孫正義シリーズ(4):激突する日米のIT長者、イーロン・マスクvs孫正義(中)
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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏孫正義シリーズの第4回をお届けする。今回は、国際政治学者で未来学者の浜田和幸氏に孫正義論を語ってもらった。
ソフトバンクと米国政府との利害関係は多岐にわたります。ソフトバンク傘下のスプリントとTモバイルの合併計画がオバマ政権の抵抗に遭い、同社は大きな打撃を受けました。その後、第1次トランプ政権となり、最終的な承認が下りたことで、孫氏は一命を取り留めたわけです。いわば、トランプ氏は孫氏の命の恩人といっても過言ではありません。
現在、ソフトバンクの最大の資産は半導体のコンポーネントを設計するアームであり、この部門は米国の補助金政策や関税、さらには台湾と中国をめぐる政策の影響を受ける領域でもあります。この点は孫氏にとっては頭の痛いところでしょう。
また、ソフトバンクは自動運転車の分野で多数の企業の株式を所有しています。この分野もトランプ大統領の政策顧問らが連邦規則の変更を望んでいる分野でもあります。ソフトバンクのAI投資がどのようなかたちをとるかによっては、トランプ大統領の恩恵を受けることが十分にあり得るわけです。
孫氏は米国のデータセンターとエネルギー源に投資する計画のようです。事情に詳しい関係者によると、孫氏は半導体製造への参入を望んでおり、この分野は政府からの多額の援助が受けられる可能性があると見られています。
しかし、4年間で10万人の雇用を創出するのは容易ではありません。テクノロジー、とくにAIは雇用創出の面で生産性が低いことで知られているからです。ソフトバンク自体の従業員数はわずか6万5,000人。その半導体製造部門を担うアームの社員はわずか7,000人しかいません。
ソフトバンクがトランプ氏に約束した対米投資を遂行するには、さらに多額の資金が必要になります。一体どのようにして1,000億ドルの資金調達を実現しようというのでしょうか。この計画に詳しい関係者によると、孫氏は資金の一部が外部投資家から得られると期待しているとのこと。
孫氏が2つ目のビジョン・ファンドを立ち上げようとしたとき、投資家らは反対したものです。自己資金によるビジョン・ファンド2は、市場のピーク時に資金を積み上げた後、37%下落しました。最大の痛手となったのは、ソフトバンクがビジョン・ファンドなどを通じて160億ドル以上を出資した後、破産保護を申請したウィーワークです。
孫氏のウィーワークへの関与は8年前に始まり、同社の共同創設者であるアダム・ニューマン氏の案内でマンハッタンのオフィスを約15分間見学し、その直後に孫氏は同社に40億ドル以上を投資することに同意しました。即断即決といえば、聞こえは良いでしょうが、十分な調査がなされたとは言い難く、そのしっぺ返しにあったと言われても否定できません。
そもそもそんな短い会社訪問と瞬時の投資の決断に至った背景は何だったのでしょうか。実は、当時、孫氏は次期大統領に会い、500億ドルの投資計画を発表するためにトランプタワーに向かう途中だったのです。トランプ氏との約束に遅れるわけにはいかないというので、焦っていたとのこと。
孫氏は長年にわたりハイテク業界で生き残ってきた自負もあり、手元資金の不足によってめったに思いとどまることはないようです。彼は借金によって助けられたことが何度もあり、この点もトランプ氏との共通点といえるでしょう。
ヤフーの日本部門と中国の電子商取引大手アリババへの出資金の回復に助けられ、彼は再建したわけです。彼は多額の借金を使ってボーダフォンの日本部門を買収し、同社が日本に初めてiPhoneを導入できるようにしました。実に巧妙な投資戦略です。
孫氏はAIの可能性を強く主張しており、OpenAIの株式を取得し、半導体チップスタートアップのグラフコアを買収するなど、この分野への投資を拡大してきました。孫氏は超AIの時代が到来すると強調し、それには数千億ドルの投資が必要になると述べています。孫氏は「次の大きな行動に移せるように資金を貯めている」と言いますが、詳細は不明です。
孫氏のソフトバンクは、過去8年間に2つの大規模な「ビジョン・ファンド」を運営し、自社資金とハイテク大手数社の資金に加え、サウジアラビアの公的投資基金からの数十億ドルを調達し、一連のハイテク企業に注ぎ込んできました。そうした資金は孫氏がトランプ大統領の1期目に掲げた500億ドルの公約を達成するのに役立ったことは間違いありませんが、雇用目標には達しませんでした。
孫氏は投資家に対し、ソフトバンクがAIとロボット工学のリーダーになりそうなので、「守りのモードから移行する」と語っています。要は「攻撃モード」に舵を切ったようにも見えますが、同社の有名なビジョン・ファンドはトランプ氏への1,000億ドルの約束については、いまだ沈黙を保ったまま。トランプ氏と一蓮托生の孫氏ですが、2人の飛び乗ったジェットコースターの着地点はどこでしょうか。
孫氏はトランプ氏が大統領に就任すると、間髪を入れず、ホワイトハウスに乗り込み、アメリカの新たなITビジネスの拠点づくりに名乗りを上げました。これは「スターゲート」と銘打った新規事業です。今後4年間でアメリカ国内にデータセンターなどAI関連のインフラ整備に5,000億ドル(約78兆円)を投資するとのこと。
ソフトバンクは「チャットGPT」を開発した「オープンAI」やソフトウェア大手の「オラクル」などと協力する模様です。トランプ大統領は再び大喜びで「アメリカ史上最大級のAI投資になる」と述べ、孫氏は「これこそアメリカの黄金時代の幕開けだ。トランプ大統領が望まなければ、この決断はなかった」と相槌を打ちました。
「スターゲート」の会長に就任する予定の孫氏は、「アメリカで新規雇用を10万人以上生み出す」と主張。しかし、この新規事業に疑問符を投げつけたのが「影の大統領」と異名を取るイーロン・マスク氏です。
マスク氏曰く「ソフトバンクにはそんな資金力はない。せいぜい100億ドルだろう。トータルで5,000億ドルもの投資をするなどできっこない話だ」。確かに、「ウォールストリートジャーナル」紙の調査でも、ソフトバンクの手元の資金力は300億ドル程度とのこと。世界1の大富豪で、トランプ大統領への個人献金ではほかを圧倒していたマスク氏の発言にはトランプ政権内にも動揺が広がっているようです。
何しろ、トランプ大統領の新たな目玉政策に対して、後ろから矢を放ったわけで、今後は孫対マスクの熾烈な「トランプ命合戦」が始まるかも知れません。マネーをすべてに優先してきたのがトランプ氏で、孫氏もマスク氏も同じ穴の狢。トランプ1期目もそうでしたが、内部の分裂が気になるところです。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『世界のトップを操る“ディープレディ”たち!』(ワック)など。
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