トランプ氏に日米安保サヨウナラを言おう 対米従属80年からの訣別(後)
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一橋総合研究所CEO
白馬会議事務局代表
市川周 氏トランプが誘引する対米従属離脱
トランプ大統領の再登場で日米関係はどう大転換するのか? ホワイトハウス一期目の時もさまざまな議論、憶測が飛び交ったが、「敗戦後レジーム」の観点から見た大転換の最大の焦点は在日米軍の規模縮小さらには全面撤退の可能性だ。この議論の根底には従来からアメリカ側が有する費用負担への根本的な不満があったが、これに加えてトランプ政権には中国脅威に対する根本的な見直しがあることを見逃してはならない。
今、中国経済は鄧小平以来の社会主義市場経済システムの構造的ボトルネックに直面しており、GDPで早晩アメリカを抜くという議論は影を潜めてしまった。そのうえ移民大国アメリカの人口成長力も少子高齢化にあえぐ中国を完全に突き放してしまった。「中国恐れるに足らず」であり、その隣国日本にアメリカの兵器と兵士を置き続ける意味がはたしてあるのか。トランプのみならずアメリカ人の多くにそんな疑問が生まれてきてもおかしくない。
一方、アメリカに敗北し、占領されてから80年間、延々と彼らの軍隊を国内に駐留させ続けた日本側には在日米軍と、その基本となっている日米安全保障条約について、いつも吸っている空気のような感覚が蔓延し、違和感も反発もなくなってしまったという現実がある。驚くべきことに、今年9月の自民党総裁選挙には9名もの立候補者が出ていたが、当初討論の場では日米関係がほとんど話題にならなかった。そのなかでは日米地位協定見直しやアジア版NATOなど積極的な議論をしていた石破茂氏が目立っていたが、その彼も首相就任以後の口ぶりは一気に重たくなってしまった。
「占領軍をこちらから追い出すわけにはいかない。追い出す度胸も展望も自信もない」。これが「敗戦後レジーム」の忠実な協力者であり続けた自民党を始めとした日本の政治家たちの本音なのではないか。ただし、日米安保条約を廃棄する手立てはびっくりするほど簡単だ。日米いずれかの締結国が宣言すれば1年後には自動終了する。日本の場合、外国との条約法案は最終的に衆議院での過半数議決で処理される。憲法改正のように3分の2の衆参両院議決の上、国民投票での過半数承認というようなハードルの高いものではない。その気になれば安保条約廃棄は、かつての自公政権でも可能だった。
しかし、日本共産党以外、安保条約廃棄を明示している政党はない。日米関係の最初の80年が友好から猜疑・恐怖、そして激突の時代であり、2回目の80年は「敗戦後」が延々と続いた「対米従属」の時代であった。今、そのアメリカが相対的に日本へのコミットを後退させ始めているとすれば、「占領軍」は追い出すまでもなく自ら去り、アメリカの過剰な関与は希薄化することになるはずだ。まさに対米従属離脱のチャンス到来なのになぜ、日本の政治家たちは奮い立たないのか。
一身独立して一国独立する──福沢諭吉の「遺言」
トランプショックは、そんな対米従属離脱のチャンスを与えてくれるかもしれない。問題は我々日本国民の覚悟と準備だ。たとえアメリカが去っても、対米従属80年が習い性になっておれば、別の国との新たな依存構造に引きずりこまれてしまうだけかもしれない。その相手が中国だとすれば、これ以上の悪い冗談はない。
トマス・ペインの『コモン・センス』が出版されてからちょうど100年後の1876年に福沢諭吉の『学問のすゝめ』が世に出た。同書第二編にある「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」はあまりにも有名だが、福沢がペリー来航の余韻収まらぬ日本人たちに真に訴えたかったメッセージは続く第三編の「一身独立して一国独立する」であり「独立の気力なき者は国を思うこと深切ならず」であった。この気概が日本人に満ち満ちておれば、あの無謀な対米戦争に追い込まれることはなかっただろう。
今こそ対米従属という国家的負債からきっぱりと離脱するためにこの福沢の「遺言」を思い出し、真剣に受けとめねばならない。日本が真に独立国家としてよみがえれば、米・中・日のパワーバランスは収まるところに収まる。日本のポジジョンもおのずから定まり、まさにコモン・センスの世界に活路は開かれるに違いない。
(了)
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