2024年12月18日( 水 )

地域に根差した国際派代議士・緒方林太郎氏に聞く(前)

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 衆院選では福岡県内11選挙区のうち7選挙区で自民党が勝利したが、大都市圏である北九州市の選挙区(9区・10区)では、野党系の現職が勝利。福岡9区(八幡西区など)では緒方林太郎氏が4期目の当選をはたした。前編では、元外務省職員である緒方氏に、国際情勢を踏まえて日本の進むべき道についてうかがった。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)

インドは独自の観点による外交

緒方林太郎氏    ──国際情勢における現在の日本の状況を踏まえ、外交官というキャリアから日本の進むべき道をどのように考えておられますか。

 緒方林太郎氏(以下、緒方) 1990年代から2000年代前半のアメリカ一強という世界観が完全に崩壊したように思います。しかし、2つ、ないし3つの軸があって互いに競い合っているともいえないように思います。アメリカに対して中国のパワーが伸びてはいますが、東西冷戦のような構図にはなっていかないように思います。

 外交政策ではインドが典型的だと思いますが、西側陣営につくとか、そういうものに巻き込まれず、独自の道を歩んでいます。インドは、その情勢の時々を踏まえながら、自国の国益の観点から判断しています。

 たしかにアメリカが「世界の警察官」とはいえなくなった一方、中国が経済的に台頭しています。しかし、中国の世界観にどこの国も同調しているのかというと、中国がアメリカに対抗する価値観を提示できているわけではありません。そうしたなかでインドのような、独自の価値観をもった国が増えているように思われます。

日米関係を基軸とした外交を

 ──そういった国が10カ国くらい出てきたら世界は変わると思いますが…。

 緒方 まさに「グローバルサウス」と呼ばれるものがそうです。インドやインドネシア、トルコなどの新興国がグローバルサウスと呼ばれますが、それが1つのまとまりをもつかというと、各国独自の考え方があります。

 冷戦時代は、米ソ対立のなかで核戦争の脅威など危機感があったと思いますが、世界を大きく見た場合に、視界はそれなりに良好でした。現在の国際関係は、インドにしろブラジルにしろ、個別の案件に対してケースバイケースで判断しています。

 そうしたなかで日本がどのような進路をとるのか。残念ながら日本が独自の軸を打ち出せるのかというと難しいように思います。

 中国の影響力に飲み込まれないためには、やはり日米関係を基軸とした外交関係を構築する必要があります。現実として、日本は近隣諸国の核の脅威に晒されており、正しいか正しくないかはあるにせよ、米国の持つ核の傘に依拠せざるを得ない状況があります。

 日本は、巨大な中国に対抗するために、精一杯努力して、日本・アメリカ・インド・オーストラリアの4カ国によるQuad(日米豪印戦略対話、4カ国戦略対話とも)で戦略的同盟を構築しています。インドが元来、どことも軍事同盟を結ばないといってきたなかで、中国包囲網に緩やかにインドを引き込めているのは、外交努力を相当行ったから実現したと思います。もちろん4カ国は、同床異夢とは思いますが、尊い存在であることは間違いありません。

 もちろん、中国に敵として向き合うことではないと思います。私は、中国を敵視する主張にポジティブ(肯定)ではありません。

中国との対話の必要性

 ──保守派は単純に「反中国」を掲げますが、日中関係はそのようなものではないように思います。

 緒方 私は声を大にして申し上げたいことがあります。よく自民党右派の方々が「中国はけしからん」と叩くような言動をしますが、実際に中国を訪問して、しかるべき立場の人と会って話をする勇気がない人が多いと思います。

 今回の選挙戦でも、外交について問われた際に申し上げたのは、「私は親中派でもないけれど、中国は中国なりの理論や主張をもっていて、中国側と議論してみてはどうか?」「福岡であれば中国の総領事と話してみては」ということです。

 現在の楊慶東総領事は日本語ができませんが、前任の律桂軍氏とは、何度かやり取りがありました。中国人は懐が深くて、たとえば、台湾政策、ゼロコロナ政策などについて議論して「なるほど、そういう風な考えなのだな」と感じることがありました。

 中国の外交官に対して「俺とあなたでは意見が一緒のはずがない」から「大いに飲み食いして話そうじゃないか」と言ってきました。

 日本の政治家、とくに右派的な政治家ほど「中国がどこまで考えているのかわからない」面があります。今年7月に中国側の招きで、訪中しました。決して取り込まれておらず、厳しい意見も申し上げました。中国国内の実情を見て、中国政府も大変な状況にあり、苦悩していることを感じました。「中国は日本のバブル崩壊後の経験に学んだほうが良い」とアドバイスすると、中国側は、大変興味深そうに聞いていました。

外国人労働者は安価な労働力ではない

 ──外国人労働者の受け入れ、移民政策についてはどう思われますか。

 緒方 外国人の方に働いていただけないと動かない業界が増加しています。日本人が発想を変えなければならないのは、技能実習など外国人を安い労働力だと捉えていることです。絶対にそうした考え方はやめるべきです。日本は円安で、日本が今後も諸外国から働き先として選んでもらえるというのは幻想です。

 オーストラリアの農場の時給は、日本円にして2,500円です。もちろん労働条件はよいとは限りませんが、本国への仕送りだけでみた場合、明らかに日本よりオーストラリアの農場です。しかし、日本は医療や社会保障などが整備されていて、きちんと行えば「日本のほうが良い」となると思います。問題は、「移民ではない」「単純労働力の受け入れではない」とのお題目があるために、制度が複雑になっていったことではないでしょうか。

(つづく)

【近藤将勝】

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(序)

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