米国にショックを与えた中国発の生成AI、「ディープシーク」(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

AIや半導体関連の銘柄が急落

AI イメージ    AI(人工知能)とは、認知や判断と言った人間の知能の働きが必要されるタスクをコンピューターで実現しようとする技術を指す。コンピューターが人間に代わって問題を解決したり、意思決定をしたり、言語を理解して人間に応対できるようにしようとするのがAIだ。

 囲碁のAIがプロ棋士を破った出来事により、急激にAIに注目が集まることとなった。今後AIは、あらゆる産業に影響を与えるだけでなく、産業競争力を左右する主な要因となっていくだろう。しかも、コンピューターは独自に学習を続け、人間の質問に何でも正確に答えてくれる生成AIが登場し、近年は日常生活でも広く使われ始めている。

 そのような状況下、米国は中国の台頭を警戒し、とくに産業競争力のコアとなるAIや半導体などで中国の追従を許さず、米国の優位性を維持することに力を入れてきた。オープンAIやGoogleなど、AI分野は米国がリードしていると思っていたが、その常識を覆すような出来事が起こった。いわゆる、「ディープシーク・ショック」である。

 世界をリードしていた米国のAIをしのぐかもしれない技術が突然、中国から登場し、低コストAI「ディープシーク」が市場に衝撃を与えた。これまで多額の費用をかけて開発されてきたアメリカの生成AIに対して、「ディープシーク」の開発費は非常に安く、低コストの半導体でつくられている。高性能半導体の需要が低下するのではないかという懸念から、世界の投資家がエヌビディア株を手放す事態となり、ハイテク株を中心に急落に見舞われた。

 株式市場をリードしていた米半導体大手・エヌビディアの株価は1月27日に17%急落し、時価総額は1日で5,890億ドルも減ったが、翌日には8.8%回復した。とくに、AIおよび半導体関連銘柄で構成されたフィラデルフィア半導体指数は9.15%も暴落し、昨年9月3日に記録した7.75%の下落以降、最大の下落幅を記録した。

ディープシーク社について

 「ディープシーク」とは、中国の浙江省杭州市に拠点を構えるAIのスタートアップ企業・ディープシーク社によって開発された生成AIである。「ディープシーク」社を2023年に中国・杭州で立ち上げた梁文鋒(Liang wen feng リャンウェンフォン)氏は、1985年生まれ。中国の浙江大学で電気通信工学を学んだ後、2015年に資産運用を行うヘッジファンド「ハイフライヤー」を設立した。梁氏はヘッジファンドでは、株式などの売買にコンピューターのプログラムを積極的に活用して、成功を収めていた。ヘッジファンドを離れてからは、AI研究に没頭し、現在では「中国のアルトマン」とも言われ、中国を代表するAI技術者となった。「ディープシーク」社は23年5月に設立され、24年12月に大規模言語モデルLLM「ディープシーク-V3」を公開した。

 「ディープシーク」はオープンソースのプログラムをローカル環境にダウンロードして使用する。オープンソースは、無料で利用できることがユーザーにとってのメリットで、技術者にとっても新たな開発を進めやすいという利点がある。つまり、今後は「ディープシーク」のコードを用いて改良を加え、さらに高性能な生成AIモデルを次々と生み出すことができる。「ディープシーク」は、ライバルの米国企業をはじめ、AI業界全体に大きなインパクトを与えている。

(つづく)

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