2024年11月25日( 月 )

TPP違憲訴訟、原告の意見陳述を封じる?(前)

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10月にアトランタで大筋合意した「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」に対して、交渉差止・違憲訴訟が現在進行中である。その第2回の公判が11月16日の午後2時30分から、東京地方裁判所103法廷で開かれた。当日は開廷前の地裁正面玄関に道路を埋め尽くす約200名の傍聴希望者が駆けつけ、傍聴席(98名)の抽選に臨んだ。
原告意見陳述人として出廷したのは孫崎亨氏(元外務省国際情報局長)と赤城智子氏(NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長)である。当日は抽選に外れた人などを対象に、並行して衆議院第一議員会館多目的ホールにおいて、韓国から来日した韓米FTAに反対する弁護士団体(ソン・キホ団長)9人による「韓米FTA履行4年目の韓国の変化」についての報告会も開かれた。
原告2人の意見陳述は封じられることになった!
TPPは投資家対国家紛争解決制度(ISDS)条項によって国家の主権が損なわれるばかりか、交渉は秘密裏に進められ、批准後4年間は秘密保持の義務があることから、知る権利を侵害すると言われる。またその交渉内容は、農産品の関税だけでなく、食の安全、医療制度や保険、教育、公共事業、知的財産に関わる制度など、非関税分野に渡り、国民の健康や生命、幸福に生きる権利をも侵害することが危惧されている。すなわち、この裁判においては、生存権(憲法25条)、幸福追求権(憲法13条)、司法主権(憲法76条1項)、知る権利(憲法21条)などが争点になっている。

「TPP交渉差止・違憲訴訟」の第2回公判は午後2時30分に開廷した。しかし、裁判官の開始挨拶に続いて展開されたのは、意外にも、裁判官、原告、被告による、「原告意見陳述人として出廷した孫崎亨氏と赤城智子氏に意見陳述をさせるか、させないか」の攻防戦だった。なんとこれで、25分が経過した。結果的に今回は原告2人の意見陳述は封じられることになった。ちなみに、同訴訟の第1回公判は9月7日に開廷されており、その際は原告3人、原中勝征氏(前日本医師会会長)、池住義憲氏(元自衛隊イラク派兵差止訴訟原告団代表)、山本太郎氏(衆議院議員)の意見陳述が認められている。
「ISDS」条項の危険性と「SPS」ルールの履行
25分を経過した後、残りのわずかの時間で、孫崎氏と赤城氏の原告代理人として、弁護士2人が「ISDS条項」、「食の安全」について意見陳述をした。

【ISDS条項】ISDS条項は外国投資家が投資章の規定に違反する(と考える)相手国政府や地方政府の措置によって損害を被った場合に、投資先国の中央政府を強制的に海外の仲裁手続きに賠償を求めて訴えることを認める制度である。世界銀行傘下の投資紛争解決国際センター(ICSID)に訴える方法と、国連国際商取引委員会(UNCITRAL)が定めるモデル仲裁規則に基づいて提訴する方法と二通りあるが、どちらもその仲裁方法において、極めて公正を欠くものであることが指摘されている。またこの条項によって、憲法や国家主権が脅かされるとしている。

【食の安全】SPSに焦点が当てられた。SPSとは国内に流入する農産物や食肉などの食品が、国内の人や動植物の健康を損なうことを防ぐ目的として、その流入を防ぐために行われる措置(輸入禁止措置や残留値規制や承認制度などの食品に関する規格)のことを言う。重要なのは外国産の農産物や食肉などが流入することを制限する輸入規制や、国内での流通を妨げる規格(基準値や承認制度、表示義務など)を定めるには「十分な科学的証拠に基づく」ことを求める原則をSPSが採用していることである。つまり、輸入を制限する側が、輸入を制限する産品が有害であることを示す「十分な科学的証拠」を提示しなければならない。SPSによって予防原則が大幅に制限され、結果的に有害物質の流入を国家は阻止できず、国民の健康を侵害する可能性が出てくる。遺伝子組み換え食品はもちろんのこと、アレルギーに関する食品まで幅広い分野で、影響が大きく出る可能性がある。TPPにおいては、厳格なSPSルールの履行が求められることは必至となっている。


(つづく)
【金木 亮憲】

 

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