2024年11月25日( 月 )

現代アートは資本主義を最も先鋭的に表現する!(3)

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14東京画廊代表取締役社長 山本豊津氏
生きて行く上での、哲学、思想的な役割も果たしている
 ―― 今回は、一般の方には馴染みの薄い「現代アート」について、ものすごく易しく教えて頂けますか。

  •  山本 「現代アート」とは、広義な意味では、第2次大戦以降のアートのことを言います。そして、それ以前のものを「近代アート」と呼んで区別します。但し、現代アートの中には、近代アートの油絵なども含まれます。すなわち、近代アートも現代アートの一部分を構成しています。
     日本画の中に近代アートの水墨画は含まれますが、その日本画、写真なども全て含んで現代アートはできているとも言えます。つまり、現在アートでは近代アートには明確にあったカテゴリ(油絵、日本画、西洋画、石彫、木彫、工芸など)は通用しなくなりました。

 なぜ、そのように現代アートと近代アートを区別するかと言うと、第2次大戦以降は世界がグローバル化して、垣根がなくなり「世界が1つになった」ことに起因します。その点から言えば、現代アートは、アートという表現になっていますが、私たちが現代を生きて行く上での、哲学、思想的な役割も果たしています。だから、政治とも大きく関係してくるのです。
覇権を握った国、民族はこの重要性をよく認識している
 このことに、欧米世界の指導者はとても敏感です。特に一度、世界の覇権を握った国、民族はこの重要性をとてもよく認識しています。ヨーロッパであれば、イギリスやフランス、スペインやオランダ、ローマ帝国を興したイタリア、それから第2次大戦後の米国に、近代以前のアジア全体の中心であり、今なお根強い中華思想を持っている中国などです。これらの国々と民族は、「覇権を握るとはどういうことなのか」を良く知っています。軍事力で領土をおさえるだけでは不十分、経済力で上回るだけでも足りない。最後は文化の力であることを知っているのです。
 だからこそ、自分の国の美術品の価値を高め、それを世界に示すことで、文化的な優位性や自信、そして美のスタンダードを握ろうというのは、欧米諸国そして中国の目指すところであり悲願なのです。
フランスは“外交”で、日本は公共事業の“国内対策”
 フランスは1977年に、米国のニューヨークへ移った芸術の中心地としての地位を取り戻すために、ポンピドゥー・センターを開設しています。ここには、芸術の中心地としての地位奪還を狙うフランス政府の「現代アートを積極的に支援する」という強い意思とメッセージが表れているのです。
 一方、イギリスはブレア首相の肝いりで、フランスに対抗するように、2000年に「テート・モダン」を作りました。ここは、絵画や彫刻だけでなく、ビデオアート、パフォーマンスアート、インスタレーションなど20世紀の様々な芸術活動をアーカイブできるアートセンターです。

 これらの施設と日本の大きな違いは、美術館などを作る場合、「目線はどこに向いているか」ということです。つまり、日本のハコモノは公共事業を中心に添えた“国内対策”なのに対し、ポンピドゥー・センターやテート・モダンは“外交”になっているのです。日本人がヨーロッパブランドのルイ・ヴィトンやグッチやエルメスなどが好きなのは、無意識の内に、文化における、川上(ヨーロッパ文化)と川下(日本文化)を認めてしまっているからです。
現代アートを基本に据えると、世界はバラバラでなくなる
 ―― 現代アートは哲学、思想的な役割も果たし、そして政治とも大きく関係しているのですね。

 山本 そうです。だから、欧米では、時の政治家が肝いりで、大都会の真ん中に美術館を建て、そこを情報発信の基地として重要視しているわけです。私たち旅行者はパリに行けば、ポンピドゥー・センター、ニューヨークに行けば、MOMAやグッゲンハイムなど、その都市の代表的な美術館に行ってしまいます。それは、それぞれの美術館が明確な国家戦略に基づいて作られているからです。その意味において、残念なことですが、日本の美術館はそのレベルに到達していません。

 宗教と比較してみるとよく分かります。キリスト教でも、イスラム教でも、仏教でも、世界を1つにするような宗教は歴史上まだ出てきていません。宗教を基本に据えてしまうと世界はバラバラのように見えます。しかし、現代アートを基本に据えると、世界はバラバラでなくなるのです。特に、ヨーロッパにおけるキリスト教会はその中心性を失う傾向にあります。宗教はコミュニケーションの道具ではなくなりつつあるからです。ニーチェは「神は死んだ」と言いましたが、まさにそれに近い状態です。
 だからこそ、現代アートの役割がどんどん増してきており、時の政治家は教会より美術館を建てることを重要視しているのです。


(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール> 山本 豊津(やまもと・ほづ) 東京画廊代表取締役社長。1948年、東京生まれ。71年、武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。元大蔵大臣村山達雄秘書。2014、15年アート・バーゼル(香港)、15年アート・バーゼル(スイス)へ出展、日本の現代美術を紹介。アートフェア東京のコミッティ、全銀座会の催事委員を務め多くのプロジェクトを手がける。02年には、弟の田畑幸人氏が北京にB.T.A.P(BEIJING TOKYO ART PROJECTS)をオープンした。

 

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