現代アートは資本主義を最も先鋭的に表現する!(5)
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東京画廊代表取締役社長 山本豊津氏
ゴーギャンの絵は、約1m四方で金7トンに相当する
――だんだん、現代アートは「資本主義」そのものであることがわかってきました。ところで、先生は現代アートから資本主義の終焉を読み取ることができると書かれています。どういうことでしょうか。
確かに、余ったお金が金やダイヤモンド採掘による環境破壊やバブルの時のように不動産などに回るより美術品に回った方が世の中のためにはなるとは言えます。ごくごくわずかの富裕層間におけるお金の移動で済み、一般の方に多大な悪影響を及ぼす可能性はないからです。山本 最も顕著なのは、美術品が高額になったことです。ゴーギャンの『ナフェア・ファア・イポイポ(いつ結婚するの)』に約355億円、次いでポール・セザンヌの『カード遊びをする人々』に約325億という価格がつきました。つまりゴーギャンの絵は、約1m四方で金7トンに相当するわけです。いかに世界中に、お金がダブついているかを象徴していると思います。このまま世界各国でお金を刷り続ければ、約1m四方で1千億円の絵が出てくることも考えられるのです。
日本も、デフレ解消のために、日銀はお金を刷り続けています。しかし、インフレはまったく起きず、お金だけがダブつき、社会にまったく還元されず、美術品などに回っています。しかし問題は、「社会にまったく還元されない、お札をそんなに、刷り続けるのはいかがなものか」ということです。ここに、現代アートから見た資本主義の終焉を見ることができます。
250軒以上のギャラリーが集合する北京の798芸術区
――その現代アートですが、市場の中心がヨーロッパから米国、そして今は中国に移りつつあると聞きます。
山本 アートの市場はまさに世界経済の成長センターの変遷とともに移動しています。イギリス、フランスを最初の中心とすると、最初の周縁はイタリア、ドイツ、スペイン、ロシアになります。そして、第2の周縁は米国です。1964年、ラウシェンバーグがヴェネツィア・ビエンナーレで最優秀賞を受賞、これによって、芸術の分野でも、米国は世界の中心に立ち、芸術の中心はパリからニューヨークに移りました。そして現在、時代は西欧からアジアへ、そのアジアの中心である中国が第3の周縁を形成しつつあります。特に、
2002年に弟がB.T.A.P(BEIJING TOKYO ART PROJECTS)をオープンした、北京の
798芸術区のギャリー街はすごいです。200軒以上のギャラリーが集合し、すでにニューヨーク近代美術館や、グッゲンハイム、ポンピドゥー・センターなど世界のあらゆる美術関係者が視察に来ています。ベルリンに世界中の才能のある芸術家が集まっています
こうして、世界経済の成長センターは次々と周縁に拡がっていくのですが、最初の中心は動きません。美術市場の中心と言えば、依然としてヨーロッパなのです。そして、現在は1989年にヴェネツィア・ビエンナーレで、ハンス・ハーケ(ドイツ)最優秀賞を受賞して以来、ベルリンに世界中の才能のある芸術家が集まっています。日本からも、才能のある若手芸術家がたくさん渡独しています。国家の攻防は、才能ある人間を世界からどのぐらい集められるかで決まります。その点で、今ドイツは熱いです。
アート・バーゼルは、マイアミ・ビーチと香港でも開催
一方で美術品が多く扱われるのはアートフェアです。世界のアートフェアの中心はスイス第3の都市バーゼル(国際決済銀行本部や美術史上で名高いバーゼル大学などがある)にあります。毎年6月に、そこで開催される「アート・バーゼル」が、取引高で世界最大のアートフェアとなっています。メイン会場には、300以上の出展ギャラリーが集合、近代から現代の美術品が紹介されます。出展されるアーティストは約4千人、来場者は7万人を数え、売上金額は100億円以上と言われています。
このアート・バーゼルは、今や米国のマイアミ・ビーチ(北米と南米双方の富裕層をターゲット)、香港(中国本土と華僑双方の富裕層をターゲット)でも開催されています。しっかりと、第2の周縁である米国と第3の周縁である中国に拠点を持っているのです。世界の美術品の総売上(2013年)は、欧州美術財団(TEFAF)によれば、約6兆7,000億円で、そのうちの38%は米国(第1位)、24%は中国(第2位)が占めています。
ただし、今のところ、中国の次に資本が移動する第4の周縁はないだろうと言われています。私も世界の多くのアートフェアに行っていますが、同じ感触を得ています。この点にも、現代アートから見た、資本主義の終焉を感じています。「自分がなぜここにいるのか」その意味をしっかり考える
――最後になりました。読者にメッセージをいただけますか。
山本 若い方には、できるだけ早いうちに、「自分がなぜここにいるのか」その意味をしっかり考えていただきたいと思います。例えば私は銀座にいる、では、銀座とは何か、東京とは何か、日本とは何か、東アジアとは何か、と自分を中心に周縁をどんどん拡大していき、政治・文化などを含めて自分の生きている、環境と意味を探るわけです。
そのための1つのヒントとして、私は進化生物学者、ジャレド・メイスン・ダイアモンド(UCLA社会科学部教授)の名著『銃・病原菌・鉄』をお薦めします。これは文明史の本です。もう1つ申し上げたいのは、年齢にもよりますが、男性は日本の伝統的な芸(華道、茶道など)などを身に着けることをお薦めします。フランス人などの自宅を訪問する場合は、相手のことを考え、それに相応しい花などを自分で選んで持参することも一般的です。その際、あなたが持参した花をその場で活けることができたら素晴らしいと思いませんか。
このような些細なきっかけから、コミュニケーションが円滑になり、大きな商談などが
決ります。――本日はありがとうございました。
(了)
【金木 亮憲】【注】『銃・病原菌・鉄』(草思社文庫)ジャレド・メイスン・ダイアモンド著、倉骨 彰訳
世界史の勢力地図は、侵略と淘汰が繰り返されるなかで幾度となく塗り替えられてきている。では、歴史の勝者と敗者を分けている要因とは何か、銃器や金属器技術の有無、農耕収穫物や家畜の種類、運搬・移動手段の差異、情報を伝達し保持する文字の存在など多岐にわたり分析している。「ミクロサロン」2015 12月11日(金)~26日(土)の期間、東京画廊+BTAPでは、1年の最後を締めくくる展覧会として、国内外問わず新世代からキャリアを積んだベテランアーティストまでの作品を一挙に、銀座ギャラリーに展示する。
<プロフィール>
山本 豊津(やまもと・ほづ)
東京画廊代表取締役社長。1948年、東京生まれ。71年、武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。元大蔵大臣村山達雄秘書。2014、15年アート・バーゼル(香港)、15年アート・バーゼル(スイス)へ出展、日本の現代美術を紹介。アートフェア東京のコミッティ、全銀座会の催事委員を務め多くのプロジェクトを手がける。02年には、弟の田畑幸人氏が北京にB.T.A.P(BEIJING TOKYO ART PROJECTS)をオープンした。関連記事
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