介護福祉に欠かせないテクノロジー(前)
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「高齢社会をよくする女性の会」理事長で評論家の樋口恵子さんは、大の機械音痴だと聞いたことがある。その樋口さんが、「80代になるとお互いに出歩くのが難しくなってきます。やはり『ヨタヘロ期』になる前に、ICT(情報通信技術)の活用能力をお互いに身につけておくことが大事だと思うようになりました」「高齢化は多様な障害者が増える社会であって、その個性、多様性に対応したコミュニケーションツールが必要です。会としてデジタル化を毛嫌いせずに受け入れようと、切り替えました」(『朝日新聞』2022年11月10日)と心情の変化を吐露している。
「ヨタへロ期」にはデジタル対応が最適
樋口さんは、何をするにもヨタヨタヘロヘロの世代を「ヨタヘロ期」と命名する。「ヨタヘロ」になる人は圧倒的に女性が多いという。「ヨタヘロ期」を生きる高齢者の課題は「コミュニケーション」だ。出歩けなくなったら、携帯電話やスマートフォンを使ったつながりが必要だと説く。とくにLINE(ライン)の活用は有効だろう。コミュニケーション力を高めるためにもICTは欠かせない。
翻って、運営する「サロン幸福亭」はどうなのだろう。常連客の大半はスマホを持ち歩いている。でも、電話として使用するものの、ラインなどを使って連絡を取り合っている人は少ない。「幸福亭」の理念は孤独死回避である。気心の知れた仲間同士の連絡は密に取り合う。以前、「幸福亭安心ネット」という見守りシステムをつくったことがある。仲間に異変が生じて助けを求められたとき、2人一組になって仲間のもとに駆けつけるというアナログチックなシステムだ。実際、これで仲間の1人を助けたことがある。しかし、仲間の本心は「助けられる」ことが目当てで、自ら「助ける」という発想を持つ会員は少なかった。現在自然消滅状態にある。
スマホは「携帯用インターネット」だが、インターネットを駆使してさまざまな世界につながりをもとうという人はいない。機器を操作するのが面倒なのだろう。ニュースなどの情報の大半はテレビからだ。それもバラエティ番組が大半を占める。新聞を取る人も激減した。近い将来、友人の多くをさまざまな理由(死去、入院、施設への入居など)で確実に失う。残されるのは自分1人だ。そこに孤独死の影が忍び寄る。
ピンピンコロリでは逝けないのです
「幸福亭」常連のMさんの口癖は、「誰にも迷惑をかけずにコロリと逝きたい」ということだと前々回に紹介した。できれば「ピンピンコロリ」で逝きたいと念じているが現実として難しい。「ピンピン」(元気で暮らすために健康に留意)は本人の努力次第で可能だが、「コロリ」は自分の思うようにはいかない。「ピンコロ」を願う人は認知症になることをひどく恐れる。「ああ(認知症)はなりたくない」という。どうやら認知症になると、すべてのことがわからなくなり、「周囲に醜態をさらけ出すことに耐えられない」ということらしい。認知症にもさまざまな症状があり、人によって症状の程度はさまざまだ。「人間らしさがすべて消滅する」という発想は昔の話。
(つづく)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。関連記事
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