森林が支える「当たり前」の恩恵(後)
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福岡県議会議員 桐明和久 氏
森林は、水源の涵養(かんよう)をはじめとするさまざまな恩恵を私たちに与えてきた。ところが、森林管理の不全に加え、異常気象などにより、森林の恩恵は損なわれつつあり、森林のある地域はもちろん、そうではない地域にも悪影響、とくに安全を脅かすケースも見られるようになった。そうした事態を回避し、森林の恩恵を次の世代に引き継ぐにはどうすればよいのか──。八女市・八女郡選挙区選出で、自由民主党福岡県議団の農政懇話会会長を務め、林産業の状況にも詳しい福岡県議会議員 桐明和久氏に、あるべき方向性を聞いた。
恩恵の周知が必要
──今年度から「森林環境税」、それを財源にした「森林環境譲与税」(※)の制度が始まっています。
桐明 森林環境税は、森林整備などの財源に充てるために、1人あたり年間1,000円が徴収されています。「森林環境譲与税」はそれを自治体に交付するもので、森林がない自治体にも配分されます。使途は自治体が自由に決められるもので、たとえば県産材を活用した公共施設の建設などに役立てられるケースが見られます。これに先立ち、福岡県では08年度から森林環境税の制度をスタートしており、森林整備に役立てられてきました。福岡県は、早めに森林整備に手を打ってきた自治体でもあるのです。5年ごとに制度の見直しを行ってきましたが、審議員の方々からはこの制度の重要性を認めていただいています。
ただ、残念なこともあります。一部報道で、森林環境税・譲与税について街の人たちにインタビューしていたなかで、批判的な意見がありました。現在のような経済環境ですから、新たな課税には抵抗感があるのは当然だと思われますが、地方に暮らす人々の実情も踏まえ、何のためにこのような制度があるのか、すべての国民に恩恵があるということをより周知すべきだと感じています。
※森林環境税:2024年度から個人住民税均等割の枠組みを用いて、国税として1人年額1,000円を市町村が賦課徴収するもの。「森林環境譲与税」は、市町村による森林整備の財源として、19年度から市町村と都道府県に対して、森林環境税のなかから私有林・人工林面積、林業就業者数、および人口による客観的な基準で按分して譲与されている。また、森林環境譲与税は、森林環境税および森林環境譲与税に関する法律に基づき、市町村においては、間伐などの「森林の整備に関する施策」と人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発などの「森林の整備の促進に関する施策」に充てられる。都道府県においては「森林整備を実施する市町村の支援等に関する費用」に充てることとされている。 ^
政治の使命とは
──今後、何に取り組むべきだと考えていますか。
桐明 木材活用の状況や森林保全の重要性、山の実情をより幅広い国民、県民に知っていただくことが第一です。先日、福岡県八女森林組合からの要請があり、「秋の特別市」に出席しました。通常は5,000m3程度の原木・木材が集まる市場ですが、今回は6万㎥が集まっているとのことでした。その理由は、近年は機械乾燥の技術が進歩、一般化しており、軟らかい八女材の木材のほうが、乾燥させやすく曲がらないため需要が多いのだと説明を受けました。九州すべての地域からバイヤーが集まっていたそうです。これまで木材というと、宮崎県を筆頭に、鹿児島県、熊本県、大分県などが優位性をもっていましたが、実は八女産材など福岡県産材も競争力が高まりつつあるというわけで、林産業の置かれる状況も変化しているようなのです。
異常気象が常態化するなかで、その対策として森林保全の取り組みをより一層やっていかなければならないとも考えていますし、福岡県が先頭に立って取り組んでいる「ワンヘルス」という人と動物と環境を一体的に考える取り組みも進める必要があります。そして、日本だけでなく地球全体を見据え、次の世代に森林やそれをベースとした安心安全な環境を残すことが、我々の役割であると認識しています。我々はこれまで森林からの恩恵を受けてきたのですから、これを残すために何をすべきなのか、しっかりと考えていかないと、いずれは人間が生活できなくなります。私たち政治に関わるものの使命は、そうした問題に対処することであると認識しています。
(了)
【田中直輝】
<プロフィール>
桐明和久(きりあけ・かずひさ)
1958年10月、八女市柳島生まれ。熊本工業大学土木工学科卒後、81年に(株)桐明組に入社。88年に同社代表取締役に就任。2011年の福岡県議会議員選挙で初当選し、現在は4期目で、自民党県議団副会長、農政懇話会会長を務める。農林水産委員会に所属。第72代福岡県議会議長(22年6月21日~23年4月29日)。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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