【新春トップインタビュー】期待以上の感動を提供するため、前例を踏襲しないエンタメを常に展開
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福岡ソフトバンクホークス(株)
代表取締役専務COO兼事業統括本部長
太田宏昭 氏2024年シーズンに4年ぶりのリーグ優勝をはたした福岡ソフトバンクホークス。今年は球団誕生から20周年の節目となるが、その間に「常勝軍団」と称される地位を築き上げてきた。強さもさることながら、注目されるのが昨シーズンに観客動員が過去最高を記録するなど、球団経営においても成功を収めていることだ。そこで、球団のイベントなど事業面を統括する太田宏昭氏に、運営にあたっての工夫などについて話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)リーグ優勝の要因とは
──2024年シーズンのリーグ優勝おめでとうございます。小久保裕紀監督の1年目でしたが、この成功を支えた要因をどのように分析していますか。
太田宏昭氏(以下、太田) ありがとうございます。昨シーズンは監督が代わり、山川選手が加入するなど、体制が大きく変わった1年でした。小久保監督は「監督とは何か」ということに明確な答えをもっている方だと感じています。選手への指導はコーチに任せ、彼らから上がってきた選手の状態を基にしたゲームプランを提案してもらい、その最終判断や組織をマネジメントするのが監督、といった感じです。選手を直接指導することはほとんどなかったと聞いています。普段からさまざまな書物を読み知識を蓄え、そうしたことも含めた事前準備の徹底を行う、隙のないイメージの方ですね。ですので、孫正義オーナーと会話する際には、普通にビジネスに関する話もされているくらいです。
観客動員記録を更新
──昨シーズンは公式戦の観客動員数の記録を更新し272万6,058人となりました。その要因は何だったのでしょうか。
太田 何よりチームが年間を通じて大変強かったことがあげられます。一方で、私たちはエンターテインメントにこだわっており、みずほPayPayドーム福岡にきたお客さまに喜んでいただけるよう常に工夫を凝らしています。それらが総合的にかみ合ったのが、観客動員記録の更新につながったのではないかと考えています。本拠地開幕ゲームではマツケンサンバを松平健さんが歌う演出を行いましたが、それによりファンの方々に「今年のホークスは昨年とは違う」と、期待感をもっていただけたのではないでしょうか。
ホークスには「めざせ世界一!」というスローガンがあります。また、それを実現するために、我々は「最強であること」「お客さまに感動していただけること」を常に重要視しています。感動の提供には前例を踏襲せず、お客さまの期待を超えるものを常に積み重ねることが大切ですが、そのためのアイデアが社内から出てくるような組織になってきたことも、観客動員数更新の要因の1つになったのだと考えています。
──社員の方々、そして太田専務自身はどのような工夫をしているのでしょうか。
太田 社員はたとえば今の時期(昨年12月初旬)でいうと、来年の開幕ではどんな演出をしようか、などといったことで悩んでいると思います。本日もアイドルグループのコンサートが開催されていますが、野球以外のエンターテインメントからもヒントを得て、我々の事業と組み合わせる取り組みも行っています。目標を高く持つことがソフトバンクグループの企業風土。それに社員たちが違和感をもたないように段々となってきたと感じています。ですから、私は今では企画案に対してほとんどNOをいうことはなくなりました。
私個人としてとくに重視していることは、ファンの方々はもちろん、ファンではない方々、ファンになってくださる可能性のある方に楽しんでいただけるエンターテインメントをいかに提供できるかです。そのため、チームが強ければお客さまが喜んでくださるだろうとはまったく考えていません。チームが強く、格好よく、イベントの演出も優れているから認めてもらえる。つまり、すべてにおいて手を抜かないことが重要だと感じています。
地域貢献とホークス
──ホークスは地域貢献にも積極的です。
太田 我々は、福岡を盛り上げることが最大の地域貢献であると考えています。なかでも重要なのが人を動かすこと。ドームで試合やイベントを開催すれば人が動き、そこから得られるものを最大化するのが我々事業部門の役割だと認識しています。もちろん、毎年、鹿児島や熊本で試合を開催していますが、その際にも同様の考え方で臨んでいます。
昨シーズンは従来の「鷹の祭典」を刷新し、「鷹祭 SUMMER BOOST」を初開催しました。「鷹の祭典」はもともと、チームとファンの一体感を醸成するためのレプリカユニフォームの配布イベントとしてスタート。そこから、街中でユニフォームを着用する方々も増え、福岡の一大イベントにしていこう、どんたくや山笠、放生会に並ぶイベントにしていこうという想いがありました。しかし、刷新前の2年は期間中のチームの成績が悪く、かつマンネリ化した部分も見られました。非常に高い認知度があったイベントでしたから、そのリニューアルは我々にとってチャレンジングなものとなりました。
そこで、ユニフォーム配布といった鷹の祭典のよい部分を引き継ぎながら、エンターテインメントの幅をより広げ、より楽しんでいただけるイベントを目指しました。球場以外でのムードを高めるため、さまざまな方々のご協力により天神でイベントを実施したのですが、そこに選手も参加したことで、大変な盛り上がりとなりました。コロナ禍明けの福岡をとにかく盛り上げたい、我々にできることはドームだけではないということを見せたい、という想いで取り組みました。
──筑後市にファーム施設「タマホーム スタジアム筑後」を設けたことも、地域貢献となっているように見えます。
太田 「雁ノ巣球場」からの移転先選定については、私と三笠杉彦ゼネラルマネージャー(取締役球団統括本部長)が担当していました。選定に関してはさまざまな噂が出ていましたが、立候補いただいた34地域のすべてを回り、説明を尽くしたうえで決定するなど、公正でオープンな状況のなかで進めました。そのなかで、新幹線駅の真横に7haの土地を用意していただけるという魅力的な提案をいただいた筑後市に決定したという経緯です。その施設も26年シーズンには10周年を迎えます。23年より4軍が新設され、寮を増設。寮に住む選手はこれまで以上に増えました。彼らは住民票を筑後市に移しており、見えづらいですが、住民税の増収という部分でも地域に貢献できているのではないでしょうか。まだ認知度が決して高いとはいえませんが、試合数が確実に増えお客さまの来場も次第に増えています。筑後市と我々が今後もともにWin-Winの関係であり続けられるよう努めていきたいと考えています。
DX化も推進
──ソフトバンクグループはDXに積極的です。球団でどのような取り組みをしていますか。
太田 たとえばチケット販売においては9割がネット販売になっており、その販売の仕組みにはAIが関わり、価格をコントロールするダイナミックプライシングの手法を取り入れています。15分に1回、すべての席の価格が見直されるというものです。こうした仕組みをつくれるのは、12球団のなかではホークスだけですし、おそらく世界的に見てもそうではないでしょうか。転売の際にチケット価格が高騰することが社会問題化していますが、我々はその問題にも対応できるプラットフォームを有しています。ですので、年間指定席をご購入いただいているお客さまは、観戦できない試合のチケットをリセールすることもできます。
これらの仕組みは、19年シーズンからテスト運用を開始。コロナ禍の影響もありましたから、フルに運用し始めたのは22年シーズンの動員制限解除後になります。このほか、約80万人超の会員組織となった「タカポイント」の情報を通じ、どの層のお客さまがどんな購買行動をするのかなど、マーケティングに役立てる取り組みも行っており、それらは球場内での飲食の商品販売などにも反映されています。
──ところで、スポーツエンターテインメントについて、海外と比較してどのように感じていますか。
太田 圧倒的にまだまだですね。それは野球を見るだけでわかること。選手の年俸はもちろん、ワールドシリーズのチケットの値段に比べれば、我々が販売しているそれは可愛らしいレベルです。それだけ、アメリカではスポーツ自体がリスペクトされているわけで、日本でもそうならなければいけません。このように、世界でどうあるべきかという視点をもちながらでないと、我々を含むスポーツビジネスの今後の成長は見込めないと考えています。イベントの演出も非常にレベルが高いですよね。それは、人が刺激を受けて楽しむことに対してのお金の使い方が、欧米と日本では差があることを意味していますし、日本ではまだまだ伸びる余地が大きいとみています。
観客の回帰に涙
──太田専務が最も心を揺さぶられるのはどんな時ですか。
太田 やはり優勝のタイミングですね。ホークスの場合はオーナーが球場にくるケースが多く、一緒に抱き合って喜びますから。これはほかのビジネスにはない醍醐味といえます。勝負事を商売にしている会社ですし、基本的にはファンの皆さんと同じです。ただ、イベントが成功したときは毎回うれしいですね。ここ最近でいうと、コロナ禍の初年であった20年が本当に苦しかったです。フルに観客動員ができるようになったのは22年からですが、シーズンの開幕時には「お客さまが戻ってきてくれた」と涙が出ました。それから3年が経過しましたが、今では大変良い経験をしたと感じています。一時期はPepperを中心としたロボット応援団も誕生しました。
──最後に今年の抱負、今後の展望について聞かせてください。
太田 従来と同じことをせず、お客さまにどれだけ喜びと感動を提供できるかに尽きます。それと今年は絶対に日本一になりたい。ソフトバンクは今まで日本シリーズに出場すれば日本一になっていましたから、ファンの皆さまも当然日本一になるものと期待されていたと思います。しかし、昨シーズンの日本シリーズの結果は我々にとっても「勝って当たり前」が本当にしんどいことを改めて痛感させられた出来事でした。今後については、感動させる部分はAIには置き換えられませんから、そこをさらに強みにしていきたい。ただ、我々のエンターテインメントビジネスには、AIによって支えられる部分も多いですから、うまく融和を図っていきたいです。
【文・構成:田中直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:後藤芳光ほか1名
所在地:福岡市中央区地行浜2-2-2
設 立:1969年3月
資本金:1億円
売上高:(24/2連結)350億9,100万円
<プロフィール>
太田宏昭(おおた・ひろあき)
1972年3月生まれ。神奈川県川崎市出身。94年(株)東京デジタルホン(現・ソフトバンク(株))に入社。ソフトバンク(株)(現・ソフトバンクグループ(株))財務部関連事業室マネージャー、福岡ソフトバンクホークスマーケティング(株)(現・福岡ソフトバンクホークス(株))経営管理本部経営管理部長兼興行運営本部副本部長などを経て、2013年4月に福岡ソフトバンクホークス(株)総務室次長、14年に同社取締役兼執行役員(事業統括本部長)に就任した。15年1月から現職。関連記事
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