Aの達人である伊藤忠のMBOのスキームに得心したからではないか。

 MBOの最大の問題は、資金調達もさることながら、金融機関から調達した巨額の資金をいかに返済するかだ。考えられるスキームは「買収即転売」方式だろう。

 創業家と伊藤忠は9兆円でMBOを実施。その日のうちに、米国のコンビニ事業をカナダのコンビニACTに7兆円で売却する。ACTが欲しいのは米国のコンビニだけだ。ACTに売却する7兆円は、MBO資金を借りた金融機関に返済する。MBOコストは2兆円に減る。創業家と伊藤忠には、イトーヨーカ堂と、日本と東南アジアのセブン-イレブンのコンビニが手元に残る。

 そして、既定の方針に従い、イトーヨーカ堂など食品スーパー事業を上場して、借金の返済に充てる。食品スーパーは創業家がオーナーの会社となり、伊藤忠のグループ会社となる。

 伊藤忠は傘下に、ファミリーマートとセブン-イレブンの連合を擁する。三菱商事は、勝負がついたとしてローソンを売却することもあり得る。国内の3大コンビニ体制が崩れることになるだろう。セブン&アイのMBOの行方に注目が集まる。

(つづく)

【森村和男】

(前)

関連記事