2025年01月21日( 火 )

2025年の日本株式展望~主役はM&Aブームと自社株買い~(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は1月20日発刊の第372号「2025年の日本株式展望~主役はM&Aブームと自社株買い~」を紹介する。

気迷い趨勢、かえって期待できる

 日経平均株価は2024年前半に27%と急騰したが8月には植田ショックで3日間で20%もの急落を記録した。その後は、38,000円から40,000円のレンジ内での気迷い相場が続き、一時的に高まった長期上昇期待は剥落した。しかし人々が警戒的だからこそ、むしろ展望は明るいのではないか。

 米国では経済成長優先、高株価志向の強いトランプ氏の第二期米大統領就任に期待が高まっている。2017年減税の継続や法人税減税に加えてエルネギー増産と規制緩和で企業は一段と儲けやすくなるだろう。景気が減速せず高金利が続くことを警戒する向きもあるが、ファンダメンタルズの強さは、むしろ一段の米国株価上昇をもたらすだろう。

日本景気の好循環がみえてきた

 2025年にとくに注目されるのは、日本株式であろう。日経平均は25%高の5万円が視野に入ってくると思われる。1ドル150円台の円安が定着しデフレ完全脱却がみえてきた。長期低落してきた日本の潜在成長率が、これから上昇に転ずる可能性が高い。5%近い高賃上げの継続で消費が上向く。設備投資とマンションブーム、ホテルブームで建設業が久しぶりに活況を呈している。外国人観光客の急増が津々浦々の地方経済を潤している。中国に見切りをつけた企業の日本回帰や、海外企業の対日投資はTSMC熊本やラピダス千歳の先端半導体工場建設に続き、本格化していくだろう。

図表1主要国株式(2023.1以降)/図表2:主要国株式(2009~2025年1月初)

真打登場、企業による自社株買い

 こうした好環境の下で、企業の自社株買いの大ブームが起こった。東証データによる法人の株式購入(その大半は自社株買い)は22年12.6兆円、23年14.3兆円、24年21.6兆円と急増しており2025年には30兆円に迫っていくと予想される。この間持ち合い解消売り、時価発行増資による法人売りも増加し、自社株買いのインパクトが希薄化されたが、今後法人売りは減少していき、ネットの法人買いが増加テンポを速めていくだろう。このスケールでの自社株買いは日本株の株式需給を根本的に改善していくと思われる。

 ちなみに2023年以降の日本株ブームを主導した外国人の買いは先物、現物合わせて8兆円であったが、昨秋の乱高下場面で外国人は7兆円を売却してしまった。この外国人売りにもかかわらず日本株が高値圏を維持できたのは企業の旺盛な自社株買いが続いたからである。

図表3: 急増する自社株買い(兆円)/図表4: 外国人投資家の日本株累積投資ポジション(2年間の買いを売り切った)

米国株高の主役は自社株買い

 実は自社株買いは米国経済成長と米国株高の陰の主役であった。米国株式はリーマン・ショック後のボトムから15年間で8倍(年率15%)の急上昇を遂げ、家計の純資産を59兆ドルから164兆ドルへと100兆ドル(=GDP比3.6倍)押上げ、米国の旺盛な消費を牽引してきた。ではだれが株価を押し上げたかというとそのほぼすべてが自社株買いであった。この間企業は累計で5.4兆ドル株を購入し年金・保険の巨額の売りを吸収し続けたのである。

図表5投資主体別米国株式累積投資(10億ドル)/図表6: 米国家計資産・債務・純資産推移(兆ドル)

企業余剰を株主還元によって還流させる「株式資本主義」

 AI革命など歴史的技術発展の時代に、企業収益が高まり、企業部門に過剰利益が蓄積されている。この企業利益を経済システムに還流させるうえで、自社株買いが大きな役割をはたしてきたのである。この資金の流れは、株式市場を通じてベンチャーに巨額の投資資金が集まるエコシステムをつくり上げ、米国ハイテク技術制覇の原動力にもなった。まさしく米国では株式市場が企業の利益還元を通して、資源配分を采配する「株式資本主義」の時代に入っている。そしてトランプ次期政権はバイデン・ハリス氏の民主党路線と異なり、「株式資本主義」を政策プラットフォームとして強化しようとしている。

図表7: 潤沢化する米国企業(非金融)の内部資金(純利益+償却費)とペイアウト(対GDP%)

 ではそのような「株式資本主義」がいつ何によって起こったかというと、それは1980~90年代の米国の企業買収ブームであった。買収のターゲットとならないように企業は余剰資金を自社株買いや配当で株主に還元し、株価を押上げ、資本の効率性を高める努力を続けたのである。1988年のKKRによるRJRナビスコ買収に象徴される米国の買収ブームは「野蛮な来訪者(barbarian at the gate)」という小説や映画となり一時代を画したが、それが今の繁栄の土台となった。

図表8: NYダウ工業株の推移とBarbarian at the Gate

(つづく)

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