AI・データセンターとエネルギー戦略 そしてエッジ・コンピューティングの未来(後)
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2022年のOpenAIによるChatGPTの発表以降、AIを利用したアプリが急速に浸透しつつある。同時に現実世界では、世界中でデータセンターが建設されている。莫大な安定電力を必要とするため、カーボンニュートラルとともに国のエネルギー戦略を左右する主要なファクターとなりつつある。そしてさらにその先には、中央集約型のデータセンターから分散型のエッジ・コンピューティングへの深化も視野に入ってくる。
DCと電源の連携 原子力が再脚光
最大のDC立地国であるアメリカでは各州が税制優遇措置を掲げて誘致を競っている。アメリカにおけるDCの電力需要は、22年時点で総受電量17GW(年間最大消費量149TWh)が、30年にはほぼ倍増し総受電量35GW(同306TWh)に達すると予想されている。
アメリカでもDCによる電力消費の増大は問題となっており、そのため運営者側は独自電源の確保に力を入れている。
Googleは昨年11月に、アメリカ・ネバダ州のDCに対して地熱発電によるカーボンフリー電力の供給を開始したと発表した。また、今年3月、Amazonは子会社のアマゾン・ウェブ・サービスが独立系電力会社タレン・エナジーからペンシルベニア州のサスケハナ原子力発電所に隣接するDC用地を買収したことを発表した。
サスケハナ原子力発電所は、発電容量1,350MW×2基、全米で5番目程度の規模で、年間発電量の過去実績は19~20TWh。1号機(1983年稼働)、2号機(85年稼働)はそれぞれ2042年と44年まで運転が許可されている。Amazonはこの買収について、天候に左右される風力・太陽光など再生可能エネルギーの発電量を補完するためのクリーンで炭素を含まないエネルギー源投資の一環と説明している。
11年の福島第一原発事故は世界の原子力エネルギー政策に大きな影響を与えたが、カーボンフリーの要求から拡大が進む再生可能エネルギー利用にともなって、原子力発電は再び位置づけの転換を迎えている。
エッジデータセンター DCとの役割分担
現在、大規模な施設が次々と建設されているDCだが、同時に普及が期待されているのはエッジデータセンター(EDC)だ。
EDCとは、利用者や端末機器(デバイス)に物理的に近いネットワークの端(エッジ)に設置される小規模なDCだ。EDCは利用者のそばでデータ処理を行うことによってデータ転送の遅延を最小限にするとともに、通信距離を短くして帯域幅と電力量を節約する。また、データが遠方のDCまで送られずに狭い範囲にとどめられるため、安全性とプライバシーの向上にもつながる。
EDCは今後、モノをネットワークに接続して制御するIoTの本格的普及にあたって欠かせない。物理的世界を制御するには、たとえば自動車の急ブレーキなどのように、特定の状況に対する即応力が必要だ。IoTデバイスはリアルタイムで大量のデータを生成し続ける。EDCはデバイスのそばでデータを監視し、最速の反応が求められるデータを峻別して、素早いデータ処理で最適な対応を行う。また、IoTが生成する膨大なデータがすべてDCに送られてしまうと、通信の混雑とデータ処理の遅延は避けられない。EDCは記録が必要なデータを選別してDCに送り、計算能力を多く必要とする大規模なデータ分析、即応が不要なタスク後の後処理はDCに任せる。
このような機能をもつEDCは、自動運転のみならず、スマートシティの管理や、工場の自動操業といった即応力が必要なIoTサービスの実用化において重要な意義をもつ。
アメリカでは現在、EDCの数はデータセンターのうち10%程度とされているが、4、5年でEDCの市場規模は20%以上成長すると予測されている。日本でもヒューリックが東京都中央区にEDCを開設中で、25年にはサービスを開始する予定だ。
人体モデルに近づくネットワークの未来
IoTの普及でデバイスから生成されるデジタルデータが膨大化し、それを処理するDC(クラウド)はAI化し、それらの間にEDC(エッジ)が割り込むことでネットワークが階層化される。クラウドを中心にしたネットワークと、エッジを結節点にしたネットワークは、デバイスで生成される各データをクラウドに処理させるべきか、エッジで処理すべきか、最適なタスク処理を求めてアルゴリズムを進化させ続ける。その進化の先にネットワークはどこへ行きつくのだろうか。
可能性として想定されるのは、ネットワークの分化と全体の統合がより「人体的」になるということだ。クラウドを中心にしたネットワークと、エッジを結節点にしたネットワークは、人間における中枢神経と末梢神経の関係へ限りなく近づく。人体において脳や脊髄から構成された中枢神経系が、意思決定や記憶や大規模な情報処理を行うのと同様に、クラウドは大量のデータを集約して分析し、重要な判断や長期的な処理を行う。
また、人体の各部位に分布した末端神経系は、たとえば熱いものに触れたとき、知覚した感覚の信号が脳に到達する前に末梢神経で処理され反射的に手を引っ込めるのと同様に、エッジは、デバイスが即応すべきタスクや、複数のデバイス同士で時間差がない連携を必要とする場合に機能をはたす。それら中枢神経と末梢神経が統合的に機能することで人体の神経活動は成立している。
人体の模倣といえば、すでにロボットが物理的な人体機能の再現に向けて進化を続けているが、エッジコンピューティングにおける人体の模倣は、「情報処理の分担と最適化」に焦点が当てられる。
クラウド(中枢神経)とエッジ(末端神経)は、階層化されたネットワーク構造のなかで、各データごとに最適なタスク処理の経路を求めてアルゴリズムの試行錯誤を続け、ネットワーク全体で人体の神経系に似た構造をつくる。それぞれに構成要素と条件が異なるネットワークは、ネットワークごとに多様な最適アルゴリズムを見つける。それはネットワークごとに個性をもつということだ。
個性をもちそれぞれに情報伝達を自己完結したネットワークは、リアルタイムでデバイスから生成される情報に対して、それぞれに最適化されたアルゴリズムに従いながら、瞬時瞬時にネットワーク経路の決定とタスク処理の決定を行う。それら無数の「決定」の集合は、外部から見ると1つの「意思」としての様相を示す。
人間の意思決定を模倣するといった場合、中枢神経の模倣としてAIの機能に焦点が当てられがちだが、実際にはそれだけで人間的な意思決定は成立しない。人間における中枢神経の高度な機能は、末梢神経による自律的な働きで多くの信号が処理されながら、末梢神経から中枢神経への情報の制御によって刺激を受けつつ、意思決定を促され、意思決定の結果は末梢神経による補完を受けながら行動として実現される。
それと同じようにAIに期待された意思決定能力も、エッジコンピューティングという擬人体的神経ネットワークを得て、個性的な意思を表出する集合体としての実現に近づく。
(了)
【寺村朋輝】
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