2025年01月10日( 金 )

【新春トップインタビュー】政治家として歴史の法廷に立つ覚悟 時流に流されない政治の実現を

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衆議院議員 緒方林太郎 氏

 2024年10月27日の衆院選で、自民・公明両党は過半数の議席を失い、少数与党へと転落した。1月24日に開会する通常国会において、野党の賛成がなければ政府が提出する25年度の予算審議は厳しいものとなる。「少数与党では政治が不安定になり、外交の信頼も得られない」と主張するのが、元外交官で、福岡9区選出の緒方林太郎・衆議院議員。世論に迎合せず、持論を展開する同氏への期待は大きい。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)

少数与党への不安と求められる政界再編

衆議院議員 緒方林太郎 氏
衆議院議員 緒方林太郎 氏

    ──今後の政局、政治動向はどのように動いていくとみていますか。

 緒方林太郎氏(以下、緒方) 立憲民主党は野田佳彦氏が代表ですが、野田さんを中心とする中道保守グループと、いわゆる左派とされる人たちは水と油で、相容れるところがありません。自民党はどうなのかというと、石破茂首相よりもリベラルな位置にいるのは、岩屋毅外務大臣などだと思います。自民でもリベラル系と右派の人たちは、別の政党といってよいほど考え方に隔たりがあります。

 立憲の中道から左派の人たちと、それ以外の左寄りの人たち、中道的な人たち、自民の保守的な人たちがいます。そういう構図をもう一度再編すべきではないかと主張しているのが、橋下徹さんです。今、政界は「こういう動きをしたら、こうなる」という展開について、視界不良な状況にあります。やはり、橋下さんがいうように、政界の構図をもう一度整理する必要があるように思います。

 おそらく通常国会(※1月24日開会の見通し)でも、与党は野党から揺さぶられると思います。少数与党での政治は不安定であり、そのような状況は長期化させてはならないと思います。それは自民党に助け舟を出すということではありません。ふらふらと政治が安定しないことは、国の弱体化につながりますし、外交・防衛において他国から揺さぶられることにもなります。外国から足元を見られたら、まともな外交はできません。世界的にみると、フランスは少数与党が政権を運営しています。日本も、一党政権ではなく連立政権が常態化していくことを受け入れる必要があります。

 問題は、内外から足元を見られて、結果として醜悪なものが出てくることです。強くない与党で編成する予算が出てくることは来年度の当初予算まではやむをえませんが、それ以降は絶対にやめさせたいと思います。

組織団体に頼らず10万票を獲得

 ──昨年の衆院選を振り返ると、福岡9区には自民も立憲も公認がいないなかで、緒方代議士が圧勝しましたが、その要因はどのあたりにあると考えますか。

 緒方 今回、有権者の皆さまから10万2,885票をいただくことができました。ただ、初当選(2009年)の得票数は12万2,815票でしたので、票数では初当選のほうが多かったのです。当時は選挙区内の人口が現在よりもっと多く、投票率も高かったことがあります。正直に申し上げて、今回、10万を超える票をいただけるとは予想していませんでしたが、3期までの取り組みに対する「通知表」であると受け止めています。

 もちろん、地元回りだけをやっていては、「いつまでやってるのか、もっと中央で政治家として仕事しろ」という声が出てきます。期数を重ねるごとにそのことが問われることも実感しています。

 選挙についての捉え方は毎選挙ごとにあるのですが、6回の選挙を戦って思うのは、「地元(福岡9区)から、地域の代表として国政に行ってこい」という信頼感を得たということです。前回(21年)は、団体からいただいた推薦状は1枚だけでした。こちらから推薦依頼を出したものではなく、ある業界団体の事務局長をされている方から「推薦決定書を送ったから、関係先を回るといいよ」とご厚意でいただいたものでした。

 前回に比べると、今回、こちらから推薦をお願いした団体はありましたが、いただいた推薦決定書は、5、6枚です。組織型の選挙ではありませんでしたが、組織依存でないからこそ地域の信頼をいただいたというのが私の実感です。

 ──八幡西・東区と若松区が選挙区ですが、10万という票はどこから得られたと思いますか。

 緒方 地域での認知度は、選挙ごとに上がったように思います。組織型の選挙ではないといいましたが、連合福岡傘下のいくつかの組織からは推薦をもらいました。この3年間、地元活動ばかりでなく国会で政策課題に取り組み、与党ではありませんので、問題点を指摘して物事を変えさせることができたという自負心をもっています。

 国会会期中は月曜の夜に上京しますが、福岡空港や北九州空港を利用して、最終便に近い便で向かいます。火曜から金曜まで国会で、金曜の夕方にまた地元に戻り、土日月は地元活動という日常です。

ポジションとしての自民党保守派への疑問

 ──選挙後、他党からの誘いはあったのでしょうか。

 緒方 10月の選挙で自公が少数与党となり、国会の状況が一変しました。具体名は出しませんが、いろいろなところから電話がかかってきました。現在、私は、大分の吉良州司議員らと「有志の会」という会派で活動していますが、一本釣りするような動きがあったため、「会派4人で行動を共にすると決めているので、窓口を一本化してほしい」とアプローチしてきた方々に申し上げました。

 ──自民党のなかで右派、保守派ともいわれる議員はどのくらいいるのでしょうか。

 緒方 自民党内で、2割から3割くらいはいるように思います。それは安倍晋三元首相が保守的な傾向が強く、党内でそうした立場を取ったほうが有利との考えがあるように思います。

 一方で、保守とされる界隈で少しでもそこから外れた動きをすると、激しいバッシングを受けます。保守議員として知られる稲田朋美さんは、歴史認識などで保守色の強い発言をしていました。しかし、防衛大臣の際に、PKO派遣部隊の日報不開示問題などで大臣を辞任したことなどがあり、正気に返ったのか、選択的夫婦別姓に賛成したことで保守界隈から攻撃を受けています。

 自民党総裁選に立候補した小林鷹之さんは、比較的保守的なポジション取りをしているようにみえますが、100%思想を信じているのかどうか、小林さんから反論されるかもしれませんが懐疑的にみています。

複雑化する国際情勢で日本のとるべき進路

 ──国際情勢における現在の日本の状況を踏まえ、外交官というキャリアから日本の進むべき道をどのように考えておられますか。

 緒方 1990年代から2000年代前半のアメリカ一強という世界観が完全に崩壊したと思います。しかし、2つ、ないし3つの軸があって互いに競い合っているともいえません。アメリカに対して中国のパワーが伸びているものの、東西冷戦のような構図にはなっていないと思います。

 外交政策ではインドが典型的だと思いますが、西側陣営につくとか、そういうものに巻き込まれず、独自の道を歩んでいます。インドは、その時々の情勢を踏まえながら、自国の利益の観点から判断しています。

 たしかにアメリカが「世界の警察官」とはいえなくなった一方で、中国が経済的に台頭しています。しかし、中国の世界観にどこの国も同調しているのかというと、中国がアメリカに対抗する価値観を提示できているわけではありません。そうしたなかでインドのような、独自の価値観をもった国が増えているように思います。

 ──そういった国が10カ国くらい出てきたら世界は変わると思いますが・・・。

 緒方 まさに「グローバルサウス」と呼ばれるものがそうです。インドやインドネシア、トルコなどの新興国がグローバルサウスと呼ばれますが、それが1つのまとまりをもつかというと、各国独自の考え方があります。

 冷戦時代は、米ソ対立のなかで核戦争の脅威など危機感があったと思いますが、世界を大きく見た場合に、視界はそれなりに良好でした。現在の国際関係は、インドにしろブラジルにしろ、個別の案件に対してケースバイケースで判断しています。

 日本は、巨大な中国に対抗するために、精一杯努力して、日本・アメリカ・インド・オーストラリアの4カ国によるQuad(日米豪印戦略対話、4カ国戦略対話とも)で戦略的同盟を構築しています。

台頭する中国との対話の必要性

国会 イメージ    ──保守派は単純に「反中国」を掲げますが、日中関係はそのようなものではないように思います。

 緒方 私は声を大にして申し上げたいことがあります。よく自民党右派の方々が「中国はけしからん」と叩くような言動をしますが、実際に中国を訪問して、しかるべき立場の人と会って話をする勇気がない人が多いと思います。

 今回の選挙戦でも、外交について問われた際に申し上げたのは、「私は親中派でもないけれど、中国は中国なりの理論や主張をもっている。中国側と議論してみてはどうか?」「福岡であれば中国の総領事と話してみては」ということです。

 現在の楊慶東総領事は日本語ができませんが、前任・律桂軍氏とは、何度かやり取りがありました。中国人もそれなりに懐が深くて、たとえば、台湾政策、ゼロコロナ政策などについて議論して「なるほど、そういう風な考えなのだな」と感じることがありました。中国の外交官も当初「俺とあなたでは意見が一緒のはずがない」と言っていたのが、話しているうちに「大いに飲み食いして話そうじゃないか」というようになりました。一方、日本の政治家は、とくに右派的な政治家ほど、中国がどこまで考えているのかよく分かっていない場合があります。

 今年7月に中国側の招きで訪中しました。決して取り込まれているわけではなく、先方に対して厳しい意見もいいました。また、中国国内の実情を見て、中国政府も大変な状況にあり、苦悩していることを感じました。「中国は日本のバブル崩壊後の経験に学んだほうが良い」とアドバイスすると、中国側は、大変興味深そうに聞いていました。

 ──外国人労働者の受け入れ、移民政策についてはどう思われますか。

 緒方 外国人の方に働いてもらわないと労働力が足りない業界が増加しています。日本人が発想を変えなければならないのは、技能実習生などの外国人を安い労働力だと捉えていることです。絶対にそうした考え方はやめるべきです。日本は円安で、日本が今後も諸外国から働き先として選んでもらえるというのは幻想です。

 オーストラリアの農場の時給は、日本円にして2,500円です。もちろん労働条件はよいとは限りませんが、本国への仕送りだけでみた場合、明らかに日本よりオーストラリアの農場です。しかし、日本の医療や社会保障などが外国人労働者に対しても十分に整備されれば、「日本のほうが良い」となると思います。問題は外国人労働者の受け入れについて、「移民ではない」とか、「単純労働力の受け入れではない」などの建前に縛られているため、制度が複雑になっていったことではないでしょうか。

 ──緒方代議士は、どういう領域を磨いて、日本国家・国民のための政治を目指されていますか。

 緒方 政策的な面と、政局的な面とあると思います。政策的な面について「103万円の壁」の議論などを見ていると、「ばらまきオンパレード」です。現在、この「壁」に関して、夫婦の扶養にどちらかが入るケースでは、収入が減ることがないよう制度設計されています。問題になっているのは、大学生らを親が扶養する特定扶養控除で、学生の年収が103万円を超えると、扶養対象外となり、親の税負担が増え、世帯としての年収が減ります。その部分だけを塞げばよい話です。

 消費税の減税は難しいと思います。増税すべきとは思いませんが、現在の日本の財政はよいわけではありません。岸田政権において、予算規模は膨らみ、ばらまき政策を実行しました。岸田元首相は、宏池会の祖・大平正芳のような財政健全化路線とは異なる政治家でした。私は政治家として、ばらまきで国民の歓心を買う在り方に政治が振り回されることに危機感を抱いています。

 国民に耳触りの良い話ばかりでなく、時に国民に厳しいこともやらなければ、この国はポピュリズムにより、国の在り方を誤るとの危機感をもっています。

 政治家としての目標は、自分が死ぬ5秒前に、自分がこの世にいたことでこの世は絶対によくなったと確信をもてればそれでよいと思っています。かっこいいことをいうわけではありませんが、中曽根康弘元首相が「政治家は、歴史の法廷に立つ」(※中曽根氏の「自省録」新潮文庫参照)という言葉を仰っていました。私も同じ心境です。

【文・構成:近藤将勝】


<プロフィール>
緒方林太郎
(おがた・りんたろう)
1973年、北九州市八幡西区生まれ。県立東筑高校卒業。現役で東京大学文科1類に進学し、法学部3年時に当時最年少で外交官試験に合格、94年に中退して外務省入省。在セネガル日本大使館勤務や条約課課長補佐など経て2005年に退官。09年の総選挙で福岡9区から立候補し初当選(民主党)、14年の総選挙で2期目当選(比例九州で復活)。この間、民主党・民進党の県連代表も務める。17年の総選挙では希望の党から立候補したが三原朝彦氏に惜敗。21年の総選挙では無所属で出馬し三原氏を破り当選、24年の衆院選では、約10万票を獲得し再選。父親は経済的理由で大学進学を断念し、新日鉄八幡製鐵所に勤めていた。柔道3段。妻(元外務省)と娘の3人家族。

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