東郷和彦の世界の見方~第2回 ウクライナ和平の動向(その2)(後)

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 NetIB-NEWSでも「BIS論壇」を掲載している日本ビジネスインテリジェンス協会(中川十郎理事長)より、元外務省で欧亜局長やオランダ大使を歴任した政治学者の東郷和彦氏によるウクライナ和平の行方に関する記事を共有していただいたので掲載する。

 さて、ここで少し予期しない出来事がトランプ側から発生した。1月20日夕刻、ホワイトハウスに戻った後のプレスからの質問に対し、トランプ大統領が、プーチンについてかつてない批判的な発言をしたとの報道が、1月21日付けのニューヨークタイムズを始め世界中をかけめぐったのである。

 私が入手した最も正確な発言記録は、モスクワ在住のアメリカの政治分析家でMGIMOの博士号を取得した、Andrew Korybkoによるので、21日の同氏のニュース・レターからトランプ発言を引用しておきたい。

「ゼレンスキーはディールをしたいと言った。プーチンがしたいのかわからない。私は、彼はディールをすべきと思う。しないことで彼はロシアを破壊する。ロシアは大きな混乱をかかえている……。私はプーチンとはうまくやっており、彼はディールを従っていると希望している」

 さらに1月23日の日経電子版は、トランプ大統領が22日のSNSで「いますぐこの馬鹿げた戦争をやめろ。すぐに取引しないなら、高水準の関税、制裁を科す以外に選択肢はない」とプーチンに警告したと報じている。

 自分の見るところ、安保会議でプーチンが述べたことは、バイデン政権の下でなくなってしまった対話の再開を喜び、喜んで対話をしたいというもので、このプーチンを相手に「早くディールを」という圧力をかける言辞が何処からでてくるのか。論理的積み上げを好むプーチンの思考法と直感的な結論を好むトランプの差異からくるのか。いずれにせよ、プーチン・トランプの方向性に本質的矛盾はないと思う。慌てずに事態を注視することとしたい。

 しかし、Korybkoが書いたことで1点気になる点がある。トランプは「100万のロシア兵と70万のウクライナ兵が死んだという数字を我々はもっている」と言ったというのである。細かいことだが、この数字はちょっと気になる。ウクライナ戦争の惨禍について重要な基礎データになる「双方の兵士の死傷者数はいくらなのか」について、私たちは何を知っているのか。

 この問題は、そう簡単に答えが出ない。一般論として、双方とも自国の死傷者は少なめに、敵国の死傷者は多めに公表する傾向がある。ウクライナ側には、西側からの支援を多くするために、自国の死傷者を多めに発表する傾向もあるかもしれない。けれども、これまで発表された数字の概略は概ね以下の通りだった。頭に入れておいたほうが良いと思うので、以下に若干の整理をしておきたい。

死傷者計算の対象期間:2022年2月24日から。

1.ウクライナ発表によるウクライナ側の死傷者
2024年2月までの死者:3万1000;    
2024年12月までの死者:4万3000
2024年12月までの傷者:37万

2.ウクライナ発表によるロシア側死傷者
2024年12月までの死者:19万8000
2024年12月までの傷者:55万

3.ロシア国防省発表によるウクライナ側死傷者
2024年12月までの死傷者:100万
内数としての2024年:56万

 事態の目前の変化を追うとともに、次回は、いまのウクライナの状況をもう少し詳しく述べておきたい。

(了)

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