「8がけ社会」と若者の不満(後)
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今年2月の衆院予算委員会で「8がけ社会」(2040年、働き手の中心となる15歳~64歳の現役世代が、現在の約2割に当たる1,200万人も減るという推計)を取り上げた立憲民主党の湯原俊二衆議院議員(当時)が、効率化の優先だけを考え実践すると、「最後は東京・大阪・名古屋しかいらないということになる」と発言した。ところが「100年後に都市は激減し、栄えるのは東京と福岡だけになる」と明言した人物がいた。急激な人口減少と「8がけ社会」の未来を検証したい。
「8がけ社会」で損をするのは若者?(つづき)
一方で、「8がけ社会」を担わされる若者には不満が残る。医療保険・年金制度の先行き不安、社会保障の不公平感が、「年寄りは恩恵を受けて、若者ばかりが割を食う」という意識が確実にある。
私の友人に無年金者がいる。会社勤めを経験したことがなく、自由業(本人は自由人を気取っている)で生計を立てていた。老後は、ほぼ妻の稼ぎに頼る生活を送っている。その話を知り合いの若者にしたところ、「この先は真っ暗。その人のような生き方もあるんだ」といったのには驚かされた。「彼のようにならないために、年金は支払うように」と諭したつもりが、そうは考えない若者がたしかに存在する。
現行の社会保障制度は「世帯間の不平等を促進する無駄だらけ」と考える若い世代は少なくない。「年寄りにばかり使われて、自分たちが年寄りになったときには劣悪な状況になるのでは」という不安感を払拭できない。年金制度も同じだ。「今の年寄りは満額保証されるが、自分たちのときには保証されなくなるのでは」という不信感がたしかにある。だから前述の彼のように、「どうせ救済されないなら、今楽しめればいい。結果として無年金でも仕方がない」という若者も出てくる。社会保障分野での高齢者と現役世代の負担の是正は急務だ。「高齢者ばかり優遇されている」「なんで年寄りのため、(将来保証されない)若者が負担しなくてはならないのか」という疑問と不満が出るのは致し方ない。
子どもは「社会で育てる」しかない
こうした「世代間の意識の格差」が噴出してきた背景には、医療や介護、年金制度などの抜本的な改革を政府が先送りしてきたことが挙げられる。いや、逃げていたというべきだろう。「かんぽの宿」のように、日本郵政が運営していた宿泊施設が、09年に民営化された途端に不採算部門として一括売却(実際にはこうならなかった)を検討されたように、殿様商売は安易に頓挫する。しかも誰も責任を負わない。こうした過去の事実などに気づいた若者がデモなどに参加して矛盾を訴える様子が報道されるようになった。
財源不足に対し、国債発行に依存したり、現金をばらまくことでカモフラージュしたり、国に確たる指針が見えない。「18歳選挙権の導入が若者の不満を解消している」という某教授もいるが、その場しのぎ感が横溢している施策の中身を、若者はしっかりと見つめ判断している。これからは、「お金では解決できない絶対的な人手不足が来る。希少な若い世代の不安や不満に向き合う重要性は増している。
介護保険がもたらす現役世代へのメリットなど社会保障の意義を理解してもらいつつ、税や保険料などについて年齢に関わらず支払い能力に応じた負担を求めるなど、若い世代の納得感が得られる改革が必要だ」「高齢世代にも、社会保障が世代間の助け合い制度であることを理解してもらう必要がある」と朝日新聞記者・浜田陽太郎氏は指摘する。前出の森教授も、「人口減少を食い止めることは難しく、家族のありようを考えて子どもは『社会で育てる』ようにするしかない」と断言する。
わずか2年間で10万人もの新生児が減る日本である。少子化による地域間格差の行く末が、結局は日本全体を大きく疲弊させる。東京と福岡しか残らない社会では国の態をなさないだろう。一方で、人口の大幅な減少は介護すべき高齢者の数も限りなく減少するということだ。そのために必要とされた福祉施設や病院の多くも必要なくなり、医者や看護師、介護職員もまたそれに呼応して不必要となる。日本に今欠けているものは、こうした将来のビジョンを確実に描くことができる真のリーダーだ。最近、日本という国も、日本人の存在も小さくなったような気がしてならないと感じるのは私だけなのだろうか。
(了)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。関連記事
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