異次元金融緩和の多角的レビュー論評への違和感(前)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は2月18日発刊の第373号「異次元金融緩和の多角的レビュー論評への違和感」を紹介する。異次元金融緩和批判の大合唱
日銀は昨年末、異次元の金融緩和の多角的レビューを公表し、それをベースに多くの経済学者やエコノミストが議論を展開している。日経新聞、朝日新聞などのメディアも大きな記事として取り上げた。そこで伝えられた論点は、「2%インフレ目標の達成ができなかったばかりかあまりに多くの副作用(市場機能の圧殺、財政規律の弛緩等)を生んだ」という批判である。
判断の鍵はデフレの弊害をどう評価するか
しかし渡辺努東大教授が指摘するように、慢性デフレの弊害がどれほど大きいのかの分析をスルーして処方箋だけを議論することに意味はない。実際、東大名誉教授・吉川洋氏は「大規模緩和は全てが間違い」と切り捨てるが、その根拠はマイルドなデフレは脅威ではないというもの。「19世紀の英国を見ても、マイルドなデフレが実体経済に悪影響を顕著に与えることはない」(1/11朝日新聞)、との前提に立てば、異次元金融緩和に益はなく、害のみを引き起こすという直截的な結論は潔いものに映る。
2011年、日本資本主義は崩壊の危機に瀕していた
歴史的大実験であった異次元の金融緩和の生き証人として分析を続けてきた筆者から見れば、吉川氏のようなデフレ容認論は、歴史的事実に反する。リーマンショックから東日本大震災に至る過程で、日本は資本主義崩壊の危機に直面していた。円高とともにデフレが進行し、企業の稼ぐ力はいわゆる6重苦(円高、法人税高、電力高、労働規制、環境規制、EPAの遅れ)に苛まれて地に落ち、競争力は劇的に低下した。企業の価値創造能力は壊滅的状況に陥っていた。
かつて日本が栄華を極めたelectronics産業は、次々に破綻していった。最先端ハイテクの生産はほぼ全て韓国、台湾、中国に移転した。2012年には日本に残っていた先端半導体産業の連合軍エルピーダメモリーが破綻し、米国のマイクロンテクノロジーに買収された。その趨勢が続いたならば、10年余り後の今日、日本のハイテク製造業は壊滅していたであろう。
しかし今日、日本のハイテク製造業は劇的に蘇生しつつある。日本たたきに狂奔した米国が、中国抑制戦略の一環として対日半導体協力を求めたからである。大逆風は大順風に変わり、全ての歯車が順回転となり熊本や千歳などで半導体産業投資の好循環に入りつつある。
2021年4月の菅バイデン会談での日米半導体協力声明、翌月の安倍・麻生・甘利氏の呼びかけによる自民党の半導体議連発足、2021年10月のTSMC熊本進出と4,700億円の政府補助、最先端半導体製造企業ラピダス創設とIBMの技術提供、との一連の流れは、全て政治主導の変化であった。
異次元金融緩和が日本企業の稼ぐ力を立て直した
この絶望の淵の2011年と2021年の米国からの半導体協力要請までの10年間に日本の産業環境は激変し、日本復活の土台が整えられていた。それを主導したものがアベノミクスと異次元の金融緩和である。米国が日米半導体協力を求めてきても2011年の衰退が続いていたならば、日本のハイテク産業基盤は壊滅しており、日本は米国の要請に何も答えられなかったであろう。
(つづく)
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