不安化する日本政治 自公過半数割れと各党の思惑(後)
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ジャーナリスト 鮫島浩 氏
自公与党が過半数を割る一方、立憲民主党も野党を束ねて政権交代を実現することができず、減税を掲げて躍進した国民民主党がキャスティングボートを握って主役に躍り出た──。2024年総選挙は政権交代可能な二大政党政治の行き詰まりを露呈した。今年夏の参院選でもこの流れは加速するだろう。その後に待ち受けるのは、自民と立憲の大連立ではないか。
石破に代わる顔は?
残る選択肢は、再び総選挙を断行して過半数を取り戻す強硬策だ。夏の参院選に合わせて衆院を解散する「衆参ダブル選挙」である。最も手っ取り早い過半数回復策だが、政権を失うリスクも高い一か八かの賭けだ。
総選挙で惨敗した石破首相のまま衆参ダブル選挙に挑むことは考えにくい。予算成立後に首相を差し替え、新内閣の支持率が上昇すれば、衆参ダブル選挙の機運がにわかに高まってくるだろう。問題は、支持率を引き上げる新しい自民党総裁(首相)が現れるかどうかである。
石破氏に総裁選の決選投票で逆転された高市早苗氏は、自らを支えた安倍派議員が総選挙で大量落選し、支持基盤が壊滅的打撃を受けた。そもそも無派閥で党内基盤が弱く、出馬に必要な推薦人20人を集めるのにも苦労して当初は泡沫扱いされたが、党員人気に押し上げられて決選投票へ進んだ。けれども石破首相が退陣した場合の緊急総裁選は国会議員だけが投票権をもち、党員投票は行われない。高市氏は決定的に不利で、昨年9月の総裁選では「アンチ石破」の立場から高市支持に回った麻生太郎氏も支持してくれるとは限らない。
小泉進次郎氏は総裁選で本命視されたものの、党員投票で想定外の失速となり決選投票に進めなかった。「若すぎる」と批判され惨敗した後遺症は大きい。総選挙惨敗の責任をとって選対委員長を辞任したばかりでもあり、総裁選出馬は見送る公算が高いだろう。
非主流派では麻生氏と歩調を合わせる茂木敏充前幹事長が意欲をみせるが、9月の総裁選は党員投票が伸びず6位に沈んだ。主流派の最有力候補は林芳正官房長官だ。9月の総裁選では4位に食い込み健闘した。しかし官房長官としての存在感は薄く、衆参ダブル選挙の顔になるかどうかは見通せない。
いずれにせよ、石破首相を差し替えても新内閣の支持率が高騰しない限り、衆参ダブル選挙の機運は芽生えず、確実な過半数回復策としては期待できない。
参院選後の急展開か 大連立構想と財務省
そうなると、参院選後も衆院で過半数を割る少数与党政権が続く展開がもっとも現実味を帯びてくる。参院選後の連立拡大で過半数回復を目指すシナリオが浮かんでくる。
参院選が終われば、当面は国政選挙は予定されず、国民民主党も維新も連立入りへのハードルが下がる。むしろ国民民主党と維新が競い合うように自公与党に接近する展開もあり得るだろう。
けれども自公与党にすれば、国民民主党と維新のどちらか一方を連立に加えたところで、今度は政権内部から連立離脱をちらつかされ、揺さぶられ続ける恐れがある。国民民主党も維新も独自性を発揮しなければたちまち埋没するため、次々と独自政策の実現を要求してくるだろう。せっかく過半数を回復しても、今度は過半数を失うことに怯え、連立維持に膨大なエネルギーを注がなければならない。
そこで浮上するのが、立憲民主党との大連立構想である。国民民主党や維新を連立政権に加えてかき乱されるより、野党第一党とがっぷり大連立を組んだほうがむしろ政権基盤は安定するからだ。
民主党政権末期、当時の野田佳彦首相は財務省の水面下の仲介で自公両党と消費税増税の3党合意を結んだ。財務省の悲願は消費税増税だ。現政権だけで断行すれば、次の選挙で反動が生じるため、常に与野党合意で消費税増税を進める機会をうかがっている。自公過半数割れの政治状況は千載一遇のチャンスなのだ。
国民民主党は減税を掲げて躍進したため、消費税増税を受け入れる可能性はほとんどない。維新は世論の動向に敏感で、消費税増税の連携相手になりそうにない。これに比べ、立憲民主党を率いる野田代表は消費税増税の立役者で、政界きっての大物財務族だ。安住予算委員長も野田政権で財務相を務めた大物財務族である。財務省にとって、自民と立憲の大連立による消費税増税は最も現実的なシナリオなのだ。
しかも石破政権を取り仕切る森山裕幹事長は財務省と親密だ。財務省は予算編成に加え、国会で予算を円滑に成立させるため、与野党の国対委員長とは極めて近い関係を築く。森山氏が国対委員長を務めたときの立憲のカウンターパートが安住氏だった。森山氏と安住氏は裏交渉を重ね、信頼関係をつくった。財務省-森山氏-安住氏のラインこそ、参院選後の自民・立憲の大連立構想を動かす地下水脈だ。
二大政党を否定した民意 減税で躍進する新勢力
立憲の野田代表が昨年の総選挙で維新や国民民主党との選挙協力や共通公約作成に後ろ向きだったのも、野党連立政権の樹立による政権交代よりも、自公過半数割れによる大連立の実現に狙いを定めていたからではないかと私はみている。
世論は大連立に激しく反発するだろう。昨年の総選挙でも二大政党離れの傾向はくっきり出ている。自民党は比例代表で533万票を減らした。立憲民主党は各地の小選挙区で自民批判票を吸収し競り勝ったものの、比例代表は大惨敗した前回総選挙から7万票しか増えていない。立憲への期待はまったく高まっておらず、民意は二大政党の双方に不信任を突きつけたというのが総選挙の的確な総括ではないか。
総選挙で躍進した国民民主党(議席4倍)とれいわ新選組(議席3倍)はともにYouTube戦略を駆使し、減税政策を訴えたことは注目に値する。昨年7月の東京都知事選ではYouTubeで人気の石丸伸二氏が立憲の蓮舫氏を抜いて大注目を集めた。同年11月の兵庫県知事選は、立憲支持層が応援した稲村和美氏が最終盤に県議会やマスコミに批判され失職に追い込まれた斎藤元彦氏に追い抜かれる衝撃の結末を迎えた。大逆転の立役者は、YouTubeを駆使して県議会やマスコミを糾弾した立花孝志氏だったことも見逃せない。
自民と立憲の二大政党は、マスコミとともに既得権益の象徴として国民から見放されつつある。代わってYouTubeを駆使した新興勢力が台頭している。「嫌われ者同士」の自民と立憲が財務省を介し消費税増税を進める大連立に踏み切れば、新興勢力は減税を旗印に対抗するだろう。大連立で当面の政局は安定しても、二大政党を転覆させるマグマがふつふつの沸いてくるのは間違いない。
予算成立後の石破政権退陣、新政権の発足、夏の参院選で二大政党の退潮、そして大連立へ──。今年も政局は激しく動くだろう。日本の政治構造が大きく転換する年になりそうだ。
(了)
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月、49歳で新聞社を退社し独立。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。
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