兵庫県知事選で評判ガタ落ち 斎藤知事批判の急先鋒だった泉前明石市長
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「今回の兵庫県知事選で最も評判を落としたのは、泉房穂・前明石市長でしょう。選挙前は斎藤知事を痛烈に批判していたのに選挙中は沈黙、同じ『市民派市長』と評価していた前尼崎市長の稲村和美候補の応援演説をしなかった。しかも投開票直後、再選した斎藤元彦知事に謝罪をしました。『変節』といった批判が噴出したのはこのためです」
こう話すのは、3期12年の泉市政を見てきた明石市民だ。斎藤知事問題を追う記者も、「県知事選出馬の可能性が取り沙汰されていた泉氏と稲村氏がともに出馬すれば、反斎藤票が割れて斎藤知事を利してしまう。だから稲村候補は泉氏の不出馬が確実になった段階で出馬表明をした。斎藤知事批判の急先鋒だった泉氏が応援演説をしてくれると期待していたのに、沈黙を通した。稲村氏敗北の“A級戦犯”は泉氏との声が出たのは当然のことでした」
県知事選投開票日の11月17日、泉氏の幼なじみで支援者でもある建設会者社長・朝比奈秀典氏からこんな話を聞いた。斎藤知事の選挙事務所前で複数の記者と囲み取材をしていたときのことだ。
――(県知事選で)泉房穂さんを止めたとか。
朝比奈氏 「嘘つくな、嘘つくな、おまえばらすぞ」「嘘ばかりついているからばらすぞ」と。――何をばらすのか。
朝比奈氏 本とか、本を書いてますやん。――(全国各地で)講演もして。
朝比奈氏 ある程度、ハッタリもかましているところもある、結構。「貧乏漁師や」と言って、みんな怒っている。「お金ないから参考書買われへんかった」(と言っているが)、おまえ、買えとったやろ。(囲み参加の記者から笑い)。
――本の内容と違うのか。
朝比奈氏 違いますよ。突っ込んだったら、あいつ、潰れますよ。怖いのですよ。このやりとり(音声)を11月18日のネット番組「横田一の現場直撃」で紹介すると、泉氏から該当部分の削除要請があった。「朝比奈氏も本人のXで適当なことを言っているのを勝手に盗聴されたものと言っている。ネットのデマを批判する横田さんが、自らデマを拡散させ、放置するのはどうかと思う」と批判してきたのだ。
しかし、朝比奈氏の発言は囲み取材で飛び出したもので、「盗聴されたもの」であるはずがない。私を含む複数の記者が聞いていた話であり、朝比奈氏から「オフレコ話」「録音禁止」という断りもなかった。記事や動画での紹介OKという前提で耳にした話だったのだ。
しかも県知事選中の泉氏の沈黙に首を傾げる県民の声とも矛盾しなかった。それに加えて、朝比奈氏は泉氏とは「幼なじみで選挙期間中は街宣カーのハンドルを握る」(山岡淳一郎著『暴言市長奮戦記』11ページ)と紹介されてもいた。有力支援者の発言であったため、信ぴょう性を高める要因になっていたのだ。
さらに不可解なのは、本人の当選を目指さずに斎藤知事支援のために出馬した立花孝志候補(N国党首)を泉氏が批判していないことだ。11月21日の本サイト記事「斎藤兵庫県知事、立花党首と共犯で公選法違反なら失職の可能性も」で、“斎藤・立花連合軍”の2馬力選挙について次のように問題視した。
「公選法が候補者1人あたりの選挙カーや配布ビラの数などを定めているのは、資金力に勝る陣営がビラを大量配布するなどの不公平な選挙戦になることを防ぐためだ。しかし、今回の県知事選では、自身の当選を目指さない立花氏が斎藤氏を支援、“斎藤・立花連合軍”が他陣営の2倍の選挙活動ができるという公選法違反状態と化していた。投開票日に斎藤氏に向かって『立花さんが応援して2倍の選挙運動ができたでしょう。インチキ選挙ではないか』と叫んだのはこのためだ」
しかし泉氏は、目の前で公選法違反濃厚の2馬力選挙がまかり通ったのに、選挙中も選挙後も「不公平な選挙」「知事の正当性に疑問符がつく」など批判しなかった。それどころか、再選した斎藤知事に謝罪するという変節もしたのだ。
稲村候補を応援しなかったことは「コメンテーターが特定候補の応援を控える慣習のテレビに出られなくなる」との言い訳が通用するかもしれないが、専門家が「フェアではない」と問題視する2馬力選挙に対しては、コメンテーターとして批判できたはずだ。
しかも立花氏のポスターには泉前市長の暴言(パワハラ)報道が紹介され、斎藤知事のパワハラ報道に疑問を投げかける根拠に以下のように使用されていた。
「泉房穂前明石市長のパワハラ報道とその後の選挙を思い出してください。当時泉さんはパワハラは事実として認めたうえで謝罪し辞職されましたが、その“パワハラ”とされる言動は市民の生活と安全を守るための行動であったことがわかり、その後に行われた出直し選挙で見事に再当選をはたしました」と当時を振り返ったうえで、「職員にパワハラをしているとテレビで報道される首長は正義です」「テレビは国民を洗脳する装置」と強調、「本当に(斎藤)前知事は悪人だったのでしょうか」と疑問を呈示したのだ。
しかし、泉前市長のパワハラ(暴言)報道と、斎藤知事の文書問題は似て非なるものだ。前者は泉市政転覆を狙った政治的色合いが強いものだった。「火をつけてこい」との暴言を録音した音声データは、約1年半も経った2019年1月に報道機関にリークされて報じられた。泉市政を終わらせたい反対勢力が、市長選を控えた時期を狙って情報提供したのは明らかだった(先の『暴言市長奮戦記』が詳しく紹介)。
これに対して斎藤知事の文書問題は、元県民局長の内部告発(公益通報)が発端であり、県職員アンケートや百条委員会での事情聴取などを積み重ねたうえで、全会一致で不信任決議案可決に至ったものだ。
1年半の時間差がある政治的クーデターにしか見えない泉前市長のパワハラ(暴言)報道と、百条委での議論が積み重ねられた斎藤知事の文書問題報道とはまったくの別物と言っていい。このことは泉氏自身がよく分かっているはずなのに、「私のパワハラ(暴言)報道と斎藤知事の文書問題は似て非なるものだ。“斎藤知事悪くないキャンペーン”で使用するな」などと立花氏に抗議、発言の機会があるテレビやラジオで真相を語ることもなかった。
ちなみに泉氏は8月30日の百条委員会を傍聴。囲み取材で次のように斎藤知事批判を口にしながら、「不信任一択」と言い切ってもいた。
「(百条委傍聴で)改めて大きく思ったのは、まったくと言っていいくらい、(斎藤知事は)自分自身の非を認めないわけですから、ある意味、『結論が出た』と思いました。多分最後まで認めないでしょうね」「改めて当のご本人の開き直りというか、自分が悪いとはまったく思っていない。むしろ自分が被害者のような感じすら持っている状況ですから。『多分時間が経過してもスタンスは変わらない』と改めて感じました」「当然、不信任(決議提出)に行くのだと思いますよ。これで不信任(決議案提出)をしなければ、当然、県議会が攻められてしかるべき。維新を含めて今日をもって次のステージに行くのと違いますか」
この後、県議会は泉氏の指摘に合致するかたちで動いていった。9月12日には4会派と無所属議員が辞職要求をして、19日開催の県議会までに辞めない場合には不信任決議案を提出することを予告した。それでも斎藤知事は辞めることなく、県議会に臨み、県議全員が不信任決議案に賛成、失職することになった。
斎藤知事批判の急先鋒だった泉氏がなぜ、県知事選で沈黙、再選後に謝罪したのか。そして、いまだに2馬力選挙やPR会社への買収疑惑など今回の県知事選の問題に対してコメントをしないのはなぜなのか。泉氏の沈黙と変節については謎に包まれたままだ。
【ジャーナリスト/横田一】
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