九州の観光産業を考える(28)ご当地キャラ侮りがたし
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まばゆい三頭身
ターミナル駅や空港の到着口、人通りの多い繁華街の一角で、地名を染め抜いた法被姿のおじさんや和装の旅館女将が、販促品を配りながら盛んに愛嬌を振りまく。観光シーズンの幕開けや新施設開業等々、ときおり見られる観光キャラバン隊の光景だ。
悲しいかな、お仕着せ感をぬぐえない法被おじさんや、板に付き過ぎた愛想笑いの女将たちに、通行人は一瞥をくれるだけ。で、悔しいかな、頭でっかちで丸みを帯びた着ぐるみへ、雑踏の視線は焦点を結ぶ。異界より現れ出たヘンテコにうごめく奇態へ。
下関の商業施設イベントに顔をそろえた武蔵と小次郎そして九州のご当地キャラ 着ぐるみはむずかる子どもの気をそらし(もしくは恐怖に陥れ)、SNS拡散の被写体として絵力も与える。サムズアップとともに何がしかのコメントを上げてもらうには、恰好の異形だ。情報を発信したい側の思惑がそれにまとわりついて広く知れ渡るのであれば、少々揶揄されようがケッコウなことなのである。
「悔しいかな」と表現したのは、語呂合わせを擬人化したような着ぐるみが主役を張り、観光情報は添え物に甘んずることだ。地域商品を編み出す職責にある者の才覚が軽んじられ、あるいは実際にそうした現場能力が衰えているのかと心配に思う。
ひこにゃんの衝撃
どうやら観光課か観光協会の職員が“中身”だ。動きがぎこちなく、表現力も乏しい。そもそもコンセプトが曖昧だから、訓練を受けていない者が面白半分に潜り込んだり、職命でいやいやかぶせられたり。必然、時々でその着ぐるみは振る舞い方が変わる。ひどいときなんか、身長が変わる。正体が定まらず悲哀すら漂うこうした奇体が、ある種のウケを生んでいたのだが、2007年、ひこにゃんの登場が状況を一変させた。おしとやかで静的な動きが秀逸な彦根市の新大使。そして10年登場のくまモンには突然変異的な進化を見た。利発で切れの良い動きで場を支配する。
キャラクターのコンセプト、背景設定、デザインコード、動作マニュアルは、シティープロモーションを戦略的に構える地域では高度化し、「ゆるキャラ」は「ご当地キャラ」に昇格、めでたく市民権を得たように思える。背中にファスナーなんぞ、あろうはずがない。
希代はまちおこしの有効な手立てとして増殖し、21年度の日経新聞調べで1,553体が棲息していた。あるメーカーの製作記録では、九州・沖縄地方に239体(企業キャラ含む)という。その後の新顔、死蔵分を数えればもっとあるだろう──。
5色の驚くべき威力
とはいえ「悔しいかな」なのである。観光施策としてのメジャーキャラ採用には、反発心を抱いてしまう。コミックやアニメのキャラに寄りかかると、版権を有す外部資本に利益を吸い出され、地域への経済波及は薄く、地場にノウハウの育つ基盤が築けず、何とも歯がゆい。コラボの名のもとに、借り物のアイドルが幅を利かすことに、地場は焦りくらい感じてほしい。境港の水木しげるロードにおける妖怪キャラの展開は、水木プロが品質管理にしっかり向き合う一方、著作権料絡みで原作者生誕地へ太っ腹な対応を見せる奇特な例だ。
人気キャラの発信力は認めたうえで、地場には自前の取り組みを考案実施する力を養ってほしい。それには5色の力を拝借する手がある。ガッチャマン、セーラームーン、ゴレンジャーの系譜。メジャーの敷いた物語性を換骨奪胎で倣うことになるが、性格付けられた5色のDNAに託し、地域色満載のキャラクター創出にひるまず、さらに活躍の場を開拓してほしい。
筆者はかつてウルトラマンのつなぎを着た幼児に、「あっ、ウルトラマンだ!すごッ」と、さも驚嘆した囁き声を放ったことがある。彼はやにわに胸の前で手を交叉させてスペシウム光線を撃ち、もしそこが階段の踊り場なら、いきなり宙に向けジャンプしたんじゃないかと、そのマジックワードの威力に肝を冷やしたことがある。
なりきりコスチュームを着せた途端に変身を遂げる、世代を越える摩訶不思議。ヒーロー物の各個性が瞬時に憑依する。
5色のビブスを着用するやいなや心持まで変身するスポーツかくれんぼ競技者
(日本スポーツかくれんぼ協会)日本らしいなりきり体験
変身には、演じる当事者はもとより観る者にも、物語や役柄へ没入させる力がある。歴史人物、ご当地ヒーロー、特産品、スローガン、気象現象等々、地域所縁を擬人化することで展開ネタの尽きない超個性、物語を案出できる。事実、ゆるさを脱した戦国武将隊、駄洒落もどきの戦隊、駄洒落もじりキャラなど、各地ですでに奮闘している。
最近は、恐竜のバルーン型着ぐるみに包まれての徒競争が人気のようだ。走者は着ぐるみめいた“仮面”で普段の自分を覆い隠し、別キャラに興じる。動きづらさが着順不問の言い訳ともなり、異日常体験を歓迎させる。
変身願望をかなえる擬態コンテンツが、ツーリズムに求められているのかな。ゆるキャラの衰えない人気はその反照で、ひこにゃんやくまモンは無理だが、インバウンド向け新商品は“ゆるキャラ・アクター体験”かもしれない。印を結ぶ指はあやふやでも、黒装束の忍者体験は外国人に木の葉隠れの忍法を成就させるが、これからは蒸し暑く汗臭い着ぐるみ“中身”が、斬新な外来アクトを全国各所で繰り出し、忘れ得ぬ日本体験を持ち帰らせそうに思う。地方観光はポケモンGOの進攻に負けてはおれぬ。
<プロフィール>
國谷恵太(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。月刊まちづくりに記事を書きませんか?
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