トランプ劇場第2幕:揺れる国際秩序と世界の行方(前)
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NetIB-NEWSでも「BIS論壇」を掲載している日本ビジネスインテリジェンス協会(中川十郎理事長)より、元国連日本政府代表部大使や元国連事務次長を歴任した赤坂清隆氏によるトランプ論を共有していただいたので掲載する。
トランプ次期大統領の就任式は、1月20日だというのに、すでに「トランプ劇場第2幕」が切って落とされた感がします。次から次へと、彼の驚嘆すべき言動が伝えられています。主なものだけでも以下の通りですが、関係国にとっては笑ってすませられる「ジョーク」といえるものばかりではなく、さまざまな波紋を呼んでいますので、今回の「話のタネ」に。
2025年はいろいろなことが起きそうですが、イアン・ブレマー氏が率いるアメリカの調査会社「ユーラシア・グループ」が今年1月6日に発表した「ことしの10大リスク」は、以下の通りです。25年が、トランプ次期大統領の動きによる大きなリスクを抱えていることが指摘されています。
さる1月15日、まず飛び込んできたビッグニュースは、イスラエルとハマスとのガザ地区の停戦合意です。これを受けて、トランプ氏は、自身が大統領になることで生まれた成果だと誇示しています。この発言は、バイデン政権の成果を横取りする手前勝手な法螺(ほら)だとはあながちいえない気がします。というのも、イスラエルは、09年1月20日のオバマ大統領の就任式に合わせて、前年から続けていたガザ攻撃をピタッと停止したことがあるからです。このような好ましいニュースであれば、トランプ氏が何を言おうとかまわないのですが、さあ、それだけにとどまりません。
まず、トランプ氏の注目される最近の発言に、デンマーク自治領のグリーンランドに関するものがあります。同氏は、「グリーンランドを米国が所有し、管理することは、国家安全保障にとって絶対に必要だ」とSNSに投稿して、同島を購入することに意欲を示しました。19年にも同様の提案を行って、デンマークからにべもなく拒否された経緯がありますので、またぞろ同じことを繰り返したというわけです。
グリーンランドは、北極海に近い世界最大の島で、216万平方キロといいますから、日本の6倍近い広さがあります。そこに、5万5,840人(24年)しか住んでいませんから、世界でもっとも人口密度の低い地域です。デンマーク王国の一部の自治領として、自治政府がおかれ、広範な自治が認められています。デンマークはEU(欧州連合)の加盟国ですが、グリーンランドは自治政府の意向でEUには属していません。独立に向けた機運が高まっているようで、今年1月3日の新年の演説でエーエデ・グリーンランド自治政府首相は、従来の姿勢を大きく転換して、デンマークからの独立を目指す意向を強調したと報じられています。もっとも、同首相は、昨年末、トランプ発言に対して、「グリーンランドは売り物ではなく、決して売らない」との拒否発言をしています。
アメリカによるグリーンランド購入計画は過去にもあり、1946年当時、トルーマン大統領がデンマークに対し、1億ドル相当の金での購入を打診したといいます。それより以前、17年には、アメリカはデンマークから、カリブ海に浮かぶヴァージン諸島の西側半分の「デンマーク領西インド諸島」を、2,500万ドルで購入した(現在はアメリカの保護領)先例があります。このような歴史がありますから、トランプ氏のしつこいグリーンランド買収発言は、思ったほど突飛なものではないのですね。
トランプ氏は、1月7日の記者会見で、「デンマークが手放さなければ、経済的な圧力をかける」と脅かしており、関税の引き上げの口実にしそうです。「軍事力は使わないと約束できるか?」との記者からの質問に対しては、驚くべきことに、「今、約束をすることはできない」と応えています。同盟国たるデンマーク相手の無茶苦茶な発言ですね。
可哀相なデンマークの困惑ぶりが想像できますが、デンマークのフレデリクセン首相は1月9日、首都コペンハーゲンの首相官邸で与野党の党首を集めた緊急の会合を開き、グリーンランドの買収には応じないとの方針を改めて説明したと報じられています。同首相は、トランプ氏との直接対話を希望しているようです。
(つづく)
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