中東紛争は沈静化へ 今後の日本企業とイスラエル企業の関係性

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国際政治学者 和田大樹

 一昨年10月、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム主義組織ハマスがイスラエルへ奇襲攻撃を仕掛けて以降、イスラエルによる大規模な攻撃が開始され、ガザ地区における犠牲者数は4万人を超えている。また、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、イラクやシリアに点在する親イランの武装勢力たちが相次いでハマスとの共闘を宣言。イスラエルとヒズボラの間では激しい交戦となり、フーシ派はイスラエル領内に向けてミサイルやドローンを発射するなど、当初の戦闘はイスラエル・パレスチナの範囲を越え、中東全体に影響をおよぼすようになった。さらに、イスラエルがシリアにあるイラン権益への激しい空爆を行ったことから、イランがイスラエル領内に向けて初めてミサイルやドローンを発射するなど、両国間の軍事的緊張も高まった。

 しかし、昨年秋の米国大統領選挙でトランプ大統領が勝利すると、中東紛争をめぐる情勢が大きく好転し始めた。昨年11月末、激しい攻防を展開してきたイスラエルとヒズボラが停戦を発表し、今年1月には紛争の発端となったイスラエルとハマスとの間でも停戦が発表された。短期間の間にイスラエルが相次いで停戦に応じた背景には、トランプ大統領の存在がある。イスラエルのネタニヤフ首相とトランプ大統領は盟友関係にあり、戦争回避主義者のトランプ大統領は、中東での紛争を終結させることを目指しており、ネタニヤフ首相としては4年間の米国との関係を考慮し、停戦を進めていったと考えられる。

新宿 イメージ    一方、一昨年10月以降の中東紛争は、日本企業にも大きな影響を与えている。たとえば、伊藤忠商事の子会社である伊藤忠アビエーションは昨年2月、イスラエルの軍事企業エルビット・システムズとの提携関係を終了すると明らかにした。

 防衛装備品の供給などを担う伊藤忠アビエーションは防衛省からの依頼に基づき、自衛隊が使用する防衛装備品を輸入するため、エルビット・システムズと協力関係の覚書を一昨年3月に交わしていた。

 伊藤忠アビエーションは、エルビット・システムズと協力関係が直接中東紛争に加担するものではないとしたが、国際司法裁判所がイスラエルに対してジェノサイドを防止するあらゆる手段を講じるよう命じたことなどを踏まえて決定したと明らかにした。しかし、伊藤忠アビエーションにはイスラエル企業との連携によって企業イメージが悪化することへの懸念があったといえよう。

 また、川崎重工業の神戸本社前では昨年7月、パレスチナ支持団体「パレスチナと共にありたい市民有志」の関係者たちが同企業に対してイスラエル製ドローンの輸入を止めるよう求める抗議活動を実施した。

 川崎重工業は防衛省の防衛力整備計画に基づき、ドローン1機でイスラエルの軍事企業との間で輸入代理店契約を締結しているとされ、同団体は川崎重工業に対して契約の破棄と求め、2万人以上の署名を川崎重工業側に手渡した。

 では、トランプ政権下で中東情勢は改善へと向かい、日本企業はこういったイスラエルリスクを回避できるようになるのか。私見となるが、トランプ大統領は極度の親イスラエル主義であり、今後もイスラエルとイランとの間では軍事的緊張が高まるリスクは十分に考えられる。また、イスラエルによる攻撃によってこれまでにない規模の被害がガザ地区では生じており、イスラム諸国における反イスラエル感情というものは後遺症として続いていくことが考えられる。近年、イスラエル企業と提携する日本企業の数は増えているが、日本企業としては引き続き、イスラエル企業との関係によるレピュテーションリスクに一定の配慮が必要だろう。


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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