学術研究都市として成長する糸島
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糸島市は2024年、連続テレビ小説「おむすび」の舞台となったことで、その知名度をさらに向上させた。JRや高速の利用で、天神、博多をはじめとする福岡市都心部まで約40分。豊かな自然景観と、山海の幸に恵まれた糸島は、官民双方による積極的な情報発信も手伝い、すでに観光地・食材の宝庫として全国的な知名度を獲得しているが、今回の“朝ドラ”効果によって、コロナ禍前の観光入込客数約682万人(18年)超えへの期待が高まる。
学術研究都市としてのポテンシャル
また、24年は糸島にとって、学術研究都市としての深化の兆しが見受けられた年でもあった。九州最高峰の知的集団である九州大学・伊都キャンパスの開設から間もなく20年。伊都キャンパス誕生にともなう“九大効果”の発現は、これまで元岡やその周辺エリアである周船寺、田尻、JR九大学研都市駅を擁する北原、西都など、福岡市側で先行してきた。
糸島でも空き家を活用した九大生向けの学生寮や、前原商店街における、学生や移住者が店の一角を借りてお店を開くといった挑戦を介して、新旧住民の交流促進が図られるなど、九大効果がまったくなかったわけではない。しかし、伊都キャンパスの存在をいかした新たなまちづくりという点においては、インパクトに欠ける状態が続いていた。
構想はあった。九大を中心に構成された企業および研究機関群「サイエンスパーク」を糸島に整備しようとする試み、糸島サイエンス・ヴィレッジ(以下、SVI)構想がそれだ。民間主導の財源確保と、市による土地利用の規制緩和など、これまで実現に向けて着実にその土台を築き上げてきた。
SVI構想の事業主体となる企業の設立が待たれるなか、24年6月、ついにイトシマ(株)が設立され、本格始動をはたすと、同年10月には、SVI構想を推進する中核組織、(一社)SVI推進協議会にKDDI(株)や(株)奥村組など4社が加入。伊都キャンパスの西側隣接地(志摩馬場地区)に、九大や企業、研究機関が新技術の実用化・事業化を目指し共創する場を整備するという同構想は、その実現可能性を高めることになった。現時点の想定であり、確定したものではないが、学生街、エネルギー、ヘルスケア(免疫)、ホテルなど、それぞれ特徴をもった区域(ユニット)も設けられる方針だ。
九州最大規模のデータセンター誕生へ
さらに、24年12月には、不動産投資・開発を行うアメリカ企業のアジア・パシフィック・ランドグループ(APL)が、糸島にデータセンター(以下、DC)を建設すると発表した。規模を示す総受電容量は最大300MWで、九州最大規模になる。投資額は3,000億円超が見込まれている。
近年、スマホやタブレットなどのデジタル機器の普及に加えて、生成AIの開発や関連するサービスの提供が加速度的に進んだこともあり、膨大なデータ処理を行うDCへの需要が高まっている。
APLが発表した糸島のDC建設地は、西九州自動車道の前原インターチェンジ近辺の約12万m2の敷地。25年春の着工予定で、29年はじめに2棟程度を稼働し、その後、34年中に全部で6棟の稼働を目指している。「本プロジェクトはこれから造成工事に着工という段階ですので、詳細は今後決めてまいります」(同社)とのことだが、SVI構想と同様、糸島のまちづくりにおける選択肢の幅を大きく広げるものであり、動向が注目される。以下に、DC誕生に際して聞かれた市民の声を紹介する。
- 市としては、固定資産税など税収増に期待がもてる。
- 高等教育を受けた人材の市内への定住促進や、DCを活用するIT事業者の誘致につながればと良いなと思う。
- 工場ではないので、地下水の採取や工場排水もないと思われます。その点、懸念材料はないのかなと。
- それなりの電力消費があるでしょうから、電力事情が気にかかっています。
農業や漁業など、一次産業に強みを持つ糸島だが、伊都キャンパスの誕生やそれに連なる知的資源の実用化・事業化に主眼を置いたまちづくり、民間投資の誘発によって、地方創生のロールモデルとしてもその存在感を高めている。
【代源太朗】
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