「8がけ社会」と若者の不満(前)
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今年2月の衆院予算委員会で「8がけ社会」(2040年、働き手の中心となる15歳~64歳の現役世代が、現在の約2割に当たる1,200万人も減るという推計)を取り上げた立憲民主党の湯原俊二衆議院議員(当時)が、効率化の優先だけを考え実践すると、「最後は東京・大阪・名古屋しかいらないということになる」と発言した。ところが「100年後に都市は激減し、栄えるのは東京と福岡だけになる」と明言した人物がいた。急激な人口減少と「8がけ社会」の未来を検証したい。
多くの都市が消滅し、残るのは東京と福岡のみ
明言したのは、京都大学経済研究所教授の森知也(都市経済学、空間経済学)氏だ。2120年の日本では、多くの地方都市が消滅し、人口10万人以上の都市の数が半減するという。その最大の理由を、当然「日本全体の人口が減るから」としたうえで、「人口戦略会議では8,000万人で食い止めようとさまざまな提案をしていますが、江戸時代と同じ3,000万人台に減るというのが現実的な想定なのですが、行政も国民も危機感が足りません」と不安視する。
福岡が残る理由として、「福岡の利点は、東京との間に距離障壁があることに加え、その経済圏となる後背地が広いこと。九州全域への乗り換え地点、ハブであることも利点」という。大阪が衰退する理由として、「人口規模の割に、福岡に比べて東京に近すぎること」を挙げ、さらに「1992年に新幹線『のぞみ』が運行開始して東京・大阪間の移動時間が一気に短縮されたときから、大阪の衰退は始まっている。リニア中央新幹線が開通すれば衰退の速度は早まる」とする。しかし大阪より近い名古屋の場合、「様々な歴史的経緯により、周辺の製造業が極めて強い点で特殊なため、大阪のようには衰退していない」とみる。さらに人口分布の重心が西日本に移るとも予測している。
つるべ落としの出生数
2024年に生まれる日本人の子どもの数が70万人を割り込みそうだ。80万人を割ってから、まだ2年しかたっていない。「初の100万人割れ」で驚いた8年前から、出生数は加速度的に減っている。少子化対策は結果が出るまでに時間を要する。政府は30年も政策を打ち続けているのに成果が見られない。『地域から考える少子化対策』(中山徹 奈良女子大教授 自治体研究社刊)に、「現在の『異次元』を含む政府の対策の主眼は、働く女性を増やすことにあったとする。就業率は上がり、『それなりに成功』した一方で、労働環境は改善されなかった。非正規雇用や低賃金、働き方の意識、東京一極集中という問題だ」という。(『朝日新聞』24年11月13日「天声人語」より)
「人手不足」というキーワードを耳にしない日はない。人手不足の影響をもろに受けている業種の筆頭は「医療・介護」。次いで「物流・配送」「教育・保育」「建設・製造」「公共交通」「農林・漁業」「治安・防衛」「商店・飲食」「行政サービス」(朝日新聞社の全国世論調査)の順だという。待遇改善のために賃上げすると、料金の上昇となって跳ね返ってくる。行政のサービスにも影響をきたす。
「8がけ社会」で損をするのは若者?
最大の問題は高齢者への介護問題だろう。「30年には家族を介護する833万人のうち、約4割の約318万人が働きながら介護をする『ビジネスケアラー』になる」という予測を基に、経産省が「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」をまとめた。「両立の難しさに起因する経済損失額は30年に約9兆円」と試算する。でも「介護を担うのは女性」という意識は完全に払拭されてはいない。「働く女性を増やす」という政府の視点を変えることは難しく、非正規、低賃金という現状を根本的に変えない限り、女性の負担は増すばかりだ。
「ビジネスケアラー」というと「男も女も」と考えられがちだが、事実は違う。最近、運営していた「サロン幸福亭ぐるり」の常連客ふたりが家族に引き取られ、この地域から去った。二家族とも娘や嫁が仕事を辞めたり、正社員から臨時職に代えたりして介護に従事している。
(つづく)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。関連記事
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